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4歳と5歳

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「センセイ、みなさん、さよぉならー」
チューリップ組のみんなでお辞儀をしてから、順番で靴箱に行く。
斗樹の順番がきたので靴に履き替え、通園バスまで走っていく。
バスは席が決まっている。斗樹と雲雀は、降りるところが同じなので、席もとなりだ。
「ヒバリくん!」
「トキくん」
先生にシートベルトを付けてもらいながら、すでに雲雀の手を握っている斗樹だ。
この春、斗樹と雲雀は同じ幼稚園の、年中さんと年長さんクラスに入園した。天使のような見た目の雲雀は、入園初日から男児も女児も虜にしてしまった。右から左から両腕を引っぱられながら遊びに誘われ、先生が慌てて駆けつけたという大岡裁きのような事件が起きた。その頃、斗樹はクラスの園児たちと先生を囲んで絵本を読んでもらっていた。
それ以来、雲雀は上手に誘われた遊びを断るようになり、クラスの園児たちと少し距離を置いていた。
斗樹は、雲雀が一人でいるのを見つけると走っていき、砂場にジャングルジムにと手を引っ張って連れていき、一緒に遊んだ。
雲雀が斗樹の誘いを断ることはなかった。
ついでに、クラスの輪から離れてすぐ違うクラスの雲雀のところへ走っていく斗樹は、先生たちの要注意リストにしっかりと入っていた。

「今日はなにしたの?」
「ハーモニカえんそうと辞書ひき」
「ヒバリくん辞書ひきできるの?」
「できるよ、トキくんもするでしょ」
「僕はにがてなの」
「そおなの?」
「…」
自分で言って、思い出したのか「おんなし”あ”ばっかで探しにくいよ…」といって眉を寄せる。
雲雀は苦手でも気にしなくていいのになあと思っているが、斗樹のむうっとした顔を見ているとなんとかしてあげたくなって声をかける。
「お家帰ったら辞書ひきする?」
「…いっしょに?」
「いっしょに」
 雲雀がにっこり笑って頷いたのを見て、斗樹はほっぺたをピンク色にしてみるみる笑顔になった。
「ヒバリくん、すき」
「僕もトキくんすきだよ」
言葉通りに、ぎゅうっと手が握られた。雲雀に好きと言われて、斗樹はくにゃくにゃになる。
(ヒバリくん、優しい、すき)
家に帰ってからも雲雀に会えるのだ。
お母さんにおやついっぱい用意してもらわないと。

「ヒバリくん、トキくん、着いたよ」
「はーい」
「はい」
園児や先生、運転手さんたちとさようなら、また明日と声をかけあってバスを降りる。
「おかえりなさい」
「ただいまぁー」
今日は、雲雀の母である瑠李が送迎ポイントで出迎えてくれた。
入江家と森永家は、母同士で話し合い、送迎ポイントまで迎えに行く役割を当番制にしていた。
雲雀の母は美人だが、派手な人だ。柄物のワンピースに派手なメイクで100メートル向こうからでも判別できる。とにかく見た目の主張は激しい。斗樹の母よりも少し若い。派手でも可愛くて優しくて、斗樹は雲雀の母が大好きだ。
「きょおは公園とお歌しました。みなとくんとはるひちゃんが手をつないで歌って、僕もヒバリくんと手つなぎしたかったぁ」
雲雀の母に鼻の穴を膨らませながら語る。瑠李はそうなの?といいタイミングで相槌を打ってくれる。雲雀も話を聞いて、斗樹の手をきゅっと握った。
「トキくんは、僕と繋いでるよ」
雲雀が斗樹の手を取って、目の前にかざす。
「よかったわね」
瑠李も、二人の様子を微笑ましく見ている。ぎゅうっと繋いだ手を見て斗樹は満面の笑顔で喜んだ。
「やったあ、けっこんだぁ」
「ん?」
「トキくん、僕とけっこんするの?」
「するよ。手ぇ繋いだもん」
(みなとくんとはるひちゃんは手を繋いで結婚してた。ゆりちゃんとただしくんがおめでとってしてた。のりとくんは悔しがってたけど…)
幼稚園で結婚式ごっこを見た斗樹には自信があった。好きな人と手を繋いだら結婚だと。週に3回、公園に行く時に隣の列の人と手を繋いでいる事実との整合性は取れていない。斗樹は初めて見たときから、雲雀のことが好きなのだ。こんなかわいくて優しくて守ってあげたくなる人は、斗樹の4年という長い人生で雲雀しかいない。
雲雀も満更ではない顔をしている。斗樹は確信を深めた。
「えっとぉ…?」
けっこんけっこんと無邪気に盛り上がっている二人に瑠李が何をどう言えばいいのかと頭を巡らせる。
「ママ」
「どうしたの」
「今日は、トキくんと辞書ひきするよ」
「ええ、おやつはなにが良いかな」
「ラムネ」
雲雀と瑠李の話を聞いて、斗樹もラムネの口になった。すでに口をモニュモニュさせている。
「トキくん、あとで迎えにいくね」
「わかった!」
斗樹がおかあさんただいまぁーと家に入っていくのを雲雀と瑠李が見守る。
「行くわよ、雲雀」
「うん」
雲雀は可愛い。父に似て落ち着いた雰囲気を持っているが、顔のパーツは瑠李に似ている。よく女のコと間違われるが、行動や考え方は父に似ている。”男らしく”と言ったことはないが、自然と父に習っている雲雀は、将来かなりの男振りを見せるに違いない。
可愛いお嫁さんをもらって、子どもは一姫二太郎、孫を目に入れる勢いで可愛がりたいと妄想する。
しかし、まだ子どもだし、社会のあれこれを教えるのはまだ先でいいかと思った瑠李だった。
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