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10-3.すれ違い(斎視点)
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足りない材料を買いに出ただけなのに。
まさか、分家の分家。
今度謝罪に行く予定であった少女、穫と道端で出会うだなんて思わなかった。
斎よりは、少し短い髪。
背も低くて、けど年相応に愛らしい顔立ちだ。
斎は万乗の当主として、大学には行けなかったが家庭教師などのお陰で大学の講義を受けていた。
もう数年前だが、あの頃も斎は窮屈な生活を強いられていたのだ。それを苦に思ってた時期もあったが、斎もいい大人だ。憂いたところで遅い。
「けれど。内に宿したあの霊力……私以上だわ」
稀代の術師がなんだ。
万乗の宝剣、金剛刀を宿していない時点で、既にただの小娘同然だ。穫の域に行くには到底無理である。
「……そんなことないですよ」
「……水無」
護衛について来ていた、分家の青年が建物から降りてきた。
市街あたりだが見られないようにしているはず。
だから、不機嫌な彼に斎は苦笑いしか出来なかった。
「術師としての功績は、斎様の方が格段に上です」
「ふふ。ありがとう……」
けれど、事実は事実。
十束の剣を宿していない術師など、役に立つわけがない。
だったら、呪怨などとっくに消滅出来たかもしれないのに。今は穫が一人で背負っているのだ。何が当主だ、と斎は自分を責めてしまう。
詫びにも何にもならないが、手作りの菓子を作ったところで受け入れられるだなんて思っていない。
そんな奢った考え方は、仮面をかぶってももうしたくないからだ。
「ところで、斎様。出る時にも言いましたけど、買い出しなら俺とか由良に頼んでくださいよ」
「ふふ。たまには自分の足で歩きたかったの。修練以外じゃそんな運動もしないし」
「そんじょそこらの女が、斎様に勝てると思わないですけど」
「そうかもしれないけど、自分で材料を集めたかったのよ」
普通の女ではないけど、少し普通でありたい。
そんな気持ちになろうと思ったのは、幸か不幸かわからないけれど、穫がきっかけだと思う。当主として何不自由でない生活を送れても。
斎が、普通の女になりたいと思えたのだから。
水無にはわからないような表情をされたが、それはそれでいい。
とりあえず、ここからは二人で帰ろうと言えば彼は軽く頭をかいて。
護衛の装束を解除して、ごく普通の男性の服装になった。
ただ、驚いたのは。
幼い頃以来、目にしてなかった縁戚の青年は。
斎とそう変わらない、二十代の男性らしい、いわゆるイケメンに育っていたのだ。自分で見せてと言いながら、斎の胸が少しときめいたのだった。
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