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10-4.カップ麺でお好み焼き

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 *・*・*








 その日の夕飯は。


「カップ麺を使って、お好み焼きを作ります」
「あら、そうなの~?」


 バイトが終わってから、笑也えみやの部屋に帰ってきたみのりはカップ麺の入れ物を持ちながら、エミに提案したのだ。

 今日は帰ってきてから、エミは笑也に憑いていたのである。


「ちょっと、カップ麺の消費が追いついていないので。これを機に、作ってみます。公式ホームページに載ってたので」
「あらん? 笑也が関わっているのもあるかもしれないわね~?」
「そうなんですか?」
「まあ、研究家は一人じゃないから。全部が全部じゃないけど」
「うーん? ホームページにはその情報ないですね?」
「あくまで、関係者だもの」
「なるほど」


 作るのに、咲夜さくや達に顕現してもらい。まずはカップ麺の下ごしらえからだ。


「穫ー? これこのまま食うんじゃねーの?」
「違うのよ。砕いて使うの」
「え!? もったいなくね!?」
「そう言う料理なの。羅衣鬼らいき君と咲夜には、袋に入れたこれを細かく砕いて欲しいの」
「応」
「えー……? 美味いの?」


 穫も初体験ではあるが、材料があって作れるのなら作るしかない。

 カップ麺の封を開けて、ジップロック付きのビニール袋に全部入れて。

 最初の頃に、整頓した時に見つけた麺棒を使って袋の上から粉々にするように叩いていく。

 半分だけ穫は手伝ってから、キャベツの千切りに取り掛かる。ここは、実家の食堂で手伝ってた経験もあるので、ささっと切って。

 二人からは歓声が何故か上がったが。


「凄い」
「穫、すっげ!? 包丁の扱い上手いじゃん!!」
「実家で手伝ってたからかなあ?」
「それ、これと混ぜんの?」
「えーと、ちょっと待ってね?」


 混ぜて焼くのはすぐなので、たくみを内線で呼んでから焼くことにした。


「おーっす! 今日の夕飯何なん?」
「カップ麺を使ってお好み焼きです!」
「……美味いの?」
「私も初挑戦です!」
「……おー」


 下ごしらえした材料を。

 小麦粉少量、卵に砕いたカップ麺一個分に千切りしたキャベツに水。あとは彩りも考えて小ネギも入れて。

 全部混ぜたら、これまた発掘したホットプレートをリビングに持って行って電源を入れて。

 大きめに一枚焼いたら、それをピザのように取り分けるようにコテで切っていると。


「え? シェア? 一人一枚ないん? 白飯に味噌汁は??」


 ひとり関西人である巧が矢継ぎ早に聞いてきたのだった。


「出た、巧の関西魂~」


 エミ、と言うか笑也は幼馴染みなので彼の食事関係も知っているのだ。


「せやかて、お好み焼きやで? やったら、お好み焼き定食やろ?」
「今日はみのりんが提案してくれたお好み焼きなんだから、一緒にしないの!」
「……ソースないけど」
「聞いてんの!?」
「ま、まあまあ。食べましょう?」


 とりあえず、インスタントのわかめスープと一緒に食べることになり。

 本当に、味付けはカップ麺のスープだけにしているが。

 箸で切り分けると、普通のお好み焼きよりはもっちりとした感触が伝わってきた。


「ん!?」
「ま!?」


 穫が口に入れる前に、巧と羅衣鬼が声を上げた。


「なんなん!? 味は濃いし、ソースなくてもいける!? けど、これは米欲しいわ!!」
「もちっとしてるし、食べ応えあるし!? うんめ、美味!?」


 がっつくように食べる二人に続き、穫もひとくち。

 たしかに、生地にカップ麺のスープの味が濃いめに染み渡っていて、ソースをつけずとも十分に美味しい。

 しかし、これに米と味噌汁が合うかは謎だった。


「みのりんー、二枚目はチーズ挟んでくれる~?」


 とりあえず、エミには好評だったのでほっとは出来たが。


「こりゃ驚いたわ! けど、せっかくや。穫ちゃんには本場のお好み焼き食わしたるわ。俺が明日作ったる!!」
「え、いいんですか?」
「ハウスキーパーの仕事も頑張っとる労いや。気にせんでええで?」
「わあ!」
「豚玉、イカ玉、モダンどれがええ?」
「モダン?」
「んー? 広島風に似た焼きそば入りのお好み焼きよん?」
「じゃあ、それ食べてみたいです!!」
「おっしゃ! 腕が鳴るわ!!」


 こんな楽しい毎日があっていいのだろうか。

 呪怨は、あれから姿を見せないでいるが。

 死傷者を増やしているかもしれない。けど、先に万乗ばんじょうの当主とも会うのだ。

 もし、協力し合えるのであれば。彼らときちんと話がしたいと思っている。
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