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担当のウェイターが、頃合いを見計らってやってきた。
「私も彼女も苦手はないから、任せていいかしら? あ、軽めでお願い」
ねおんちゃんがそう言うと、ウェイターは心得たように頭を下げて去っていく。私は、彼女の美しい姿に見とれて、ほうっと感嘆の息を吐いた。
「私が男だったら、ねおんちゃんを放っておかないのになあ。美人でかわいくて頭が良くて。品があって。憧れちゃう」
「何言ってるの。まーるのほうがお嬢様だし所作は完璧じゃない。それに、とっても顔の作りは整っているし。もちもちの白い肌はシミひとつなくて羨ましいわよ。私こそ男だったら、とっくに結婚させてもらってるわ」
ねおんちゃんは、私のことを褒めてくれる。でも、私は知っている。こっちを見ている人たちの好機の視線が何を物語っているのか。
食前のワインを飲みつつ、近況を語り合う。務めている会社は同じだけれど、部署が全く違うから、こうしてゆっくりおしゃべりするのは久しぶりだ。
「そうだ、海外事業部の課長の噂、聞いたわよー」
「あら、もう? まだ2日しか経っていないのに速いわねえ。ねおんちゃんの耳が汚れちゃったね」
「汚れるというか、他人事だからって、皆仕事中に楽しそうに話をしているから聞こえちゃった。そんなことよりも仕事をして欲しいんだけど。私達の会社は、プライベートの醜聞はご法度だから、珍しいスクープにざわついちゃってるわ。真剣交際をしている部下が、高校時代からパパ活の頂き女子で、裏アカウントのSNSで全部暴露していたのがバレたんですってね。課長さん本人に罪があるとすれば、そんな女の子に騙されたことくらいだろうけど」
「そうね。今、課長が不在のせいで、こっちはてんやわんやよ。彼のせいじゃないけど、会社を騒がせた責任を取って近々異動になると思う。彼は本気で彼女を幸せにしようとしていたらしいから、気の毒だわ。お付き合いするにも、今後はSNSの利用などもきちんと調べてからのほうがいいのかも」
「面倒な世の中よね。その課長、まーるとのお見合い断ったんでしょ。ほんっと、見る目がないというかなんというか。そういえば、まーるは気になる男の人ができた? 私が、ちゃーんと調べてあげるからね」
「ふふふ、ありがとう。でもご心配なく。全くそういうお話はないわ」
ねおんちゃんには、彼女しか女性とみなさないような女嫌いの婚約者がいる。私のことも、体型なんて関係なく自然に対峙してくれる数少ない人だ。逆に、マーモットのような、ペットのような感覚だからかも。
「お久しぶりです」
食後のケーキとコーヒーをいただいていると、声をかけられた。ねおんちゃんが、「げっ」とお嬢様らしくない声をあげる。
私の位置からは見えないけど、招かねざる人のようだ。
ふわっふわのケーキの最後の一切れを、生クリームのソースにたっぷりつけていた手を止めて、その人を見た。
思った通り、スラリとした背の高い男性が立っていた。食事が終わったのだろう。一緒に食事をしていた男性と一緒に。おそらく、彼の共同経営者だろう。ふたりとも、周囲の目を一瞬でひくイケメンたちだ。
彼の名前は|讃呂 超好機《《さんろ すうぱあちゃんす》さん。下の名前で呼ばれることを嫌っているらしいけど、わからなくもないかな。
なぜか、彼は父のお気に入りだ。無下にも出来ず、挨拶を返す。すると、彼は私の手元を見て鼻で笑ったのである。
「私も彼女も苦手はないから、任せていいかしら? あ、軽めでお願い」
ねおんちゃんがそう言うと、ウェイターは心得たように頭を下げて去っていく。私は、彼女の美しい姿に見とれて、ほうっと感嘆の息を吐いた。
「私が男だったら、ねおんちゃんを放っておかないのになあ。美人でかわいくて頭が良くて。品があって。憧れちゃう」
「何言ってるの。まーるのほうがお嬢様だし所作は完璧じゃない。それに、とっても顔の作りは整っているし。もちもちの白い肌はシミひとつなくて羨ましいわよ。私こそ男だったら、とっくに結婚させてもらってるわ」
ねおんちゃんは、私のことを褒めてくれる。でも、私は知っている。こっちを見ている人たちの好機の視線が何を物語っているのか。
食前のワインを飲みつつ、近況を語り合う。務めている会社は同じだけれど、部署が全く違うから、こうしてゆっくりおしゃべりするのは久しぶりだ。
「そうだ、海外事業部の課長の噂、聞いたわよー」
「あら、もう? まだ2日しか経っていないのに速いわねえ。ねおんちゃんの耳が汚れちゃったね」
「汚れるというか、他人事だからって、皆仕事中に楽しそうに話をしているから聞こえちゃった。そんなことよりも仕事をして欲しいんだけど。私達の会社は、プライベートの醜聞はご法度だから、珍しいスクープにざわついちゃってるわ。真剣交際をしている部下が、高校時代からパパ活の頂き女子で、裏アカウントのSNSで全部暴露していたのがバレたんですってね。課長さん本人に罪があるとすれば、そんな女の子に騙されたことくらいだろうけど」
「そうね。今、課長が不在のせいで、こっちはてんやわんやよ。彼のせいじゃないけど、会社を騒がせた責任を取って近々異動になると思う。彼は本気で彼女を幸せにしようとしていたらしいから、気の毒だわ。お付き合いするにも、今後はSNSの利用などもきちんと調べてからのほうがいいのかも」
「面倒な世の中よね。その課長、まーるとのお見合い断ったんでしょ。ほんっと、見る目がないというかなんというか。そういえば、まーるは気になる男の人ができた? 私が、ちゃーんと調べてあげるからね」
「ふふふ、ありがとう。でもご心配なく。全くそういうお話はないわ」
ねおんちゃんには、彼女しか女性とみなさないような女嫌いの婚約者がいる。私のことも、体型なんて関係なく自然に対峙してくれる数少ない人だ。逆に、マーモットのような、ペットのような感覚だからかも。
「お久しぶりです」
食後のケーキとコーヒーをいただいていると、声をかけられた。ねおんちゃんが、「げっ」とお嬢様らしくない声をあげる。
私の位置からは見えないけど、招かねざる人のようだ。
ふわっふわのケーキの最後の一切れを、生クリームのソースにたっぷりつけていた手を止めて、その人を見た。
思った通り、スラリとした背の高い男性が立っていた。食事が終わったのだろう。一緒に食事をしていた男性と一緒に。おそらく、彼の共同経営者だろう。ふたりとも、周囲の目を一瞬でひくイケメンたちだ。
彼の名前は|讃呂 超好機《《さんろ すうぱあちゃんす》さん。下の名前で呼ばれることを嫌っているらしいけど、わからなくもないかな。
なぜか、彼は父のお気に入りだ。無下にも出来ず、挨拶を返す。すると、彼は私の手元を見て鼻で笑ったのである。
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