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「お久しぶりですね。しかし、相変わらず良く食べますね。少しは加減したらどうですか?」
私は、彼の開口一番に発せられた言葉にフリーズした。どう考えても、ねおんちゃんに対してじゃない。
彼は、私のように体型コントロールができない人が嫌いらしい。
彼ほどじゃないけど、私の体型を馬鹿にしている人は多い。ただ、こんな風に直接行ってくるのは彼くらいだ。
頭ではわかっていても、痩せられなくて太っている事実もそうだけど、やっぱり、こういう言葉は傷つく。
私は顔を下げて、一瞬で欲しくなくなった、絶品のケーキを見つめた。手を膝に置き、どうしたらいいのかわからずに下を向く。
すると、ねおんちゃんが彼を咎めた。
「いきなり失礼ね。あなた、私達に喧嘩を売りにきたの?」
「喧嘩だなんて滅相もない。俺はただ、食べ過ぎは体に毒だと心配しているだけですよ」
「何が心配よ。まーるの事情をなんにもわかっていないくせに、余計なお世話。挨拶がすんだのなら、さっさと行ってよ。不愉快だわ」
「俺は、あなたに声を掛けた覚えはないんですけど?」
ねおんちゃんは、はっきりものを言う。だけど、本当はとても優しい子だ。私のことでこんな風に喧嘩をしてほしくない。
「ねおんちゃん、もういいから」
「よくないわ。仮にも取引先の相手に向かって、あんなふうに言うなんて気がしれない。悪意がなければ何を言っていいわけじゃないわ」
「おい、コーキやめろ。外見のことをとやかく言うなんて、お前らしくない。すみません」
「俺は、外見のことなんてひとことも言ってないぞ」
「もうお前は黙れって。あの、こいつがデリカシーのないことを言ってすみません。ほら、こっちこいって!」
彼の知人が、まだ言い足りなさそうな彼をひっぱって向こうに行ってくれた。ほっとため息をつく。
「あああああ、ムカつく。ムカつくムカつくー! なんで、あいつはまーるにいちいち突っかかってくるのよ。しかも毎回毎回嫌味を言ってきて。ね、お父様に言って、あいつの会社を潰してもらおうか?」
本気で腹を立てているみたい。私のことをこんな風に真剣に怒ってくれる彼女が親友でいてくれてとても嬉しくて心強くて。目尻に涙が浮かんでしまう。
「いいの。それに、彼は食べ過ぎは良くないって言っただけでしょ……。会社を潰すなんて、うーん、実際にできると思うから冗談でも言わないで。いつか、私が彼個人をぎゃふんと言わせてみせるわ」
「ぎゃふんって。もう、そんな言葉、昭和じゃない。まーるったらお人好しすぎるわ。普通、家庭なり会社なり、守るべきものがあるのなら、最低限のマナーは心得ておくべきなのよ。まーるが彼に何かしたわけじゃないのに、あれは酷すぎ」
「太っている人が嫌いなのよ」
「そうかなー? 他にも大柄な人はいるけど、まーるにだけキツいように思えるんだけど」
ねおんちゃんの言葉に、さらにぐさっと何かが刺さった気がした。
「ううう、だから、私だけ、嫌われてるんだよ。毎日会うわけじゃないし、大丈夫」
「あ、そんなつもりじゃ。ごめんね、まーる」
ねおんちゃんと笑っていると、さっき落ち込んだ気持ちが浮上する。
ランチの残りをいただいて、その日はショッピングを楽しんだ。
「はぁ、はぁ……」
「まーる、大丈夫? はしゃぎすぎちゃったね。ちょっと喉が乾いちゃった。休もうか」
「いつもごめんね」
「なーに言ってるんだか。先は長いんだから、ゆっくりでいいのよ」
「うん……。そうだね、先は長いんだもの!」
私の体は、爆弾を抱えていた。小さな頃は、20まで生きられないと言われたほどの病気だ。
運良く数年前に開発された新薬のおかげで、ほぼ完治する病気になった。
ただ、今も飲み続けている薬の副作用のせいでどうしても浮腫むし、お腹がものすごく空く。
すぐに息切れして運動ができないからすぐに脂肪がつく。しかも、代々ぽっちゃりな当主が多くて、遺伝的に太りやすい。
「女の子はぽっちゃりくらいがかわいい」と、親戚中から甘やかされて育ったこともあって、甘いものが大好きになった。
我慢したり、ダイエットをしようとすると、両親たちが悲壮な顔をして止めてくる始末。だから、出されたものは残さず食べている。
といっても、家で出される食事はカロリーや栄養が計算されている。正直、中学くらいからは、食べることが好きなせいで、カフェや外食などがたたり今の体たらくになっているんだけど。
「でも、彼の言う通り、このままだと体に毒なのは事実ね。私は、もっと健康で長生きをしたい。もっと、ねおんちゃんと色んなことをしたい。だから、過激なダイエットは無理だろうけど、ちょっとずつ痩せようと思う。今度こそ、成功させてみせるわ」
「まーる……。そうね、まーるがそう思うのなら、私も協力する!」
耳に痛すぎる言葉だけれど、彼の言うことも最もだ。ただ、ひとりでは無理なのは明白。実は、こっそりダイエットをしてリバウンドを繰り返していることもあったから。
ダイエットは明日から。いつもはそんな感じだったけれど、今度はその日から、普通の人よりも随分甘めなダイエットが始まったのである。
私は、彼の開口一番に発せられた言葉にフリーズした。どう考えても、ねおんちゃんに対してじゃない。
彼は、私のように体型コントロールができない人が嫌いらしい。
彼ほどじゃないけど、私の体型を馬鹿にしている人は多い。ただ、こんな風に直接行ってくるのは彼くらいだ。
頭ではわかっていても、痩せられなくて太っている事実もそうだけど、やっぱり、こういう言葉は傷つく。
私は顔を下げて、一瞬で欲しくなくなった、絶品のケーキを見つめた。手を膝に置き、どうしたらいいのかわからずに下を向く。
すると、ねおんちゃんが彼を咎めた。
「いきなり失礼ね。あなた、私達に喧嘩を売りにきたの?」
「喧嘩だなんて滅相もない。俺はただ、食べ過ぎは体に毒だと心配しているだけですよ」
「何が心配よ。まーるの事情をなんにもわかっていないくせに、余計なお世話。挨拶がすんだのなら、さっさと行ってよ。不愉快だわ」
「俺は、あなたに声を掛けた覚えはないんですけど?」
ねおんちゃんは、はっきりものを言う。だけど、本当はとても優しい子だ。私のことでこんな風に喧嘩をしてほしくない。
「ねおんちゃん、もういいから」
「よくないわ。仮にも取引先の相手に向かって、あんなふうに言うなんて気がしれない。悪意がなければ何を言っていいわけじゃないわ」
「おい、コーキやめろ。外見のことをとやかく言うなんて、お前らしくない。すみません」
「俺は、外見のことなんてひとことも言ってないぞ」
「もうお前は黙れって。あの、こいつがデリカシーのないことを言ってすみません。ほら、こっちこいって!」
彼の知人が、まだ言い足りなさそうな彼をひっぱって向こうに行ってくれた。ほっとため息をつく。
「あああああ、ムカつく。ムカつくムカつくー! なんで、あいつはまーるにいちいち突っかかってくるのよ。しかも毎回毎回嫌味を言ってきて。ね、お父様に言って、あいつの会社を潰してもらおうか?」
本気で腹を立てているみたい。私のことをこんな風に真剣に怒ってくれる彼女が親友でいてくれてとても嬉しくて心強くて。目尻に涙が浮かんでしまう。
「いいの。それに、彼は食べ過ぎは良くないって言っただけでしょ……。会社を潰すなんて、うーん、実際にできると思うから冗談でも言わないで。いつか、私が彼個人をぎゃふんと言わせてみせるわ」
「ぎゃふんって。もう、そんな言葉、昭和じゃない。まーるったらお人好しすぎるわ。普通、家庭なり会社なり、守るべきものがあるのなら、最低限のマナーは心得ておくべきなのよ。まーるが彼に何かしたわけじゃないのに、あれは酷すぎ」
「太っている人が嫌いなのよ」
「そうかなー? 他にも大柄な人はいるけど、まーるにだけキツいように思えるんだけど」
ねおんちゃんの言葉に、さらにぐさっと何かが刺さった気がした。
「ううう、だから、私だけ、嫌われてるんだよ。毎日会うわけじゃないし、大丈夫」
「あ、そんなつもりじゃ。ごめんね、まーる」
ねおんちゃんと笑っていると、さっき落ち込んだ気持ちが浮上する。
ランチの残りをいただいて、その日はショッピングを楽しんだ。
「はぁ、はぁ……」
「まーる、大丈夫? はしゃぎすぎちゃったね。ちょっと喉が乾いちゃった。休もうか」
「いつもごめんね」
「なーに言ってるんだか。先は長いんだから、ゆっくりでいいのよ」
「うん……。そうだね、先は長いんだもの!」
私の体は、爆弾を抱えていた。小さな頃は、20まで生きられないと言われたほどの病気だ。
運良く数年前に開発された新薬のおかげで、ほぼ完治する病気になった。
ただ、今も飲み続けている薬の副作用のせいでどうしても浮腫むし、お腹がものすごく空く。
すぐに息切れして運動ができないからすぐに脂肪がつく。しかも、代々ぽっちゃりな当主が多くて、遺伝的に太りやすい。
「女の子はぽっちゃりくらいがかわいい」と、親戚中から甘やかされて育ったこともあって、甘いものが大好きになった。
我慢したり、ダイエットをしようとすると、両親たちが悲壮な顔をして止めてくる始末。だから、出されたものは残さず食べている。
といっても、家で出される食事はカロリーや栄養が計算されている。正直、中学くらいからは、食べることが好きなせいで、カフェや外食などがたたり今の体たらくになっているんだけど。
「でも、彼の言う通り、このままだと体に毒なのは事実ね。私は、もっと健康で長生きをしたい。もっと、ねおんちゃんと色んなことをしたい。だから、過激なダイエットは無理だろうけど、ちょっとずつ痩せようと思う。今度こそ、成功させてみせるわ」
「まーる……。そうね、まーるがそう思うのなら、私も協力する!」
耳に痛すぎる言葉だけれど、彼の言うことも最もだ。ただ、ひとりでは無理なのは明白。実は、こっそりダイエットをしてリバウンドを繰り返していることもあったから。
ダイエットは明日から。いつもはそんな感じだったけれど、今度はその日から、普通の人よりも随分甘めなダイエットが始まったのである。
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