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16-2.次に標的にされる
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どれだけ、あの空間の中にいたかはわからないが。
穫は、いまだに抱きしめてくれている笑也の頭をそっと撫でた。その仕草に、笑也はさらに腕の力を強めてきたので、流石に苦しくなった。
が、穫が声をかける前に誰かが笑也の頭を叩いた。
緩んだ腕から顔を上げれば、何故か月詠がハリセンを手にしていたのだった。
「落ち着きなさい、笑也。姉上を憑依出来る器とて、番の危機にももっと冷静になさい」
「ほんとほんと」
エミも戻っていたようで、まだうずくまっている笑也の頭を軽くぽかぽかと叩いていた。
佐和は、と辺りを見ればソファにもたれながら静かに眠っていた。
「佐和、ちゃん?」
「大丈夫よ、みのりん? ちょっと、離魂の術使ったから体力回復まで寝ちゃってるだけ」
「り、こん?」
「前に、みのりんのおばあちゃんが使ってたアレ」
「あ」
そんな危険な術を使ってまで、穫はあの空間に。あの光に導かれてしまったのか。
本当に申し訳なく思ったが、エミに軽くデコピンされてしまった。
「みのりんのせいじゃないわよん? 悪いのはあいつ。みのりんの魂を引っ張ってったあいつ」
「……あいつ?」
「姉上。姉上が行かれてから、あれの残滓を調べました。やはり、彼奴でしたか?」
「そうよ。全く、あんたの術に綻びが出来たんじゃないの?」
「それはないつもりでいましたが……」
「? あの……?」
「「穫!!」」
二人の会話の意味がわからないでいると、笑也の上から咲夜と羅衣鬼が抱きついて来た。
当然、挟まれた笑也が潰れそうになってしまい。
穫も押しつぶされそうになったので、慌てて二人には離れてもらった。
「……心配かけてごめんね?」
「「穫は悪くない!!」」
息ぴったりに言い切る二人に、これは苦笑いするしか出来なかった。
「とりあえず、みのりんにも言うわ」
月詠との話が終わったらしく、エミは穫の頭を軽くぽんぽんと撫でて来た。
「みのりんをあんな目に遭わせたのは……。八岐大蛇の尾よ?」
「お、ろち?」
「姉者、誠か!?」
聞いたことがあるようなないような、と首をひねっていたら。ずっと黙っていた須佐が声を上げたのだった。
「マジのマジ。あんたがくっしーを嫁にした後の処理を、月詠がしたんだけど。尾の部分は意思を持ってた。だから、ずっとずっと封印してたんだけど……どーゆーわけか、その封印に綻びが出来たのよん。で、なんでか狙いはあんたや月詠じゃなくてみのりん」
「……変だな」
「あいつ、言ってたわ。みのりんに相応しいのは笑也じゃなくて、自分だって」
「……なんだって!?」
ずっと痛みに悶えていた笑也が顔を上げた瞬間。
ちょうど穫の顎に頭が当たってしまい。
今度は穫までも、痛みに悶える羽目になってしまったのだった。
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