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ダイエット宣言をしてから、我が家の食卓は和食オンリーになった。ぽっちゃり好きのパパとママは、ムンクの叫びのように嘆いたけど、私の決意がかたいことを知ると、健康のために、程々のダイエットになら協力すると言ってくれた。
「昼食も社員食堂をやめて、お弁当にする。私にお弁当作りを教えてください」
一念発起して、私がこういうと、パパとママだけでなく家政婦さんが慌てふためいた。
「円美、人間には向き不向きというものがあってな。悪いことは言わないからやめておくんだ」
「そうよー、円美。お弁当ができる前に、また台所にスライムがたくさん生まれちゃうわよ? お弁当はママが作ってあげる。3重でいいかしら?」
「奥様、3重だと少々多いかと。私に任せていただければ、低カロリーでも美味しくてお腹も満足なダイエットランチを作りましょう」
「……」
パパもママも、家政婦さんも言いたい放題だ。これは、コーキさんとどっこいどっこいなんじゃないかな!
確かに、私は料理が苦手だ。小学生のころ、味噌ラーメンに赤ワインや他の調味料を入れたら、食べたパパの顔色が土色に変わって倒れたくらい。
「パパもママも、あれから何年経ってると思ってるのよ。一から教えてもらったら、私だって……」
一応、反論してみた。すると、料理テストでだし巻きを作ることになった。
「形はともかく、なんだこれは? なんでところどころ青いんだ? あと、だし巻きの中心に、てりやきソースがあるのはなんでだ?」
「あ、それは地球グミよ。青がとろけてかわいいでしょ。それと、照り焼きじゃなくて、生キャラメルよ。美味しいでしょ?」
「ま、円美? どうしてだし巻きなのに、バターたっぷりのスクランブルエッグの欠片や、マヨネーズがかかったゆで卵のような白身があるの?」
「だし巻きとスクランブルエッグとゆで卵を一度で楽しめたら楽しいし美味しいかなって思って」
「お嬢様、3センチ大の卵の殻が入っておりますが」
「あ、それね。ハートの形になってるでしょ? 作るのたいへんだったのよー。すぐにヒビが入るし、焼いている途中で割れちゃうんだもの」
懇親のだし巻きに、全員からダメ出しをもらい、お弁当作りの許可は出なかった。
その話をねおんちゃんに伝えると、ねおんちゃんはお腹を抱えて大笑いしてしまった。
「あ、あはははは。家庭科の調理実習でも、まーるは洗い場担当だったものね。クスクス。クッキーにバルサミコ酢を入れちゃった時は、先生が貧血で倒れちゃってたわね」
「あれは、昔のことでしょー。私だって、一から学べば、かわいいキャラ弁とかできると思うのに」
私が家政婦さんの手作りお弁当になってすぐ、ねおんちゃんもお弁当になった。ねおんちゃんのお弁当はお手製で、婚約者さんにもついでに作っているっぽい。
「さすが、まーるのとこの家政婦長さん。美味しいわ」
「ねおんちゃんの作ったつくねも美味しい。冷凍食品がひとつもないなんて。いいなあ、ねおんちゃんと結婚できる人は」
「あ、そのつくねは彼が作ったのよ」
「優しくてかっこよくて仕事ができちゃう料理男子。しかも、大企業の後継者なんだから、スパダリって、ねおんちゃんの婚約者さんのことだね」
「ふふふ、彼もおちゃめなところがあるのよー」
持ち寄ったお弁当をシェアしながら、彼女の惚気話を聞くのが日課になった。
楽しいお昼休みが終わり、海外事業部の自分の席に向かうと、部署が慌ただしかった。いつも賑やかなのだけれど、トラブルがあったようだ。
「何かあったんですか?」
私は、隣の席にいる先輩に声をかけた。彼は私の教育係で、コネ入社の私のことを最初は快く思っていなかった人のひとりだ。
「ああ、日掛さん。下請けの通訳のミスが原因で、先方を怒らせたみたいなんだ。帰ってきてそうそう悪いんだけど、上司が日掛さんを呼んでいるから行ってきてくれないか?」
「珍しいですね。とにかく、行ってきます」
こういう時の上司の呼び出しはろくなことがない。何を指示されるのだろうと心構えをして向かう。
「ああ、日掛さん。呼び出してすまないね」
「いえ、どうかなさいましたか?」
話を聞くと、やはりトラブル絡みのお願い事があるようだ。どうやら下請けは讃呂さんの会社らしい。
「まあ、彼の会社が? 珍しいこともあるものですね」
「新人がやらかしたようなんだ。英語で対応しようにも、オランダ語でまくしたてられて困っているそうなんだ。こちらで再調整しようにも、どうにもならなくてね。すまないが、オランダ語が話せる課長がいないから、代わりに通訳として向かってくれ」
「あの、専門用語などはわかりかねますが……」
「それに関しては、概ね大丈夫だと思う。何かあれば俺も対応するから、行ってやってくれ」
「……承知しました」
正直、彼に会うのは億劫だ。また太っていることであれこれ言われるにちがいない。
とはいえ、このまま仕事が滞ると何億という損害が発生する。重い足取りをなんとか動かして、彼の会社に向かった。
「昼食も社員食堂をやめて、お弁当にする。私にお弁当作りを教えてください」
一念発起して、私がこういうと、パパとママだけでなく家政婦さんが慌てふためいた。
「円美、人間には向き不向きというものがあってな。悪いことは言わないからやめておくんだ」
「そうよー、円美。お弁当ができる前に、また台所にスライムがたくさん生まれちゃうわよ? お弁当はママが作ってあげる。3重でいいかしら?」
「奥様、3重だと少々多いかと。私に任せていただければ、低カロリーでも美味しくてお腹も満足なダイエットランチを作りましょう」
「……」
パパもママも、家政婦さんも言いたい放題だ。これは、コーキさんとどっこいどっこいなんじゃないかな!
確かに、私は料理が苦手だ。小学生のころ、味噌ラーメンに赤ワインや他の調味料を入れたら、食べたパパの顔色が土色に変わって倒れたくらい。
「パパもママも、あれから何年経ってると思ってるのよ。一から教えてもらったら、私だって……」
一応、反論してみた。すると、料理テストでだし巻きを作ることになった。
「形はともかく、なんだこれは? なんでところどころ青いんだ? あと、だし巻きの中心に、てりやきソースがあるのはなんでだ?」
「あ、それは地球グミよ。青がとろけてかわいいでしょ。それと、照り焼きじゃなくて、生キャラメルよ。美味しいでしょ?」
「ま、円美? どうしてだし巻きなのに、バターたっぷりのスクランブルエッグの欠片や、マヨネーズがかかったゆで卵のような白身があるの?」
「だし巻きとスクランブルエッグとゆで卵を一度で楽しめたら楽しいし美味しいかなって思って」
「お嬢様、3センチ大の卵の殻が入っておりますが」
「あ、それね。ハートの形になってるでしょ? 作るのたいへんだったのよー。すぐにヒビが入るし、焼いている途中で割れちゃうんだもの」
懇親のだし巻きに、全員からダメ出しをもらい、お弁当作りの許可は出なかった。
その話をねおんちゃんに伝えると、ねおんちゃんはお腹を抱えて大笑いしてしまった。
「あ、あはははは。家庭科の調理実習でも、まーるは洗い場担当だったものね。クスクス。クッキーにバルサミコ酢を入れちゃった時は、先生が貧血で倒れちゃってたわね」
「あれは、昔のことでしょー。私だって、一から学べば、かわいいキャラ弁とかできると思うのに」
私が家政婦さんの手作りお弁当になってすぐ、ねおんちゃんもお弁当になった。ねおんちゃんのお弁当はお手製で、婚約者さんにもついでに作っているっぽい。
「さすが、まーるのとこの家政婦長さん。美味しいわ」
「ねおんちゃんの作ったつくねも美味しい。冷凍食品がひとつもないなんて。いいなあ、ねおんちゃんと結婚できる人は」
「あ、そのつくねは彼が作ったのよ」
「優しくてかっこよくて仕事ができちゃう料理男子。しかも、大企業の後継者なんだから、スパダリって、ねおんちゃんの婚約者さんのことだね」
「ふふふ、彼もおちゃめなところがあるのよー」
持ち寄ったお弁当をシェアしながら、彼女の惚気話を聞くのが日課になった。
楽しいお昼休みが終わり、海外事業部の自分の席に向かうと、部署が慌ただしかった。いつも賑やかなのだけれど、トラブルがあったようだ。
「何かあったんですか?」
私は、隣の席にいる先輩に声をかけた。彼は私の教育係で、コネ入社の私のことを最初は快く思っていなかった人のひとりだ。
「ああ、日掛さん。下請けの通訳のミスが原因で、先方を怒らせたみたいなんだ。帰ってきてそうそう悪いんだけど、上司が日掛さんを呼んでいるから行ってきてくれないか?」
「珍しいですね。とにかく、行ってきます」
こういう時の上司の呼び出しはろくなことがない。何を指示されるのだろうと心構えをして向かう。
「ああ、日掛さん。呼び出してすまないね」
「いえ、どうかなさいましたか?」
話を聞くと、やはりトラブル絡みのお願い事があるようだ。どうやら下請けは讃呂さんの会社らしい。
「まあ、彼の会社が? 珍しいこともあるものですね」
「新人がやらかしたようなんだ。英語で対応しようにも、オランダ語でまくしたてられて困っているそうなんだ。こちらで再調整しようにも、どうにもならなくてね。すまないが、オランダ語が話せる課長がいないから、代わりに通訳として向かってくれ」
「あの、専門用語などはわかりかねますが……」
「それに関しては、概ね大丈夫だと思う。何かあれば俺も対応するから、行ってやってくれ」
「……承知しました」
正直、彼に会うのは億劫だ。また太っていることであれこれ言われるにちがいない。
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