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第2章 もふもふ鳥の抱える苦悩

16話 不貞腐れるアキトに訪問鳥です

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温泉に入り、充分な休息をとったことで、僕たちの体力は全開した。村長様の家へ戻り、2階で30分程寛いでいると、階段をドダドタと乱暴に駆け上がってくる足音が聞こえてきて、扉が少し乱暴に開かれる。

「領主様が到着したわよ。1階の居間にいるんだけど、マグナリア様とリリアナ様だけを呼んでいるの」

そこにいたのは、息を弾ませている村長の奥様-ダリアさんだ。

「え、僕は?」

僕の質問に対して、ダリアさんが申し訳ない表情となる。

「貴方は平民だから、これ以上は誘拐事件に踏み込んではいけないと領主様にきつく言われているの」

なんだろう、この言葉に言い表せない複雑な気持ち。リリアナは貴族、僕は平民、それはわかるけど、1つ歳上の彼女は巻き込んでいいの? 僕が彼女を見ると…

「アキト、そんな顔をしないの。テンブルク王国とソマルトリア王国は、友好同盟を結んでいるわ。特に、セルザスパ辺境伯領とティムランド辺境伯領は山一つで接しているから交易も盛んで、辺境伯家とは家族ぐるみのお付き合いがあるから安心して」

互いに知り合いなんだ。

「私は貴族令嬢、今回の被害者でもあるから、積極的に前に出なきゃいけない。でも、貴方は平民、何の力もないのだから、これ以上踏み込んだらだめ」

リリアナ、毅然として頼もしい感じがする。
お風呂場の前で震えていた女の子とは思えない。
怖くても、前に進もうとしているんだ。

「わかったよ……ここで大人しくしてる」
「良い子ね…行ってくるわ」

僕が受け入れたので、リリアナはニコッと笑い、頭を撫でてくれた。

「アキト、この話し合いは長くなるだろうから、ここで寛いでいて」

「マグナリア…わかったよ。2人とも、いってらっしゃい」

マグナリアとリリアナは、ダリアさんに連れられて、部屋を出ていく。僕は、ひとりぼっちになってしまった。あ~あ、僕がもっと大人で、ギフトも使いこなしていたら、こんな惨めな気持ちにならなかったのにな。

しばらくの間、不貞腐れていると、窓の方からコンコンと音が鳴った。そっちを振り向くと、1羽の鳥が嘴で窓ガラスを叩いている。

見たことのない鳥だ。 
小さいのに、威厳があって凛々しい。
部屋の中に入れてくれって言ってるの?
窓を少し開けると、鳥が普通に入ってきた。

「其方がマグナリアの契約者アキトか?」
「え…あ、はい、そうです」

鳥が喋った!!
しかも、男性の威厳ある声だ。

「私は、精霊-霊鳥族族長ガルーダ。今、下で話し合っている辺境伯アーサム・ティムランドと契約を交わしている」

領主様と契約している精霊様!?
なんで、僕に話しかけてくるの?

「あの…僕に何か?」

「霊鳥族は、白虎族とも親交があり、私はマグナリアを赤子の頃から知っている。そんな彼女から、其方との出会いや契約、ギフトのことを聞いた。其方に、折り入って頼みがある」

マグナリアの知り合いなら信用できるし、警戒する必要もないか。

「頼み?」
「里の住む1羽の仲間を、ここに召喚するから診てほしい」
「診るって、僕は医者じゃありませんよ」

「承知している。私が期待しているのは、君の持つ前世の記憶だ。霊鳥族は、霊鳥同士で子供を作ることもできるが、100年に1度咲くとされる精霊花から生まれてくる時もある」

精霊花? 知らない言葉だ。

「あの子は後者。霊鳥族にとって、トウリの誕生は喜ばしいことなんだが、生まれた時点で、容姿がおかしいことに気づいたから、我々はすぐに調査に乗り出した。その結果、精霊花一輪が病気になっていて、管理の者がそれを見落としたまま、精霊を産ませてしまったんだ」

花が病気の状態で精霊を産んじゃったから、容姿も他の鳥と違うようになったってこと? そうなると、その花から産まれた精霊も病気を持っているのかな?

「産まれて5年経過しても、あの子は言葉を理解できず、精霊としての力も、何一つ使えない。私たちに懸命に語りかけてくることもあるが、我々がその言葉を理解できないせいで、いつしか我々から距離を取るようになってしまった」

口調だけで、相当参っているのがわかる。僕の前世の記憶に頼っているようだけど、知っているのは一部だけだ。でも、こうして頼られている以上、動いてみよう。

「その鳥さんは、病気なんですか?」

「病気ではないと思うが、我々と何かが違うのは確かだ。今回、マグナリアの一報を聞き、急いでアーサムと共に向かい、彼女と再会したことで、君の前世のことを聞けた」

そんな経緯があったんだ。

「役立てるかわかりませんけど、直接診てみます」
「感謝する……召喚[トウリ]」

円形の変な模様が床の上に出現したと思ったら、そこから1羽の鳥が出てきた。この鳥さん、召喚されたことを理解していないのか、急に周囲を見渡し挙動不審になって、すぐに壁際へ移動した。

それにしても、奇妙な容姿だな。

毛色の色合いが、右半身の多くが金色、左半身の多くが黒色に占められていて、目も4つあり、右半身の2つの瞳が金、左半身の2つは黒だ。足だって5つあり、右半身に茶色の足が2つ、左半身に黒色の足が3つもある。

『ここ何処? 変な声が聞こえたと思ったら、急に場所が変わったわ』

女の子の声、突然召喚されたこともあって、かなり怯えている。
あれ? この言葉、夢の中で見た会話と一緒だ。
これなら僕も理解できるけど喋れるかな?

『君、名前は何て言うの?』

やった、喋れた!!
鳥さんはビクッとして、僕を見る。

『あなた、私の言葉がわかるの?』

『わかるよ。前世の記憶のおかげかな? とりあえず、こっちにおいでよ。僕や育ての親のガルーダ様は、敵じゃないよ』

『そう…ね。この方とは会話こそできないけど、私を常に守ってくれていた』

奇妙な容姿の鳥さんが、辿々しい歩きで、僕のすぐ横へちょこんと来て座ってくれた。5本足だけど、徒歩で動いていたのは普通の色合いをした2本だけだった。

「待て待て!! アキト君、君はトウリの言葉を理解できるのか?」
「はい。この言葉は、夢の中で交わした会話と同じものです」
「なんと……もしかしたら、トウリは君と同じ転生者か?」
「聞いてみますね」

『君の名前はトウリだって』
『トウリ、それが私の名前』
『君は、日本や富士山、東京、転生者という言葉を知ってる?』
『何それ? どれも知らないわ』

あれ? 予想と違った返答が来た。
この子は、転生者じゃないの?

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