ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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下層突入編

追い込みの計算

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 迎撃側のリーダーらしき召喚師を倒して撤退。
オーガなどの頭が悪い奴が追って来たものの、そいつらは中層に戻るまでに倒すことが出来た。敵が静止しなかったのか、それとも静止を聞かなかったのかは分からないが、練度はやはり低い様だ。

下層の確認という意味では呪文かは判らない。
だが、敵勢力の一部を削ぐという意味では問題ないだろう。そもそも今回は偵察であり、敵戦力の一部を倒したらさっさと退く気だったからな。

洞穴ケイブエルフは何人倒した? こいつは他と違うってレベルの奴を倒したか?」
「確定で五人アル。最後の召喚師は薬や魔法次第ネ」
「槍使いは最初から居た小頭だな。中層の奴より少し下だ」
 俺の問いにブーとフーのオーク兄弟が答える。
中衛で遊撃役のブーや、俺達の中で一番強いフーの基準なのである程度は信用が出来る。生命探知の呪文が使ってあれば確実だったのだろうが、流石にそんな呪文は覚えていない。目算……というには二名ほど姿を隠していたが、代替の想像が出来た。

ともあれ、これで試算が出来る。
推測がどこまで正しいかは別にして、与えた被害をおおよそ推測できるはずだった。次に上手くやればどの程度の残存戦力かも測れるかもしれない。

「召喚師に関してはあくまで重傷、今回のみのスコアにしとこう」
「だが幹部の一人が戦えず、そいつが報告出来ないのは大きい」
「そいつの穴を埋めるためにも、少なくとも俺たちが戦った以上の戦力を張り付ける筈だ。戦い慣れた頭を置くとして、現在は下層の頭が二人動けない状態。反対から攻めて上手く戦える可能性は上がったと言っても良い」
 俺は地面に判り易く◎を描いた。
頭を示す大きな◎を二つ、そのうちの一つに小頭を示す〇を二つ。もう片方に同じく小頭を二つ。戦力比重を考えればもう少し多いかもしれないが、不確定要素は考えない物とする。

そして彼らには雑兵という程に弱くはないが、呪文を使えて槍や弓で戦える部下が数人ずつ付いているだろう。そいつらは線を引くことで代用した。

「楽観論もあるが、確実に倒した合計は八人。抑えに回した戦力を十名と考え、負傷した召喚師と治療師も合わせて二十人ほどが動けない計算になる。最小でも五十名を下回ることはないだろうが、百名を大きく超えるとも思えねえ。これで守備戦力は大幅に減ったと思われる」
「ずっと此処で暮らしたならもう少し居そうだけど……」
「子供や老人を考えると大きくは違わないでしょうね」
 流石に部族の全員が戦えるとも思えない。
エルフ族系は魔法や弓で戦い易いとはいえ、戦闘力や生命力を考えれば、それほど役には立たない。エレオノーラも強い否定要素を持たず、エルフであるリシャールは自分の部族を思い出して簡単に計算したのだろう。大きな部族なのか小さな部族なのかで人数に差はあるが、割合と言う物はどこも同じようなものだ。

戦える奴自体は残り三十人かもしれないし、あるいは大きな部族で最低でも五十人くらいはいるかもしれない。しかし強い奴は軒並み場所を移動してしまっている筈だった。

「連中は次回両方を抑えないといけなくなる」
「その辺りを考えると人数的には後もう少し削りたいな」
「五十名は戦闘員が居る部族でも、半分ずつなら大したことはない」
「地形の魔法ばかり使ってたから、もしかしたら片方は埋めて来るかもしれんが、それはそれで後ろを気にしなくて済む。戦闘員もまた部族の一員だから、減れば減るほど戦う気も失せて行くはずだ」
 仮に今から十名を目標とするとして、小さな部族なら終わりだ。
戦力が残された二十名ちょっとになり、その戦力で両方は護れない。仮に片方の入り口を埋めて、もう片方に集中するとしても、そこまでする場合は数が少ないという推論を確定付けてしまう。二十名の誰が死んでも困る状態に追い込むことができるだろう。

もちろん最大級に考えて残り五十名だとそうでもない。
だが、十名をそれぞれの入り口に張り付け続け、援軍の手配を常にしなければならない。相当な苦労の連続の筈だ。こっちは少なくともそれに勝てるだけの戦力を整え、困ったら撤退すれば良いという考えで計画を組めば良いのである。

「数値目標は十。だが頭は四、小頭は二とする。さっきの連中だけなら召喚師を含めてもうちょっと、中層も含めるなら足したくらいだな。おそらくは強い奴はいないと思うが、どうだろう?」
「少数精鋭を狙うという意味なら判らなくもないな」
「私は問題ないわよ。数が少ない方がありがたいけど」
「困ったら逃げるヨ。それで良いなら問題ないネ」
 俺達で言えばオーク兄弟を除いたメンバーを思い出して欲しい。
エレオノーラは言うまでもないが、フィリッパや俺が死ぬと運営に困る。そこまで困らないが、リシャールやジャンが死ぬと、やはり色々と支障が出て来るのだ。そんなメンバーでダンジョンに挑むなと言いたくなるかもしれないが、ここはあちらさんを考えよう。

数名の戦闘員を束ね、そうではない十何人かを束ねる幹部である頭が死に、その次席・三席の小頭が死ねば組織としては瓦解し始める。実は反乱中で、もう一つの部族が居るというオチでもない限り、リーダー格が何人もしれば大問題になるわけだ。

「あの……もし子供ばかりだったらどうしましょう?」
「そんなことに気を取られている場合じゃあ……」
「いや、問題ない。想定すること自体は悪くないが……正直話、ゴブリンが反乱を起こしたり、オールド・キメラが襲ってくる可能性があるんだ。施設の奥で育てるんじゃなくて、入り口で育ててるなら奴らの方が悪いだろ? 俺たちが躊躇するのはおかしいというべきだな」
 リシャールが尋ねて来るが、まあ気分的には判る。
他のメンバーはいまさら何を言ってるんだと言わんばかりだが、子供であり部族の者がみんな死んだリシャールにとっては他人事ではないだろう。だが、現実は非常だし、そんな事も想定して居ないならば向こうの方が愚かだったことになる。

相違言えながら、俺は簡単な構造を地面に書き記した。

「だが……そうだな。全部は言えんが大まかにこんな構造だ。そして地震で落盤したとか言う話は聞かない。もちろん奥に居るなら、次回で降伏を勧告するぜ」
「それなら良かったです」
 降伏に乗って来なければ結局は殺すことになるだろう。
だが、今日今から偶然そこに居た子供を殺すのと、占拠した相手であり降伏勧告までしたのに意地を張って降伏しない相手……どっちに同情するかは言うまでもない。勝手に地形を教えたことでエレオノーラは怒るかもしれなかったが、仕方ないな問わんばかりの目だったので、やはり気にはして居たのだろう。

「そういう訳だ。ポーションで回復したら向こうが驚いている間に攻めるぞ」
「「了解!」」
 こうして俺たちは作戦を決めると、裏手に当る入り口に向かうのだった。
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