255 / 541
41★
41★ 10・宮下恭也、感無量です。
しおりを挟む思わずニヤけてしまいそうな口元を覆い、誰からも表情を伺えないよう深く俯いた。
どうしたって、嬉しい。
嬉しくて嬉しくて、葉璃には悪いけど、すごく喜んだ。
せっかく抜け出してきた殼にまた閉じこもり、あからさまに動揺した葉璃の気持ちを、他でもない俺がクラクラと揺さぶったなんて、嬉しくないはずない。
俺だけが大好きなわけじゃないって知って、浮かれないはずない。
「……恭也が喜んでる」
「な。 分かりやすー」
アキラさん、ケイタさん、今だけは浮かれさせてください。
セナさんが言ってるだけで、葉璃の本心は別にあるのかもしれないけど、それでも、俺の心は曇り空から晴れ間に変わったように爽快な気分だった。
そうこうしていると葉璃が戻ってきて、個室内の変な空気に一瞬入ってくるのを躊躇していた。
いつもは会計にも三十分近く待たされるのに、今日はCROWNの威力なのかすぐに受付の女性が領収書を持ってやってきて、診察からあっという間に病院を後にすることができた。
お会計と言われた途端、その場に居た全員が財布を取り出して自分が払うと言い始めて、葉璃をひどく困惑させていたのは見ていて面白かった。
結局、珍しく本気で怒った顔の葉璃が皆を制して葉璃自身が払っていたけど、セナさんは納得いってないみたいだった。
「俺の成長痛なんかで皆さんを振り回してすみません……」
申し訳無さそうな葉璃と俺は今、成田さんの車まで来てCROWNの三人をお見送りしようとしている。
「ほんとに二人送らなくていいの?」
「はい、皆さんお仕事中ですから一刻も早く戻ってください! 俺と恭也はごはん食べて帰ります」
成田さんにもセナさんにも「送る」と言われても、葉璃は遠慮しきりで頑なにそれには応じない。
葉璃の意思が固い事を知ると、セナさんもそれ以上は無理強いしなかった。
「とりあえず良かったよ、ハルの成長痛が落ち着いてるんなら」
「ほんとだよ。 俺達が勝手について来ただけなんだから、ハル君がそんなに謝らなくていいんだよ?」
「いえ……もうほんと、心配かけてごめんなさい。 お仕事の邪魔してしまって……」
「葉璃、んなのはいいから、時間ある時は連絡しろ。 どんな小さい事でも、俺は葉璃の事知ってたい。 寂しいっつって電話一本してくれ。 じゃないと俺は不安になっから」
俺達の前でもお構いなしに、さっきの個室の時みたいにセナさんは葉璃の両頬を取って上向かせた。
ジッと見詰め合う二人の間には、もう誰も入る事の出来ない熱々な壁が出来上がってる。
「……はい、分かりました」
ふ、と葉璃が淡く微笑んだ事で、セナさんはようやく安心したように小さな葉璃の頭を撫でて車に乗り込んだ。
「じゃな、気を付けて帰れよ。 恭也、葉璃よろしくな」
「おまかせください」
車内から手を振る三人の姿に、俺は力強く頷いた。
葉璃はみんなが乗った車が見えなくなるまで見送り続けて、早く行ってと急かしていたわりには、実はセナさんと離れがたかったんだとその背中が物語っている。
「葉璃、行こうか」
「……うん」
俺達は近くのイタメシ屋でパスタを食べて、やはりモヤモヤしていたらしい葉璃からの俺への質問が止まらなかった。
セナさんが言ってた事が本当だったと信じさせてくれるには充分なほど、葉璃の表情には余裕なんて無くて。
自宅まで送るって言ったのにそれも拒否した葉璃とのホームでの別れ際など、思わず抱きしめてしまいそうな事を言われてしまった。
「……恭也、俺がこんな事言うのは変だって分かってるけど、言わずにいられないから言うね。 俺は恭也の二番目でいいから、ちゃんと俺の事も構って。 あと、俺にだけは何でも話してほしい。 ……内緒は嫌だ」
「……分かったよ、ごめんね。 二番目じゃないよ、葉璃は。 一番だからね」
そう言ってあげると葉璃は「それは彼女に悪いから二番目で」と律儀に返してきて、そんな真面目なところも大好きだなぁって、思った。
同じような空気感の、こんなにも居心地の良い友達と出会えるなんて、夢にも思わなかった。
おまけに、俺が大好きだって言っても変に思わず、葉璃も真っ直ぐに返してくれる関係になれているのだから、俺にとっては贅沢過ぎる毎日を過ごさせてもらっている。
頭が良くて、運動神経も良くて、顔もとびっきり可愛いのに、どこをどう間違ったらそんなにネガティブになれるのってほどだった葉璃はもう、昔の葉璃じゃない。
俺は、葉璃の過去も今も知ってる唯一の親友。
セナさんには悪いけど、そこは、俺の方が上回っていると思ってていいよね?
…………葉璃。
13
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる