必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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41★ 9・宮下恭也、感無量です。

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 葉璃は診察の他、レントゲンだけ撮っておきましょうとの事で看護師さんと一緒に先程から出て行っていて、個室にはCROWNの三人と俺という妙な組み合わせが葉璃の帰りを待っている。


「恭也、ありがとな。  マジで事後報告のつもり満々だった。  何も異常がねぇならそれはそれで安心すっから、話してくれりゃ良かったのにな」
「葉璃……事後報告のつもりだろうと、思いました」


 セナさんは腕を組んで、葉璃の遠慮に苦笑した。

 ずっと立ってるから、さっき俺が座ってた丸椅子に腰掛けてもらおうとしたんだけど、「恭也座ってろ」と言われてしまい、セナさんは壁に凭れたままだ。


「あとさ、葉璃、なんかあった? 凹んでるように見えんだけど」


 ……さすが、セナさんは葉璃の事なら何でもお見通しだ。

 何も話していないのに、葉璃の少しの表情や雰囲気で落ち込んでいる事に気付いたみたいだ。


「そうか?  凹んでた?」
「あんま伸びてる実感ないのに成長痛止まったからかな?」
「いや違うんじゃねぇかな。  恭也、知ってる?」


 アキラさんとケイタさんには葉璃の変化に気が付かなかったようだけど、セナさんは絶対に何かあったはずだと俺に視線を寄越してくる。

 葉璃の動揺の意味が俺もよく分からない、と前置きして、三人に彼女の存在を話した。


「えっ? 恭也、彼女いるんだ」
「それで何で葉璃が凹むの?」


 アキラさんとケイタさんも俺と同じ思いで、葉璃の凹む理由が見えなくて首を傾げている。

 対してセナさんは、腕を解いてポケットに手を突っ込み、意味深に口元だけで笑った。


「……恭也、その彼女の存在を今まで葉璃に全然匂わせなかったろ」
「はい。  俺自身も、付き合ってるっていうほどの感覚が、ないですからね。  どちらかというと、葉璃優先、してきましたので」
「だからだ。  良かったな、恭也。  ……俺お前にも嫉妬しそー」
「え?」


 良かったな、って……。

 どういう事か分からずセナさんを見上げると、フッと笑ったままブルーレンズのサングラスを掛け セナさんは腕を解いてポケットに手を突っ込み、意味深に口元だけで笑った。


「葉璃はショックだったんじゃないの。  親友だと思ってた恭也が今まで何も話してくれなかった事。  恭也に女が居たって事実を受け止めきれねーってのもあんだろ」
「………………」
「普通の友達だと思ってんなら、恭也に女が居たって別に何とも思わねぇ事だよな。  葉璃が恭也に心開いてんのは知ってたけど、……ここまでとはなぁ。  ……妬いちまう」


 それはつまり、俺が今まで彼女の存在を話さなかった事が、葉璃をしょんぼりさせてしまった原因、なのだろうか。

 俺に彼女が居た事も……?


「………………」


 セナさんと恋人同士になった葉璃を、取られた、寂しい、と思ってしまった俺と同じ気持ちを、葉璃も抱いてくれたって事なのかな。

 俺だけが葉璃の事を大好きだって思ってたから、そんな事を聞かされたら、浮かれてしまう。

 しょんぼりさせてしまったことは棚に上げて、もしそうだったらいいなって、嬉しくて嬉しくて。

 この気持ちは決して恋愛感情ではなく、セナさんとの仲を危ぶむような事も俺はしないって断言できる。

 でも友達と呼ぶには浅過ぎて、親友というのも物足りない。

 それは例えるのがとても難しく、恋愛感情はないのに「愛してる」って、葉璃にだったら平気で言えると思う。

 俺の傍に居てほしい。

 離れないでほしい。

 笑い掛けていてほしい。

 俺を理解していてほしい。

 ……体の関係がない恋人と紛うほど、葉璃にもすべてを曝け出してほしい。

 そう考えてしまう俺は、少しおかしいのかもしれない。

 ───分かっている、そんな事は。



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