「ごめんね、トキくん」 〜 幼なじみBL好きが100万回読んだことがある展開

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4歳と5歳

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「ただいまぁー」
「おかえり、斗樹」
「ヒバリくんのとこでオベンキョする!」
「え、そうなの?」
出迎えた母の雪衣が、瑠李の方を見て確認する。
「そうみたい」
「あら、いつもすみません」
また母同士で話をはじめた。
そのすきに斗樹は自分の部屋まで走っていって、園カバンを下ろして、斗樹のちょうどよい高さに合わせてもらった壁掛けのフックにかけた。そして手提げカバンに、『はじめてのこども国語辞典』と、誕生日に買ってもらったタブレットを入れた。
このタブレットは、雲雀がタブレットを使ってお勉強をしている姿がどうしても格好良く見えて、斗樹も誕生日に同じものを強請ったのだ。いつもは動画を観たりしているのだが、今日はこのタブレットがお勉強ノートになる。
雲雀は字を書くのが上手だ。斗樹はいつも自分の書いた字と比べて「?」となっている。全く違うのだ。
「トキくんは僕より年下だもん、あわてなくてもいいよ」と、優しく言ってくれる。ついでに斗樹の手をとってこういうふうに書いたらいいよと教えてくれる。
雲雀と一緒にタブレットを使ってお勉強できることが嬉しくてたまらない。
雲雀がと毎日一緒にいても飽きない。むしろずっと毎日一緒にいたい。
頭に浮かぶのは昼間に見た、みなとくんとはるひちゃんの結婚式だ。
 砂場で遊んでいたら、好き同士は結婚できるとはるひちゃんが言いはじめ、それを聞いたみなとくんが「ぼくはるひちゃん好きだよ」と言った。
「じゃありょーおもいだわ、プロポーズして」
「ぷろぽーず…?」
「けっこんしてくださいって言うの」
「けっこんしてください。はるひちゃん」
「いいわよ」
ふたりは先生と何人かの園児が見守っているなかで結婚した。斗樹も祝福の気持ちで見守っていた。はるひちゃんが、「ちかいのちゅうを…」とみなとくんに顔を寄せると、先生が慌てて「それは大人になってから」とふたりに言い聞かせていた。斗樹はその光景を見て、結婚は好きな人といつでもできて、ちかいのキスは大人になってからだとインプットした。


コンコンとドアを叩く音の方には、雲雀がいた。
「トキくん」
「ヒバリくん!」
「ママたちまだお話してるから、トキくん先にいこ」
「いいの?」
「いいよ、隣だもん。鍵もあるよ」
ほら、といって雲雀の手よりも大きなぬいぐるみのキーホルダーが付いた鍵を、斗樹の目の前にかざした。
「うんっ」
斗樹の言葉に満足そうに頷いた雲雀は、先に歩いていく。後ろから斗樹がてこてこ歩いてついていく。
たしかに玄関では、雪衣と瑠李がまだ話をしていた。
あの二人は話し出すと長いのだ。
雲雀に手を引かれて二人の間をすり抜けていく。雲雀が玄関の鍵を開けて、どうぞと斗樹を招き入れる。
「おじゃましまーす」
「うん」
「ヒバリくん、一人でカギができるの?」
「できるよ」
「すごいなぁ」
「トキくんはしないの?」
「父さんと一緒のときだけ」
雲雀が下駄箱の上にある鍵専用の籠に瑠李の鍵を入れる。ぬいぐるみが大きいので、籠からはみ出て脱走しそうになっているが、雲雀は気にしていない。
「僕もまだ自分のカギはないよ、小学生になったら作ってくれるってママが言ってたけど」
まだまだだし、と口を尖らせる雲雀に胸をときめかせながら、斗樹は重大なことに気づいた。
「えっ」
雲雀が小学校に通っちゃっても、斗樹は幼稚園に通わなければならない。一つ年下とはそういうことだ。
気の早い話であるが、斗樹にとっては明日にでも雲雀が小学校に通ってしまうような気持ちだ。
今でもクラス活動で離れている時間が長く感じているのに、これ以上離れることってあるのか。あるのだ。小学校だから。具体的に小学校がどんなところかわからないが、聞いたところによると、勉強はめちゃめちゃ難しくてずっと机に向かっていないといけないし、おやつもない。なにより、お昼寝がないのだ。お昼寝しなくて毎日やっていける?
雲雀が斗樹を置いてそんな未知の世界に行ってしまうなんて。
「なに、どうしたの?」
「わあっ!」
大きな目に覗き込まれて、心臓が破けそうなほどおどろいた。小さな手で小さな胸を押さえる。
「なな、なんでもない」
「?」
不思議そうな顔をしながら、雲雀が自分の部屋へ行く。その後ろを斗樹がてこてこついて行く。
雲雀が小学生になる。
当たり前だが、当たり前じゃない。
頭の中は昼間の結婚式がぐるぐる駆け回っている。
一目惚れした雲雀に一度は失恋はしたが、まだチャンスはある。
結婚なら一緒にいられるのだ。
好き同士、ずっと一緒の約束。
斗樹はもう雲雀がいない人生なんて考えられない。
(やっぱり…早くぷろぽーずしないと)
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