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3-1.腐海再び

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 *・*・*






 金剛刀こんごうとう咲夜さくやと名付けた翌日の日曜日。

 昨夜の後片付けと、咲夜の名付けのことなどを報告すべく、お隣さんとなった達川たちかわ笑也えみやの自宅に向かう。

 隣でも、高級マンションの一室は高校の教室の幅並みに遠い。

 きちんと、人間の女の子に変身した咲夜を連れて向かい。昨日管理人兼コンシェルジュのたくみから預かった、スペアキーのカードキーを差し込み。

 さすがに昨日のあれだけでは、一昨日の腐海までは到達してないと思ったが。


「……うわぁ」
「……おぉ」


 二人の目に写ったのは、みのりが初回に見た時と同じようなレトルトやインスタント食品の箱の海と山。

 半日足らずで、よくここまで出来たものだと感心しかけたが。穫達が帰宅してから何が起きたか。巧の方はコンシェルジュの仕事があるからかいないようには見えた。


「咲夜」
「うん?」
「早速お仕事開始だよ!」
「わかった」


 ゴミの仕分けとかは初めてでも、やり方は穫が一昨日頑張っていたのを内側から見てたそうなので。巧が一昨日開けた場所を漁って、まずはゴミ袋を準備。

 そして、玄関スペースを綺麗にしてから廊下を進む。

 他の扉の向こうまでは侵食していないようなので。どんどんどんどんゴミ袋の山も出来て行く。出来上がったら、内線の仕組みも巧に事前に教わったので彼を呼ぶ予定だ。

 リビングに到達した頃には。あれだけ綺麗にしてあったのが、腐海の森の深遠かと思えるフィールドと化していたのだった。


「……え、みやさん? エミさん?」
「……すごいな」


 笑也が今エミなのか元の状態なのかはわからないが。とりあえず、咲夜と発掘作業を開始した。

 とここで、玄関から誰かが入って来る音が聞こえたので穫が向かえば。


「お? 早速バイト開始してくれてたんやな?」
「おはようございます、巧さん」
「おはようさん。なんかもう一人女の子の靴あんやけど。まさか、金剛刀?」
「はい。名付けもしたので、今は咲夜と呼んでます」
「そっか。男寄りやけど、女にもなれるんか?」
「はい。今リビングで発掘作業中です」
「んじゃ、俺はちょぉ業者呼んでくるわ。これだけあんなら、どんどんここに持って来てくれへん?」
「わかりました」


 そして、三十分後くらいに。

 粗方片付け終わった達川宅は、へべれけのエミに、須佐すさ月詠つくよみが仲良く倒れている図となった。


「起きろ、お前ら!!」


 神にも堂々と一喝する巧は彼らと付き合いが長いのか、人間も神も関係ない感じだ。とりあえず、穫は酔い覚まし用の緑茶を咲夜と淹れることにした。

 と言っても、スティックのインスタントなのでお湯に溶かすだけだが。

 湯呑みに入れて、氷を少々。飲みやすい温度にしてから行けば、ソファにぐったりしているエミ達がいた。


「俺が帰った後も、どんだけ飲み食いしたんや!?」
「……あったま痛いんだから、無茶言わ……な」


 と、言い返そうとしていたエミが。と言うより依代だった笑也の限界だったのか。元の笑也の姿に戻ってしまった。顔色もすこぶる悪かった。


「……姉者が戻ったのなら、俺もひとまず帰る」
「すみません、私も」


 急ぐ必要があるかわからないのに、二神も消えるように帰ってしまったのだった。

 すると、巧が大きなため息を吐いた。


「あ、いっ変わらずのシスコンやわ。あいつら」
「シスコン……ですか?」
「まあ。大昔色々あり過ぎたこともあるけど。……っと、そっちの子が例の咲夜?」
「あ、はい」
「……咲夜だ」


 外見年齢は大体穫と同じ十九か二十歳くらい。白過ぎる肌に、艶やかな黒髪は肩下まで。目もぱっちり二重で真っ黒。美人と言うよりも可愛い系。咲夜と言う名前がぴったりの美少女になったのだ。

 言葉遣いは、元の男寄りになってはいるがクールビューティーに見えてなおよし。


「ほー? かいらしい子やなあ?……おい、笑也! 金剛刀の今の姿見たり!」
「ん? んー……あ」


 起き上がったので、穫は温めの緑茶を差し出した。その時に目を開けた彼が咲夜を視界に捉えたのだろう。

 緑茶を受け取ってから、きょとんとした顔になったのだ。


「……改めて。金剛刀の咲夜だ」
「……イタコの達川笑也だよ。へー? 十束とつかの一端が。僕も穫ちゃんを守るけど、よろしくね?」
「……応」


 十束がいまいちわからない単語だが。

 それについても説明してくれるようで、まずは笑也から臭う酒臭さを軽減するために。彼は風呂に行ってしまった。

 その間に、穫は巧と咲夜とで、残りのゴミや食器の片付けをしたのだった。
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