魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十章

『杞憂に近い懸念』

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 何というか思い話しを聞いたが対処のしようはない。
仕方が無いので事態を先送りし、今のうちにやっておくべきことを順番に片付けることにした。こちらが協力的ならラファエロ・ゴメスも迂闊にイル・カナン政府に三胴船の情報を漏らさないと推測したのもあった。

それに時間の掛かる事は先に島しまう方が安心できる。

「彼らの報告を聞いたら空飛ぶ練習をするから、ユーリは今のうちに陛下に送る手紙でも考えといてくれ。元気ですとかゴーレムがどうのこうの以外にな」
「え~。面倒くさいよー」
「後に残すと余計に面倒くさいぞ」
「はーい」
 ユーリ姫の手紙と一緒に、海水浴場の話でもレオニード伯に送る事にした。
相談しておかないと怒られるし、伯爵だけならまだしも、陛下も一緒になって何かの懸念を抱かれると困るからである。ついでに空飛ぶゴーレムに関しては既に報告が行っていると思うが、どの程度の性能かをあわせて報告書は書いて置いた。

あとはユーリ姫の手紙と一緒に支社へ持たせるだけと言う訳だ。

「報告を聞こうか。まだなら最初から『成果』ではなくとも構わない」
「問題ありません。一応は全部の部屋を回れましたので」
「もう何度か行って確認する方が良いでしょう。しかし、遺跡としてはともかく『謎の施設』としては攻略したと思います。後は隠し部屋とか秘匿された秘文の類があるかどうかのチェックだけになります」
 戻って来た冒険者たちから話を聞くことにした。
遺跡探索のリーダーであるホーセンスは簡単に答え、生真面目なフョードルは現状を丁寧に補足して説明する。この辺りはやはり集団を率いたことがあるかどうかの差だろう。

ともあれツッコミを入れる気も無いし、叱責を入れる気も無いのでチャッチャと済ませておこう。

「先に言っておくが、遺跡の学術性に関しては必要に応じてで構わない」
「遺跡研究者としての権威を高めたいから、余人には話さないのもアリだな」
「重要なのは魔物の脅威がなくなったか、他国からの干渉があるかどうかだ」
「もし話して世に広めたい、あるいは遺跡を残しておきたいと言うならば、その意義を示してくれ。何も無いならば俺はともかく、後世の領主やそれこそ大工たちが無価値だと思って勝手に崩してしまう可能性があるからな。その辺りは依頼をこなす専門家としての見地と、遺跡探索を行う物としての見地を勘案して答えて欲しい」
 という訳で、先にスタンスを示しておく。
こちらも彼らに話してない事があるし、同時にゴーレム研究家としては話せないことが沢山ある。だから遺跡に関して話す気が無いというならば、ゴーレムで周辺ごと破壊して更地に変えるまでだ。何かしらの理由で残して欲しいならば、少なくとも後世に残すべき意味を話してくれないと始まらない。

そういった事を説明すると、顔を見合わせてから確認が来た。

「私はどちらでも構いませんが……よろしいので?」
「三胴船の秘密を喋るなと釘を刺して居るからな。魔術師ならよくある事だ」
「で、では説明いたします。正直、どこまで残しておくべきか判断がつかないのですが……一応は説明をしておいた方が双方のシコリにならないかと」
 正直な話、俺にとっては遺跡なんかどうでも良い事だ。
おそらく子孫たちもどうようだろうし、現場で作業する大工たちにとっては輪をかけてどうでも良い事だろう。それこそ商人たちが商機を感じて居たら、遺跡があっても埋めたり破壊してしまう方がありえるのだから。

なので重要なのは魔物が出ないかどうかであり、その後に使えるかどうかの話になる。

「では聞かせてくれ。魔物が住み着く前は何の建物だったんだ?」
「ゴルビー男爵はご存じだと思いますが、この辺り一帯の海は遠浅がずっと続きます。どうやら昔はあの辺りが砂浜で、当時はずっと大地の位置が高かったみたいですね。山の中腹に翼をもつ亜人たちが棲み家を作り、暮らしていたと思われます」
 ホーセンスの認識と情報収集の甘さは仕方が無い。
最近はずっと冒険に行っていたのだし、そもそも彼が何を研究したいのか定まっていない事も影響しているだろう。隣でフョードルが肘を突いているが、情報流出とか口に聞き方とか俺の爵位が上がっている事とか色々ツッコミを入れたいに違いない。

ともあれ、ここで重要なのは当時の水位の話である。

「ほう……ということは地殻変動でもあったのかもな」
「ちかく……? 何かあったんですか?」
「大地震で大地が隆起したりすることだ。小さな島くらいなら直ぐに消えるぞ」
「へえ……そうなんですか」
 なんというか俺の言葉を聞いて首を傾げる。
まあこの時代に本来はない事から仕方が無いとも言えるが、自分以外は馬鹿の集団と思っていて、何を根拠にそんな事を言ってるんだ……みたいな表情をするのは止めた方が良い。なんというか転生の前の地球では価値観がいろいろ変っていたが、差別意識の強い奴は結構居た。

もしかしたらホーセンスは自分の一族とか所属する組織とか以外には、あまり関心を持っていないのかもしれないな。注意して他人を見て居れば、自分より優れた所は直ぐに見つかるのだから。

「でも根拠はあるんですか?」
「今のゴルビーは荒野と砂漠だが、昔は洪水も多く山の土が運ばれて肥沃だったらしい。上流にある川の周囲には竹がたくさん植えられているが、植物が多いと治水代わりになるんだ。今の環境だと不要な対策だが、昔は暴れ川だったか意味が出てくる」
「ふーん」
 だからその顔を止めろと言いたい。
きっと白人を前にした明治時代とかこんな感覚だったんだろうなと思った。しかし、こいつ俺が魔術師で新型ゴーレムを作って居るのとか気にしてないのかね? あるいは兵器としてしかみていないので、兵器を作る呪文なんか下に見ているのかもしれない。

それはともかく、この話をどう利用するか……だ。

「ひとまず状況は理解した。君たちの任務は一応此処までだが、解散しても良いし、仕事の宛がなければ私が暫く雇おう。巡回やマジックアイテムを作る仕事は幾らでもあるし、遺跡の研究がしたいなら似たような海岸線の調査になるな」
「……ええと、それはありがたいのですが、どうする気なんです?」
「別に君の研究を奪う気はないよ。ただ、必要になる場合があると備えただけだ」
 俺が解散宣言を出す事よりも、研究を利用されないかに反応している。
魔術師としては当然だが、自分よりも成功している魔術師を前にして、研究成果を奪われないように身構えるのが遅い応な気がするな。まあこちらは奪う気はないし、そもそも今の学院に考古学とかないからなあ。

もし研究成果を発表しても、重要になるのは何百年も先の事だろう。

「必要……何か僕の研究を利用する気なんですか?」
「逆だ。以前に地面が沈下したなら同じことが起きても不思議じゃないだろ? 逆にまた元に戻る必要があるからな。その時に備ることは有効だし、地面がもっと沈むならともかく、戻るなら危険になる場所も増えるだけのことだな。幸いなことにゴルビーは無関係だが」
 胡乱な顔をするホーセンスに丁寧に教えてやる。
彼の研究を奪う価値など無いのだが、数百年単位で地殻変動が起きるならば備えるべきだろう。もちろん本当に起きるとしても、何万年とか何百万年単位の筈だけどな。

逆にいえば、今の地盤沈下が『一時的』であった場合は、ちょっとした弾みで元に戻ってしまう可能性はあるのだ。

「ここではない必要な場所……?」
「東部沿岸が全体的に沈んで他が隆起したとして、あるだろう? かつて魔族の島と陸続きだったかもしれない場所が」
「あ!」
 もし、この場にミケロッティやラファエロが居たらもっと早く気が付いただろう。
魔族たちは島に住んでいてこちらから攻め難いのだが、かつては向こうに前人未到の山脈がったのではなかろうか? そしてちょくちょくこちらに攻めて来たが、陸地が沈んで島に孤立したという考えである。

今の変化が普通の変化ならば何万年も先の変化だろう。
だが、一時的な変化で元に戻るならば、魔族の島が再び陸続きになるのかもしれないのだから……。
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