163 / 541
30❥
30❥6
しおりを挟む会場入り口で待ち構えていた成田と恭也と共に、壇上下の隅っこで待機してその時を待っている。
成田から挨拶の基本的な作法を簡単にだがレクチャーされ、見本文を熱心に読み込んでいる二人を聖南は黙って見ていた。
葉璃はその時もまだ手のひらの人という文字を絶え間なく飲み込んでいて、その姿は可愛くもあったが笑えてしまい、無表情の恭也がその様子をジッと見ている様も、何とも可笑しかった。
人との接触にはいくらか慣れ、ネガティブで卑屈な性格は大幅に改善されているから大丈夫だろうと思ったけれど、大勢の人の前に立つ事は相当に緊張するらしい。
聖南のように元々平気な者もいるが、人前に立つというのはたくさんの場馴れで慣れていく者の方が圧倒的に多い。
この事に関してはあまり気持ちが分かってやれない聖南は、葉璃が切羽詰まった様子で何度となく手のひらをイジイジしている様を見て唐突に思い出した。
少し屈んで、忙しなく動く葉璃の耳元で尋ねてみる。
「葉璃、一番最初にハルカとして生放送出てた時も、それやってた?」
「これですか? やってましたよ。 効果ゼロですけどね……でもやらないと落ち着かなくて」
「そっか。 大丈夫だ、葉璃。 俺がついてる。 大丈夫」
力いっぱい葉璃を後押しするも、引き攣った笑顔が返ってきた。
一目惚れした運命的なあの日も、確かに葉璃はこうしてずっと手のひらをイジイジしていた。
収録中何度も、葉璃と目が合わないかとソワソワしていたのに一向に聖南を見てくれなかった事を思い出す。
『あの時もこれやってたのか……目が合わなかったわけだ。 緊張を解そうって躍起になってたんだなー……』
随分前の事のように感じるあの生放送の歌番組で、聖南の突然の恋は始まった。
追い掛け続けた日々を経て葉璃を手に入れたが、後にも先にもあんなに必死になった事は無かったかもしれない。
必死だったあの頃を懐かしく、そしてあのやきもきした毎日も実に楽しかったなぁと振り返る。
会話どころではない葉璃を前に聖南も黙ると、瞳を閉じてしばし回想にふけった。
自然と周囲の音が遮断され、葉璃との出会い、すれ違い、誤解、想い会えた日の事まで思う存分蘇らせて懐かしんだ。
「あれ、いねぇ」
瞳を開けると葉璃はもちろん、恭也も成田も居なくなっていて、壇上に視線を移す。
緊張した面持ちの葉璃と恭也が中央に立っていて、その脇で成田が説明と紹介に従事していた。
もう始まったのかと聖南も少しばかり妙な緊張感を持ちながら、その様子を凝視する。
成田に代わりその後社長が出て来て、二人がデビューに至った経緯と、期待を寄せている旨の挨拶をし、司会者へとマイクが渡った。
「それでは、デビューを目前に控えたお二人に、一言ずつご挨拶を頂きたいと思います。 まずは宮下恭也さん、お願いいたします」
ついにきた、と聖南はいても立っても居られず二、三歩前へ寄った。
ポケットに手を突っ込んで何食わぬ顔を装ってはいるが、葉璃と恭也のドキドキがこちらにも伝わってくるようで眉間に皺が寄る。
『がんばれ。 ───恭也、葉璃』
13
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~
四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。
ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。
高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。
※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み)
■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる