【完結】消えた一族の末裔

華抹茶

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50 シモンside

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 戦争が終わった。わが軍の勝利で。
 しばらくするとアレクシスが帰って来た。私は出迎えることは出来ないため、与えられた部屋でその報告を聞くだけだ。

 あの日、ラフヘッド副団長が味方を無差別に攻撃し、あまりのことに驚き動けなかった私は隷属の首輪を着けられた。自我を抑えられ、抗うことも出来ず、ただひたすらに戦争の道具として魔法を放つ。
 今でもあの時の光景を夢に見て、深く眠ることが出来なくなった。でもこれは私の失態。私が背負うべき業。私が捕らえられなければ死ぬこともなかったたくさんの人々。毎日彼らに懺悔の祈りを捧げるも、今私が生きていることが罪なのではないかと、自死すべきなのではと日々悩んでいる。
 だが思いとどまれているのはリュークの存在があるからだ。危険を冒してまで私を隷属の首輪から解き放ってくれた息子。泣きながら「おかえりなさい」と言われ、そんなリュークのことを思えば自ら命を絶つことなど出来なかった。

 首輪から解放されたが、私の魔力回路は壊れてしまった。だがこれで私には何の価値もなくなった。魔法騎士をやめることも出来る。
 戦うことが好きではない私には、魔法騎士という職は最後まで好きにはなれなかった。ただその道しか許されず従ったに過ぎない。それから解放されるというのは、想像以上に気分が良かった。
 だがこれから私はどうすればいいのだろうか。魔力回路が壊れていることも、検査で証明された。だが私が犯してしまった罪は重い。無罪放免とはならないだろう。
 私のことが気に入らなかった貴族連中は、これを利用し私を断罪するに違いない。
 私個人はそれでも構わない。むしろ罪を背負って生きていく方が、手にかけてしまった人への餞になるだろう。だがリュークと共にいられなくなることが辛いと思ってしまう。なんと浅ましいことか。私が手にかけてしまった人は、もう二度と愛する人と過ごすことが出来ないというのに。

「シモン・マスターソン殿。謁見の間へご案内いたします」

「よろしくお願いします」

 今日は戦争が終結し、私の判決と今後の身の振り方が決まる日だ。毎日のように顔を出してくれたリュークも今日はいない。
 陛下の侍従に連れられ謁見の間へと進む。ここへ来るのも随分と久しぶりだ。
 中へと入れば、玉座には陛下と殿下。そしてその近くにはアレクシスの姿が。少しやつれた様にも見えるが、相変らず凛々しくそこに立っていた。その懐かしい顔を見てほっとする。生きて戻って来てくれたことを自身の目で確認出来た。これで十分だ。
 私が入ってきたことで周りが少し騒がしくなる。大臣をはじめとする貴族たちだ。きっと私の見た目が変わってしまったことに驚いているのだろう。すっかりと色が抜け落ちてしまった私の白髪。「気味が悪い」との声が聞こえてしまい、こんな姿を見せてしまったことに申し訳なさが募る。

「シモン・マスターソン。今からそなたについていくつか質問をする」

 陛下のその言葉から、私への質問が大臣から投げかけられた。
 私自らが隣国へ寝返ったのか。この国へ謀反を起こす気はあったのか。宰相であるラフヘッド公爵家との繋がりはあったのか。
 それらに一つ一つ答えを返していく。ただ正直述べたとしても、私のことを疎ましく思っていた人は「嘘を付くな!」といった野次を飛ばしていた。
 私はきっと、そのまま何かの罪を着せられるのだろう。今の私には魔力がない。反撃されることを恐れる心配もない。今までの不満をぶつけるいい機会を逃すことはないだろう。
 よくて一生幽閉。悪くて反逆罪で処刑といったところだろうか。リュークに会えないのならば、どちらでも同じだ。

「シモン・マスターソンを処刑に!」

 一人の男が声高々にそう叫ぶ。それを皮切りに「そうだそうだ」と場は荒れた。私自身、彼らに何かをした覚えはないというのに随分と恨みを買っていたようだ。ただ平民という身分で膨大な魔力を持ち、国一番の魔法の使い手になったことがそこまで許せないのか。どうあってもこの人達と交わることは出来ないと改めて感じる。
 ここで私の命も終わるのならば、もうどうでもいいのだが。
 
 ただぼんやりと、そのやり取りを眺める。私が何を言ったところで何も変わらない。処刑が決まり私が死んだら、リュークはどうなるだろうか。あの子のことだから、ずっと泣いて過ごすのかもしれない。
 だがそんなリュークの側にはルドヴィク君がいる。彼が側にいてくれるのならば安心だ。

「静粛に」

 陛下の低音が響いた。するとあれほど荒れていたこの場がしーんと静まり返る。

「シモン・マスターソン。そなたが自ら寝返ったわけではないことは調べがついている。だが犯してしまった罪は消えん。ラフヘッド家の罠に嵌ったのは、そなたの油断が招いたこと。よって、幽閉とする」

 私を処刑させたかった貴族は、それに異を唱える。だが陛下はそれを黙らせ、覆すことはしないと明言した。
 私の命は助かったものの、リュークにも会えずに生き続けるのは死よりも辛い。だがそれが私の償いになるはずだ。

「陛下、発言をお許しください」

「アレクシス・レインズフォード。発言を許そう」

「はっ。有難きお言葉」

「……アレク?」

 一体何を言うんだ? 今私の刑が決まったところだというのに。まさか君も私の処刑を望んでいるというのか……

「シモン・マスターソンの身柄を私に預からせていただけませんか。我が屋敷にて監禁し、監視することをお約束いたします」

「……ふむ。そなた自身が監視するには不満はないが、そなたは騎士団長だ。屋敷に残っている者だけではシモンを抑えられまい。魔法が使えないとはいえ、魔法騎士として武術の心得がある。シモンが脱走を図ることになったらどうするつもりだ?」

「はい。ですので私は騎士団長を辞任いたします」

「なっ……!?」

 アレクが騎士団長を辞任!? 私を監視するためだけに辞任するというのか!?
 一体何を考えている……君は魔法騎士たちからも厚い人望があるというのに。これからも魔法騎士団を引っ張っていくべき君が、私を監視するためだけに辞任を選ぶなんて!

「そもそも彼を副団長に任命したのは私です。ならばシモンを任命した私にも罪はあります。幸い、我が魔法騎士団には優秀な人材も多くおりますので、騎士団の今後についても問題ありません。私は騎士団長、そして魔法騎士を辞職し、シモン・マスターソンの監視をすることで自らの罪を償おうと思います。それをお許しいただけませんか」

「へ、陛下! 発言をお許しください!」

 アレクを止めなければ。そう思い、私は陛下に声を上げた。だが、私は発現する許しを得られなかった。なぜ。私がよからぬことをしでかすとでも思ったのか。
 今まで私は国のために尽くしてきたつもりだ。だが陛下も殿下も、私が今まで行ってきたことをなかったことにしているのか。

「アレクシス・レインズフォード魔法騎士団長。これより、そなたの団長職を解く。そなたの言い分を認めよう」

「はっ。有難き幸せ」

「そんなっ……」

 なんてことだ……私一人の問題なのに、アレクまで巻き込んでしまうなんて……
 私の発言が許されないまま、私の処分が決まった。そのまま退室を許され、宛がわれた部屋へと戻る。
 ソファーへ力なく沈み込む。なんということだ……アレクが魔法騎士を辞めることになるなんて……

『俺はいつか騎士団長になるんだ。俺がこの国の魔法騎士を引っ張っていく』

 学園を卒業し、入団前に誇らしくそう言っていたアレク。その夢を叶えたというのに、私という足枷が彼の夢を壊してしまった。
 私はずっと彼に守られていた。学園にいる時も、魔法騎士になってからも。私は彼に恩を返すどころか、彼の夢を壊してしまう存在に成り下がってしまった。
 これならば、処刑された方が良かったのかもしれない。
 どうして……どうして私を認めてくれた人が苦しまなければならないのか。

 一人思考の渦に落ちていた時に、私の部屋の扉が開いた。その音にふと顔を向ければ、そこにはアレクの姿が。

「シモン。久しぶりだな」

「アレク……」

 アレクは朗らかに笑って、私の隣へと腰かける。その顔には後悔も何もなく、むしろしがらみから解放されたかのように明るい。

「アレク、どうしてあんなことをっ……! 私は逃走するつもりもないし、これ以上誰かの迷惑になるつもりもない! 今すぐに取り消しをっ……」

「あの場で陛下に認められた以上、もう誰も覆すことは出来ない。それはお前もわかっているはずだ」

「なぜっ……! 私のせいで、君までこんなっ……!」

「泣くな。俺はお前の涙に弱い」

「ぅっ……」

 アレクは私の涙をそっと指で拭うと、そのまま額にキスをした。突然のことに驚き、石のように固まってしまう。

「何を驚いている。昔はこれ以上のことを何度でもしただろう」

「な、なっ……!」

 それは学園に通っていた二年の間だけ。アレクがマリアと婚約してからは、一切の触れ合いはなくなった。私から距離を取ったのだ。私とアレクがそういう仲だとマリアに知られたら、この婚約自体無くなってしまう。それだけは阻止しなければならなかった。

「マリアに言われただろう? 『私が死んだらアレクをお願い』と」

「なぜそれを……?」

「マリアは俺達のことなどとっくに知っていた。婚約を結ぶ前からだ」

「は……?」

 マリアが、婚約をする前から私たちのことを知っていただって……? マリアは私がアレクを慕っていることは分かっていたと思うが、関係を持っていたことまで知っていたと……?
 そんな馬鹿なっ……そんなはずはっ……

「俺はレインズフォードの嫡男で兄弟もいない。どうしても跡継ぎを作らなければならなかった」

 わかっている。だからアレクにはマリアが必要だったし、私もそうするべきだと思っていた。元々平民と貴族で、ましてや男同士。後継問題を抱えるアレクとは、あの一時だけの触れ合いでも私には十分だった。
 どうせ私には子供の時の魔力暴走で子供が出来ない体だ。結婚なんてするつもりもなかった。私の心はアレクに預けたのだから。

「マリアと俺は最後まで恋愛感情というものはなかった。どちらかといえば同志という言葉がぴったりと当てはまるな。お互い貴族としての責任を果たす。その為だけに一緒にいただけだ。もちろん、家族としての情や愛はあった。だが全てを欲しいと恋焦がれる気持ちは、シモン。お前にだけだ。あの時からずっと、俺の気持ちは変わっていない」

「アレクッ……」

 ああ、どうしてそんなことを言う? 浅ましくもそれを嬉しいと思う私はどうしたらいい……?

「陛下にああ言ったのは最初から仕組まれていたことだ。事前に陛下から了承をいただいている。お前を堂々と迎え入れるために、一芝居打っただけだ」

「え……?」

 あ、あれが仕組まれたこと!? 今日私の処分が決まる前に、陛下に相談済みだったなんて……

「俺はお前を逃すつもりなど毛頭ない。どんな形であれ、お前が俺の元へ呼べるならなんだっていい。俺も十分働いた。それに魔法騎士でなくとも、領地経営が残っている。お前の残された未来を、俺と共に過ごしてくれないか。愛している、シモン」

「アレクッ……うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 あんなことをした私を、それでも愛していると言ってくれる。私が自らの罪を償うのなら、アレクの手を取るべきではない。それを分かっているのに、ずっと焦がれた相手が私を求めているとわかって、自分の気持ちに嘘が付けなかった。
 そのままアレクにしがみ付きひたすら涙を零す。そんな私をもう離すものかとでもいうように、アレクは強く強く抱きしめてくれた。久しぶりのアレクの体温が気持ちよくて嬉しくて。幸せになってはいけないと思うのに。
 もうこのぬくもりを放したくないと、浅ましくもそれを望んでしまった。

 その日の夜は、久しぶりにアレクに抱かれて朝を迎えた。
 お陰で体のあちこちが悲鳴を上げている。だが体とは違い心は充足感で満ち溢れていた。久しぶりに感じたアレクの熱が、あの時の気持ちを思い出させてくれた。いや、それ以上に昂らせてしまった。

 これから私は自由に外へ出歩くことは出来なくなる。だが、それでいい。
 アレクと共に未来を過ごせるのだ。リュークにも会えるのだ。それ以上望むものは何もない。
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