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第一章 異世界転移
7 この木、でけぇ!
しおりを挟む「え? ここは……」
ガルルに乗せられた僕は、ありえん場所に来ていた。
目の前にあるのは、バカでかい大樹。
──グランドツリー 精霊が宿る木
例えるならどうだろう。
東京スカイツリーくらいの大きさかな?
「ガルル……」
ドサッ、と僕は地面に落とされた。
「いたっ!」
木の根が、ちょうどお尻に当たった。
「ここはなんだ……?」
見上げれば、木漏れ日が、きらきらと僕の顔を照らしている。
「おい、餌ならもっと大切に扱えよな! クソ犬!」
と、僕は投げやりに吐き捨てた。
どうせ死ぬなら、最後まで足掻きたい。
しかしガルルは、じっと僕を見つめたまま動かず、腰を下ろした。
たまに尻尾が、くるんと動いて、少しだけ可愛い。
「な、なんだよ……」
僕は、犬の化け物をにらみ、というか警戒した。
だが、襲ってくる様子はない。
安心した僕は、あたりを見渡す。
風に揺れる木の葉、落ちてくる枝、それに虫の舞い。
不思議な光りの粒子が、ふわふわと浮かんで、僕を包み込んでいく。
ここは異世界。神秘的な光景が広がっている。
──なんて綺麗なんだ……
しばらくすると、身体に変化が現れた。
足の膝が曲がり、腕が動く。
黒焦げだった右手の火傷も、あら不思議、きらきらと綺麗に治っていく。
なんと、体力が回復しているではないか!
「おおおお! 治ってる! 治ってるよぉぉ!」
僕は、嬉し涙をこぼしながら、すくっと立ち上がった。
「ガウッ!」
すると、ガルルが吠えた。僕の喜びに反応したのだろう。
──あ、この犬、仲間だな。
僕は、やっと理解した。
「ガルル! おまえ、僕を助けるため、ここに連れてきたのか?」
「ガウガウ! そうだ!」
さらに吠えるガルル。
なんとなく、そうだ、と言っているような気がした。
「え? いま、しゃべった?」
「いや草、ずっとしゃべってるでやんす」
「はぁ? まてまてまて!」
僕は、右手にはめてある、女神の腕輪を見つめた。
──おいおいおい! 動物とも日本語で話せるのかよ!
これは大発見。
ガルルは、ニコッと笑うと、僕の顔をぺろぺろ舐めてくる。
「おい、よせ、くすぐったいぃぃぃ、ヒャハハハ」
「すこすこのすこー! 森を救ってくれて圧倒的感謝!」
「わかった、わかったから舐めないでぇぇ」
「すまん、激高まりで、嬉しみがあふれちゃった」
「っていうか、その話し方なんなん?」
「ガウガウ、獣はこうやって話すやつが多いよ」
「……え? まじ? 女神の腕輪、壊れてるんじゃ?」
「……ガルぅ?」
首を傾けるガルル。どこか人間臭い。
僕は、腕を伸ばしてガルルの頭をなでた。本当にバカでかい犬だ。
「っていうか、ガルルって呼んでいい?」
「イエスイエス、拙者のことはガルルでいいでやんす。で、主の名前は?」
「僕はヒイロ、よろしく」
「ヒイロ氏、よろしゅう」
「ってか、ガルルって、雄? 雌?」
「いやん……拙者、立派な業物がついているが、見るかい?」
「いい、いい、見なくていい!」
「ガルル……悲しみぴえん」
「ぷっ、にゃははは! なんだそれ!?」
変な犬だな。
だが、異世界に来て、僕は初めて大声で笑った気がする。
不思議だ。さっきまで死にかけていたのに。
もう、気持ちは清々しい。
生きている、という実感が湧いてくる。
もしかすると、生還することは、人間の器を大きくするのかもしれない。
「ありがとう! ガルル、それと、グランドツリー!」
僕は、大樹に触れた。
その瞬間、ガサッと枝が揺れ動き、突風と地震が起きる。
「うわわわ!」
とても立っていられず、僕は腰を抜かしてしまう。
「びっくりしたー!」
思わず僕がそう言うと、木の影から、ひょっこり何かが飛び出した。
──ん? 女の子?
現れたのは、可憐な美少女。
十歳くらいだろうか。葉っぱのドレスを着ている。
エメラルドの瞳、くるっとした亜麻色の髪、元気いっぱいな小麦肌。
その頭には、草で作った王冠をのせていた。
──土の妖精 ノーム
彼女は、両手を腰に当てて、僕を見つめている。
「もー、びっくりしたのはこっちだよぉ」
「え?」
「人間に触れられるのは、数万年ぶりだもん」
──はい? この子、何歳だよ?
僕は、ぽかんとした顔をして、大樹を見上げることしかできなかった。
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