ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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下層突入編

偽りの攻勢

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 あえて新型ではない旧式ホムンクルス達に剣と盾を持たせた。
これは盾を構えて防御主体の戦いをすると、戦闘力がそれほど発揮できない為だ。耐久力と体力の差でしかなく、盾を使って殴れない、あるいは矢を九発か十発の差というところだろう。ならばあえて最新型を無駄にする事も無いと思った為である。

これが悪かったのか、良かったのか……。
結論から言えば、最前列に置いた二体は破壊されたした。人造生命体でも命がある事を考えれば、戦死と呼ぶべきかもしれない。

「フー! 少し行動を遅らせろ、姿を隠した奴が少し後に来る!」
「ジャンさんはその間にそいつを倒して並んでください!」
「エレオノーラはそのまま待機! 火球以上優先のままだ!」
「俺はその間に……こうする! この場にある魔法よ去れ! ディスペルマジック! そこだ、フー!」
 呪文型ホムンクルスの指示で俺は姿隠しを行っている敵を見つけた。
下層に降りた後でほどなく予定通りに洞穴ケイブエルフと戦闘になったわけだが、敵が落ち着いた時点で姿隠しを使い始めたのだ。これで何度目かの発見。有頂天に成った俺は解呪を使い続けた。思えば位置だけ判れば良いのだから、風の刃で切って血を流した方が魔力コストが安かったよなと思わないでもない。数を増やす魔法拡大も使えば、攻撃も同時に出来たのだから。

他にも予定通り過ぎて失敗したのが前衛ホムンクルスの維持だ。
単発呪文を連発されることを前提にしており、盾を持たせて堅実に戦わせていた。敵前衛であり、荷物運びだったオーガと奮闘。その間に何度も喰らった石弾や、水晶の矢を受けて一体が倒れた。二体目が倒れるのももう直ぐだろう。思えば敵はこの段階で、こっちを守る盾役を倒しつつ、同じく前線を支えるフー達から順番に殺そうと思っていたのかもしれない。

「そこか! フン!」
「流石! だが、こちらも終わらせたぞ!」
「二人はそのまま位置を維持! 何時もの連中を降ろすまで動かずに戦ってくれ! その後は暫く戦うが、いつか下がる事は忘れないでくれよ!」
 フーが姿を隠した敵をそのまま殴り倒す。
少し遅れてジャンがオーガを切り倒し、倒れるところを蹴り飛ばして脇に転がしている。流れ出る血で少し前に大した見えない敵を染めるのと、徐々に姿隠しの呪文が溶けて来るのはそのころだった。遅まきながら魔力の無駄使いに気が付いたのもこの頃だ。何というか予定通りに行き過ぎて、想定から外れる事を無意識に避けていたんだろうな。

思えば相手を迎撃した方が安全で、呪文型の指示を確認できるから維持していた。だが、少しくらい前進して相手を恐怖に陥れた方が良かったのかもしれない。それこそ見えない位置であろうとも、こっちから火球の呪文をばらまいて脅すという事もあったはずだ。その意味では少し失敗して出遅れたのかもしれない。

「そのまま、出たらダメよ! 魔法よ退け、カウンターマジック!」
「新手か! って……精霊をその位置に固定すんのかよ。俺は暫く動けねえ! 後は頼んだ!」
 エレオノーラが奥にある岩のようなナニカへ呪文を使った。
だが、それはよく見れば岩の精霊であった様だ。どうやら前線で盾にしても破壊されると見なして、中級から上級といった大地の呪文を使うための砲台にしたらしい。暫くはエレオノーラと一対一で、呪文を使ったり対抗した利が続くだろう。

それを避けるために俺は召喚魔法の解呪に掛かった。
そして先ほどと同じ解呪の呪文を使いつつ、選択肢のミスに気が付く。おそらくは先ほどは風の刃を無数に飛ばして前衛であるオーガや、姿を隠した洞穴ケイブエルフを切りつけるべきだったのだろう。そうすることで魔力を抑えつつ、敵陣の数を減らせたのだから。

「速くしてよね! 魔法よ退け、カウンターマジック!」
「戦ってみたいんだが……止めておくか」
「そうしておけ。召喚生物は幾らでも湧いて出る」
 やはりエレオノーラは呪文封じで手一杯。
少しだけ成長したジャンが大地の精霊を放置して、そのまま新しく駆けつけたオーガに連続で切りつける。その隙をフーが補うように、洞穴ケイブエルフの中で前衛役らしき槍使いの元へと飛び込んでいった。俺の呪文が完成するまであともう少し……。

そこで戦況を見渡しつつ、他に狙える対象が居ないか、タイミングを遅らせたら同時に解呪できそうな呪文が無いかを見渡してから、拡大式を混ぜ込んだ。

「この場にある魔法『たち』よ去れ! ディスペルマジック! 待たせたな! 精霊と一緒に足止めも解呪しといたぞ!」
「魔力の網? そんな物を使ってたの? 気が付かなかったわ」
「スロウの呪文と似たようなもんだな。まあ向こうも必死なんだろうよ」
 頭だけ出してやられないようにしていた精霊を解放。
同時にこっちのホムンクルスの動きを鈍らせていた魔法の網を解除する。あの呪文は確かスロウの魔法よりも高度だが、抵抗した相手にも暫く効くという利点があったはずだ。一時しのぎにしては高度過ぎる呪文なので、俺が中層でやった事と同じことを考えつつも、スロウのように丁度良い呪文が無かったのだろう。

あるいは単純に、霊石に蓄えた魔力に余裕があるのかもしれないが。

「ブー、リシャール!! 召喚師が見える位置に居るか確認してくれ!」
「フーとジャンは駆けつけた二体と一緒に前衛を維持を頼む!」
「見つけ次第に傷付いているもう一体を突っ込ませる!!」
「エレオノーラも含めた俺達四人で召喚師を攻撃。成功しようが失敗しようが下がるぞ! これ以上は消耗が激し過ぎる!」
 おそらくだが、上級幹部の一人が居る筈だ。
姿隠しを駆けているとはいえ、戦い慣れない同胞突っ込ませるとか、そういうのは上層部が居ないと出来ないだろう。同時に先ほど解呪した大地の精霊の事を考えれば、召喚師が敵幹部だと思われた。単純に洞穴ケイブエルフ数体と旧式とはいえ既にホムンクルスの犠牲では割に合わないが、相手が幹部が居るならば別だ。混乱している今の間に討ち取ってしまうべきだろう。

もちろん食糧管理している穏健派の可能性はある。
だがここで可能性だけで引くなどありえないし、殲滅でも構わないことを考えれば、ここは確実に仕留めておくべきだろう。

「見つけたヨ。ちょっと前に出た方が良いネ!」
「そういう訳だ。ここは覚悟してくれよ、エレオノーラ!」
「怪我したら責任は取りなさいよね? というか、ホムクルスを潰して採算採れてるのかしら?」
 ブーが合図を送りながら懐から手斧を取り出した。
何時もの短剣よりも太い物で、威力を少しでも増すためだろう。魔法の弓を持ってるリシャールは既に狙撃態勢に入っており、俺とエレオノーラは少しだけ前に出てホムンクルスに指示を出す。そしてタイミングを合わせてブーが狙った相手を攻撃することにした。

傷付いた個体を番号で名指しして直接命令し、剣を振り回させながら突進させる。そこから呪文を詠唱して、飛び道具での攻撃に続いたのだ。

「アレが召喚師! よく狙うネ!」
「雷光よ、迸れ。サンダーボルト!」
「風たちよ! 切裂け! ウインドカッター!!」
 ブーが手斧を投げ、リシャールが矢を放つ。
エレオノーラが貫通性の稲妻をぶっ放し、俺が何時もの風刃を数体に分けて放った。二人の呪文は撤退もそうていしたモノで、敵前線の一部を巻き込むことで撤退し易くして置いたのだ。

敵はこっちが突撃させたホムンクルスを倒すための命令で少し出遅れている。こちらの攻撃が次々と命中していくことで、倒したか少なくとも重症には追い込んだと思われる。

「よし! 撤収するぞ! まずはオレオノーラから、最後はホムンクルスに任せて下層から脱出する!」
「「了解!!」
 こうして俺たちは最初の偽装攻勢を終えたのだ。
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