イタコ(?)さんと神様は、インスタント食品がお好きだそうな?

櫛田こころ

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3-2.十束の剣でも

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 *・*・*






 酒の臭いなども、綺麗さっぱりしてきた笑也えみや金剛刀こんごうとう咲夜さくやを間にして。みのりもその隣に。

 それでも余裕でスペースがあるこのソファは、いったいどれくらいのお値段がするのか。

 それはどうでもいいとして、笑也は咲夜の方をじっと見つめていた。


「……?」
「……うん。擬態はしてるけど、たしかに十束とつかの一端だね?」
「応」
「あの……笑也さん。とつかって、エミさんも言っていましたが」
「ああ。諸説……色々言われているんだけど。簡単に言うと、エミの配下だったし。須佐すさの持っていたつるぎだったんだよ。十束っていうのは、長さの単位らしいんだ」


 合ってるか、と笑也が咲夜に聞けば、彼女は首を縦に振った。


「十束の謂れのように……私の剣としての役割は、『布都御魂ふつのみたま』。武甕雷たけみかづち大国主おおくにぬしへの威嚇の時に使われた」
「へー? そっちか?」
「たけ……え? ふつ??」
「穫ちゃん、わからんのも無理ないわ。俺かて全然やわ!」
「偉ぶらないの、巧」
「せやかて、どゆ意味?」


 とここで。

 咲夜が使われていたと言われる伝承を、笑也から簡単に教えてもらうことになった。


「まず、十束の剣の伝承は一個じゃない。複数あるんだ」
「エミらにいろんな伝承があるのは当然やな?」
「そこ語ると一週間で済まないから。そうじゃなくて、穫ちゃんにわかりやすく言うんだから」
「へーへー」
「穫ちゃん、日本書紀とか古事記って習ったよね?」
「大雑把には……専攻は一応民俗学ですけど」


 古事記あたりは嫌いじゃないが、まだまだゲームで取り扱われるような分類しか認知していない。

 穫が興味を持ったのは、どちらかと言えば妖怪学に近い。不可思議、不思議を取り扱う学問に、穫は昔から興味があった。

 霊視能力で見てきたこれまでを思うと悪い方向が多かったが、全部が全部じゃない。良い妖怪とかも居たりしたからだ。

 その理由を話しても、笑也は馬鹿にすることもなく頷いてくれた。


「うん。まあ、神仏とかも色々伝承や諸説は多いけどね? 咲夜が表舞台に立ったのは、大国主って神とエミの天照大神あまてらすおおみかみが関係してるんだけど」
「エミさんと?」
「正確には、その部下……とでも言うのかな? さっき咲夜が言った武甕雷って神。彼が、人間界を治めていた大国主……出雲大社の神と出会う重要な場面に使われたんだよ」


 だいぶ噛み砕いて説明してくれるので、穫にもとてもわかりやすかった。


「どう使われたんですか?」
「穫ちゃんはどう思う?」
「ん? んー……失礼ですけど、剣の先を突きつけたりとか?」
「着眼点はいいけど。彼の場合は違ったね? 大国主の前で、咲夜を海に逆さに刺して。剣先であぐらをかいたんだよ。で、大国主に威嚇したってわけ。合ってる?」
「応。穫に言うのなら、そのくらいだろう」
「け、剣先であぐら?」


 器用だとしか思えないが、それくらい重要なことだったんだろう。


「で。色々人間界で渡ったとされているんだけど。……実際には穫ちゃんの体内。万乗ばんじょう家の人間の中に封じられていた。経緯は、昨日の通り……か」


 説明が終わったところで、笑也は残っていたお茶を飲んだ。


「まー、神さんには色々都合あるやろ。咲夜もそん中のひとつだったら、別におかしくないで? けど、穫ちゃんに継承されたんなら。万乗の本家とかはおもろないんやろうなあ?」
「そう言うこと。けど、咲夜が穫ちゃんに憑いているのはある意味ラッキーだったね? 魑魅魍魎とかからは護れるし、自衛も出来なくない。けど、ひとりでは出来ないから。僕とエミの出番だね」


 そう言うと、笑也は穫の前にひざまずいて。何故か右手を取ったのだった。


「え、え?」
「僕、達川たちかわ笑也は汝と契約する。この契約が終わるまでは、汝を何者からも護ろう」


 そして、穫には見えている五芒星のあの印の上に口づけられた途端、その模様が一瞬光り出したのだった。


「……かなり、用心しとんな?」


 巧が神妙な面持ちになると、笑也は苦笑いした。


「……誰も死なせない、穫ちゃんのお願いのためだよ」


 とりあえず、今日は穫の引っ越しの残りを片付けようと。笑也や巧まで手伝ってくれることになったのだ。
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