完結 R18 わたくし単なる悪女でございましたが、なぜだか巨大ロボットを操縦しています。

にじくす まさしよ

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6 まさかの

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 キュービクルの必殺技で倒れたノウキは、意識不明になっていただけのようだ。もともとUMAの研究室に運ぶ予定だったが生体反応を確認したので、治療を施すことに。
 といっても、なにが起こるかわからないので、体中をぐるぐる巻きにして、羽は使えないように固定している状態でだけれども。

「あ、気づいた」

 目が覚めたノウキは、目の前にいる白い服を着ているメガネの美女を認識すると、なんと人語を話した。

「お前、どうしてここに……」
「はい? どちらかというと、ここはどこだーとか、お前はだれだーとか、くっ殺せーとかじゃないの?」
「は? グラス、なにふざけたことを言ってるんだ。しかもそんな下賤な庶民のような言葉遣いなど……」

 よくわからない言葉を続けながらも興奮していくノウキ。これ以上は危険だと、彼が話しかけていたDrグラスは、グサッグサッとペン型の超強力鎮静剤を彼に突き立てた。一度肌に当てれば十分なのに、これでもかと何本も。

 因みに、ドクターとノウキは別の部屋にいる。しかも、何百メートルも離れた場所だ。ドクターは、軍医ではあるが戦闘は基本的なものしかできないので安全な場所にいるのは当然だ。話すのはモニター越しだし、遠隔操作で眠らせていたわけだけど。

「あの、ドクター?」
「あら、おほほ。私としたことが。UMAというだけでなく、こいつを見ているとなんだか無性に腹が立っちゃって」

 わたくしは、ドクターに前々から聞きたいことがあったので、確認するためにここに偶然いただけなのだけれど、まさかノウキが目を覚ます瞬間に立ち会うとは思っていなかった。そして、ふたりのやりとりを見て、わたくしの考えが確信に変わる。

「ドクター、いえ、グラスさん。あなた、もしかしたら前世の記憶がありませんか? 顔だけですけれど、あのUMAに心当たりや、個人的な強い憎しみなどありませんか? 別人だった思い出の欠片でもなんでもいいんですけれど……」

 もしも、見当違いで変な子扱いされてもかまわない。そう思って聞いたのだが、グラスの反応は想像以上のものだった。

「やっだー、タイムさん。なんだー、あなたも知っていたの? 思い出したと言うべきかしら。いつから?」

 彼女は、ノウキの前世での元婚約者だった。ノウキがメガーに入れ込んだので、さっさと見切りをつけて婚約解消をして、もっと良い男性と婚約したのである。

 婚約解消した直後の彼女の、人生の汚点だと言わんばかりの、『損きりはさっさとやるべし。あの人がらみの時間がもったいなかったわ。ま、でも、いろいろ勉強になったから、授業料ってとこかしら。それに、婚約者の時に、ノウキ個人の権利や会社の半分を合法的に手に入れることに成功していたしね』という言葉に感心したものだった。

 わたくしたちはお互いの状況を確認しあった。

「あの時は、助けてあげられなくてごめんなさい。言い訳になるけれど、あなたの友人たちも閉じ込められたり家族を人質にとられてしまっていて。私は別の国にいたし……」
「いいえ、いいえ……前世のことは、なんというかドラマを見ているようで、自分のことだけど、自分じゃないというか。それに、どうすることもできなかったと思いますし、わたくしが差し伸べてくださろうとする手を、犠牲者を増やしたくないから掴まなかったかと。だから、そんな風に頭を下げないでくださいませ。それよりも、わたくしは友人たちに裏切られていなかったんですね。当時は、本当に世界で一人ぼっちになった気がしていて……そのことを知れてとても嬉しいです」

 ノウキは、いびきをかきながら眠っている。尋問するには起こさなければならないが、見ていてむかむかするし、軍部の専門家を呼んで交代した。彼は、医学と科学、そしてごうも……、尋問のプロだ。肉体的にも精神的にも、相手にとってどのようにアプローチすればいいかをすぐに探り当てて、期待以上のデータを採る事にたけている。

「お任せください。得意分野ですから」
「マディ・サイエティ中尉、貴重なサンプルですから、ほどほどにしてくださいね」
「おやまあ、いつもみたいに壊さないようにとか釘を刺さないんですね?」
「人間じゃないし、頑丈そうだから」

 マディさんは、面白いおもちゃを見つけたかのようににこにこしている。

 余談だけれど、彼こそがグラスさんの新しい婚約者だった人で、彼にも記憶があるらしい。今は、とっくに結婚しているとのことだった。

 つまり、彼は妻の元婚約者の裏切り者で、しかも人類の敵に対して容赦はしなさそうだということ。少しだけノウキに同情してしまうが、これも人類の未来のため、ほんの少し私怨を晴らすため。他の仲間やメガーのことなどをしっかり聞き出してもらいたい。

 わたくしたちは、グラスさんの私室に移動した。私室はプライバシーが守られている。ここならどんな話をしていても外部にはもれない。

「あれから、あの国は自滅をしたわ。メガーが暴君のようになっちゃって、皆国を見捨てたの」
「やっぱりそうですか……国民たちには迷惑なことでしたね」

 少し、寂しいような、でもやっぱりどこか歴史の一コマのような気がする。わたくしは、結構薄情な人間だったようだ。

 出されたエナドリを飲んで、チョコとナッツがキャラメルに包まれたプロテインバーにかじりつく。今日は訓練が休みだから、夕食は控えめにしないといけなさそう。

「いいのよ。国民ったら、タイムさんがどれほど自分たちのために身も心も削っていたかも知らず、ずーっと不満や愚痴をあなたにぶつけていたんだし。あなたを偲ぶ人たちはなんとか助けることができたから良しとしましょう」
「良しとしていいんでしょうか」
「100%完璧なことなんてできないわ。出来ることを出来る範囲でするしかないじゃない。ふふふ、今のあなたたちと一緒よ。それにしても、カエリズミさんは覚えてないのねぇ。あなたの忠実な侍女だったのに。それでも、前世と同じようにあなたLOVEなようで安心したわ」
「LOVEって誤解をまねきかねないような言い方はしないでくださいませ。彼女は全く覚えてなさそうです」
「ふふ、あなたたちを見ていると、なんだか前世がなつかしくなるの。勿論、楽しくて幸せだった学園生活のことよ。今も昔も、女の子たちに人気なのね」
「わたくしは大した人間じゃないんですけど、これも、皆様の優しい気持ちのおかげですわ」
「いきすぎた謙遜は嫌味よ。さ、そろそろデータも取れたことでしょうし戻りましょうか」
「ええ」

 わたくしたちが、元居た場所にたどり着くと、別の敵が襲来したことを伝えられたのであった。


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