魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十章

『ヘヴィな展望』

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 ラファエロ・ゴメスは招かれざる客だった。
それは最初から判っていた事だが、その背景にどこか狂気、あるいは狂おしいまでの目的が見える。

その根幹はおそらく、魔物退治であろう。

「うちの領地はね、半島にあったんです」
「生存者の救出ですか? 奴隷として捕らえられた家族や領民を救いたいと?」
 地形を聞いただけで、その過去が凄惨であったことは伺えた。
それだけで彼の目的意識が何となく見えて来るし、ちんたら権力闘争をやっているイル・カナンの連中に反感を抱くのも判った。だが、それは知識として判った気になっているだけであり、彼の気持ちは所詮他人事なので理解できない。

ラファエロは首を振ると何とも言えない笑みを浮かべた。

「御心配なく。いよいよ支えらなくなって決死の脱出を計画しましたから。でもね、その直前で伝令が届いたそうなんです。『その場で死守せよ、後退は認めない。逆らう場合は、全て反逆者として見なす』とね。とうてい貴族に出す命令ではありませんよ」
「ラファエロ卿……」
 貴族には独自の裁量権がある。そもそも相互に守り合う契約だ。
王国は貴族を庇護し、貴族は国家に忠誠を尽くすという建前で互いに独自裁量権を持っている。国王とはいえ貴族に頭ごなしに命令する権利はなく、それを考えればその命令は実におかしい。精々が『可能な限り徹底抗戦を臨む。抗戦する間は援護を行う』というものが妥当な範囲であろう。はっきりいって、この命令をその辺の貴族が受ける筈はない。

だが、ラファエロやアンドレイ副団長が一定の評価を受け続けている当たり、相当な名門だった。おそらくは武人として名を馳せた一族だろう。

「ですから急ぐ必要はありません。戦える者はみな討ち死にしてしまいました。例外は王都で勉学に励んでいた私や、離縁に近い形で故郷に戻っていたアンディとその母親たちですかね。ああ、難民と化した領民も居た様ですが」
「では、貴方の目的は何なんですか? 復讐? それとも領地の復興?」
 泣き笑いのような笑みをラファエロは浮かべていた。
今まで張り付けていた胡散臭い造り笑いよりもよほどマシだが、見ていて気持ちの良いものではない。どこか寂しげで、何処か狂気を感じさせるからだ。

それこそイラ・カナンを復興させて、自分が後釜に座るとかで済めば御の字だろう。

「守るべき領民も、栄誉ある騎士団も居ないのに? それものうのうと暮らしていた王都の連中の為に苦労して取り戻すんですか? まあ、化け物どもを放っておけないのは確かですけどね」
「それならば貴方は私に何をして欲しいと言うんですか?」
 最低でも故郷から魔物たちを消し去りたいというのは確かだろう。
だが、旧イラ・カナン王家とその取り巻き連中に対して忠誠を抱いていないのは確かだった。何なら彼らを道中で始末して、瓦礫の王宮で一人寂しく戴冠式でもして居そうな雰囲気がある。その後に何もせずに寂しく老爺になるまで大人しくしてくれるならば協力しても良いのだが、大抵はロクな事には成るまい。

モノローグを語っていたラファエロは、俺の言葉に疲れた笑みを見せる。

「そうだな。あの空飛ぶゴーレムは素晴らしかった。発想を考えればあのような事が可能になるとは思いもしませんでした。時に、ゴルビー伯爵ならば、父の様な立場だった時に何とか出来ましたか? あるいは今この状況からイラ・カナンを何とか出来ますか?」
「……可能ですが、ソレをやったら間違いなく俺は一生幽閉されますよ」
 正直な話、その状況で空飛ぶゴーレムがあっても駄目だろう。
王都に複数機あったとしても、援軍として空を翔けて自軍の士気を上げたり、敵の士気をくじくのが精々だ。もし賢者とか大魔導師が居れば背中に乗せて爆撃……は無理だな。そもそもその当時には産まれて居なかったはずだし、生まれて居たとしても空中を飛び続ける魔力がない。

アンナの様な魔力を回復できる者が飛行の呪文を維持して、セシリアの様な豊富な魔力を持つ者が魔力を譲渡する呪文を賢者に与えればなんとか?

「私は今、冷静さを欠こうとしています。その話を詳しくお願いできます?」
「眠りっぱなしの超大国がそこに居るでしょう? 連中を本気にさせればオロシャどころの話じゃないですよ。その代り、人間は一生奴隷扱いかもしれませんがね」
 転生前の小説で末期大戦物というものがある。
ようするに追い詰められた国家がどう戦うか……を読むマゾヒスティックな小説である。具体的に言うと『このバグみたいな超大国を作らせた馬鹿は誰だ!?』と言わんばかりの米帝プレイを敵に回し、孤軍奮闘する少数精鋭がすり潰されていく様に興奮する話である。

話が逸れたが、水棲種族に全面的な協力を求める他はない。

「ああ……そうか。その手がありましたか。そして……その挙句、戦力や逃げ場が手に入ったとしても、領民も家族も奴隷になった……と。どっちがマシだったんですかね?」
「俺は当事者ではないから何とも言い難いですね」
 ラファエロ卿の父親が高名な軍人貴族として、水棲種族に頭を下げるか?
誇りであるとか国家への忠節とかその辺を乗り越えたとしても、水棲種族は引き気味の超絶リアリストだ。米帝どころではない水中資源を抱えているが、それ以上に幾らでも逃げられるので陸上に関わる気が殆どない。『滅亡しつつある領地貴族』という状況を打開するならば、領民全てを奴隷にするという言い訳で、彼らに譲り渡す気があるだろう。その上で、生活を保障するために領主の一族も身売りしないといけない。

問題なのはその手を使った場合は王都に居たラファエロは国家反逆罪で処刑されるだろうし、そうならなかった時点で彼には何も言う権利が無いのだ。もちろん部外者である俺には最初からその権利もない。

「もしあなたが今からその伝手を手に入れるとしても、個人的には無関係な場所で恋人でも作って何もかも忘れて暮らすことをお勧めしますがね。水棲種族の力を借りれるなら、西でも東でも開拓領主くらいは出来るでしょう」
「ははは。それも確かに良いかもしれませんね。でも、故郷を取り戻さない事には一歩も進めないんですよ」
 話すだけで実に疲れる会談がようやく終わった。
いずれ彼はまた現れる気もするが、もしまともな方向に動いてくれるならば……という前提だが、水棲種族を紹介しても良いだろう。とうてい今の段階では、物騒過ぎて紹介など出来ないが。

気が付けば冒険者もマーゴットたちも話の重さにドン引きし、食事の準備でもしようと退散していた。
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