完結 R18 わたくし単なる悪女でございましたが、なぜだか巨大ロボットを操縦しています。

にじくす まさしよ

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 色んな感情が渦巻く中、わたくしたちにいきなり出動命令がでた。

「女王アリを直接守っている個体が発見されたようだ。UMAもそろそろ本気で地球を侵略しはじめたのだろう」

 始めての実践だ。これまでのようにシロアリたちの先発隊だけなら、キュービクルでなくとも迎撃できていた。
 先発隊は女王アリやその護衛であろう親衛隊たちとちがい、体がやや小さい。しかも、統制されているがここに思考するということはない。だから、対アリ用の軍の兵器や戦闘機で十分だった。

 ただ、今回女王アリの親衛隊とも言える個体が現れた。彼らは独自で思考し、そして先発隊を指揮する。それは、まるで有能な軍師のようで、かろうじて逃亡させることができるが、こちらも甚大な被害に見舞われていた。

 だけど、パイロット候補生たちが、実践レベルまで成長した今、キュービクルを出動させて、司令塔を破壊した方が良い。

「いきなり?」
「いつかこんなことになるとは思っていましたが、まさか、こんな急に……」

 今の今まで、絶対にやっつけてやるという高揚感と決意に満ちていた後輩たちは、戸惑いの色が強くなった。

「どうしよう……覚悟は決めていたはずなのに、こ、怖くてたまりません……」

 不安そうに眉をさげる彼女は、優しくて大人しく、そして引っ込み思案な少女だ。だけど、ひとたびキュービクルに乗り込むと、人が変わったかのように操作を始める。わたくし達の中では抜きん出て力を発揮できていた。

 ただ、訓練と違うのだ。しかも、最終試験に合格した今、わたくしたちは正式な軍人。皆の士気を下げるような発言はご法度だ。

「ええ、そうね。わたくしも恐ろしいわ。でも、俯いてはダメ。顔をしっかりあげて、顎を引き、背筋を伸ばすの。気持ちで負けていたら、たとえ相手が孵化したてでも勝てなくてよ」
「おねえさま……」

 それ以上、懲罰になりかねない言葉を封じるために、わたくしは足を肩幅に広げた。そして、しっかり司令官を見つめる。

「提督、キュービクルの初陣は誰が?」

 誰が、この名誉と死と隣合わせの始めての戦いに行くのだろうか。

 自分かもしれないし、別の誰かかもしれない。

 選ばれてほしいのか、そうでないほうがいいのか、自分でも気持ちがわからなかった。おそらく、ここにいる全員がそうだろう。

 司令官たちは、すでに決めていたようだ。敵の動きは瞬時に解析され、すでに軍隊は動いている。

 わたくしは、選ばれたペアたちに、しっかり手を振った。あの子たちが、無事で返ってくるように祈りながら。

「さあ、皆。あんな脳まで筋肉でできているようなボス、あなたたちの敵じゃないわ。大丈夫、皆様が雑魚たちからしっかり守ってくださるわ。自分を、今日まで鍛えてくださったコーチたちを信じて。そして、はやく笑顔を見せに帰ってきて頂戴」

「はいっ! おねえさま!」

 後輩たちは二人一組になり、キュービクルに乗り込んだ。コクピットにいる彼女たちは、巨大スクリーンに映し出されている。

「カエリズミ……」

「心配か?」
「コーチ……心配しないでいられる人なんて、ここにはいません。でも、それ以上に、彼女たちを信じているんです。だって、皆で今日まで頑張ったのですもの」
「ああ、そうだ。今回やってきたのは、女王の最側近のひとりと思われる。だが、直情的というか、自分が突っ走るために雑魚たちの統率が苦手なようだ」
「そこまでわかっているんですか?」
「以前、こっちの国家予算の半分を占める兵器を粉々にしてきたやつだからな。あの時は、かろうじて撤退させることができたが、今回は巣に戻さん」
「そうですね。だって、カエリズミたちがあいつの見掛け倒しの筋肉すら粉々に砕くでしょうから」

 別のスクリーンに映された敵の顔を見つめる。

 シロアリは、メガーだけでなく、シタバ王子やその取り巻きたちまで顔がそっくりだ。今回やってきたのは、ノウキ・マチョーという、前世で実力も中途半端なのに家柄だけで騎士団長になると息巻いていた人物にそっくり。
 しかも、なんとなく行動もノウキに似ていた。もう、ノウキと呼ぶことにしましょう。

「ああ!」

 二機のキュービクルが、ノウキを挟み撃ちにする。こちらにとっても初陣なら、相手にとって人類の希望を見るのも初めてのことだ。

 これまでの攻撃と違い、圧倒的なキュービクルのパワーと動きに、ノウキがあっという間にくずれた。

「ああ、あれは……」
「あんな大技を……大丈夫なのか?」

 メインスクリーンに、カエリズミが乗っているキュービクルの姿が見えた。もうひとつのキュービクルにノウキが気を完全に取られている隙に、両手を広げて、くるくる回転を始める。

「カエリズミは、向こう見ずでおっちょこちょいですが、ここぞとキメるタイミングはピカイチですから、きっと成功します」
「そうだな。頼むから、必殺技が届くまでシロアリが気づかないでくれ」

「きゃあ、カエリズミさんっ、危ないっ!」

 ヒューズコーチの祈りは、神に届かなかった。

 そういえば、ノウキも変なところで直感力を発揮して、物事をうまく運んでいたなと思い出す。

 ところが、一瞬カエリズミたちのほうが早かったようだ。

「スーパーノヴァ、コイルトルネードキーック!」

 凄まじい回転をあわせたキックが、ノウキの頭を直撃する。いくらUMAでもひとたまりもないだろう。

「やったか?」
「まだ、のようです」
「本当だ。なんとしぶとい」

 UMAのとてつもない頑丈さと生命力に、恐れおののいてしまう。そして、こういうしぶとさまで、ノウキにそっくりだ。

 皆が不安と恐怖、驚愕に包まれる中、司令官だけは平然としていた。

「うろたえるな。キュービクルは二機。彼女たちも4人いる。現に、見よ」

 司令官が、別のスクリーンを指差す。そこで、最初ノウキの注意を引いていたキュービクルがぐるぐる回転していた。

 カエリズミたちが必殺技を繰り出したと同時に、別のキュービクルが同じように必殺技を発動し始めたようだ。動けるといっても、瀕死状態のUMAは、二度目の必殺技が入ったあと、ぴくりとも動かなくなった。

 前世のノウキとは無関係かもしれないけど、彼も前世のわたくしを責め立てたひとり。どことなく、いいえ、かなり胸がすっきりした。個人的に、本当に個人的すぎるけれど、カエリズミたちが前世のわたくしに変わって、復讐してくれたみたいに思える。両手を上げて踊りたいくらいに嬉しい。

 司令塔であるノウキが倒れた途端、雑魚たちの動きが烏合の衆になった。こうなれば、簡単に殲滅できる。

 キュービクル初陣の勝利の知らせは、またたく間に人類史上最高の喜びとなって、地球全土をうめつくしたのだった。










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