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第一章 異世界転移
5 僕を追放するなんて草
しおりを挟む「ヒイロ! おまえはパーティから追放だ!」
ミツルは、そう怒鳴ると僕をにらんだ。
──もう追放かよ、僕は異世界でもぼっちか、とほほ……。
アイリちゃんとオオタは、驚いた顔をしてミツルを見ている。
僕は、馬乗りのアイリちゃんの太ももを、ぽんぽんと叩いた。
「あ、あの……アイリちゃん、ちょっとごめん……」
「ん? ヒイロくん? 怪我、治った?」
「う、うん……でもさ……」
「え、なに?」
「どいて、くれる?」
「あっ、ごめん!」
そう言って慌てるアイリちゃんは、スッと飛び立った。
なぜか顔が赤い。
そのことが、余計にミツルを怒らせたのだろう。
彼は、ちょうど立ち上がっている僕に、殴りかかってきた。
「おまえ、アイリに何させてるんだよ!」
「……あわわ、あれは回復魔法のヒールをしたんですよ、ね? アイリちゃん」
そうそう、と言ってうなずくアイリ。
チッと舌打ちをしたミツルは、僕を一発殴った。
痛い。思えば、人から顔面を殴られたのは初めてだ。
口のなかが切れたのだろう。
血の味って、鉄臭くて、ねっとりしてるんだな。
「殴ることないでしょ!」
なんと、アイリちゃんが、抗議してくれるではないか!
だが不甲斐ない僕は、どうしたらいいかわからず、沈黙するしかない。
一方、オオタは自分の拳についた、ゴブリンの返り血を見つめている。
──こわっ!
僕は異世界に転移して、人間の本質がわかってきた。
人間って直接的に暴力を振るうと、性格が歪んでくるのだろう。
──やだやだ、こうはなりたくない。
僕は、どうしようか?
というのも、僕は平和主義者。
剣で切ったり、殴ったりするのはノーセンキュー。
だったら、ストラテジーを活かした武将を目指そうじゃあないか!
──ストラテジー 戦略、策略を意味する
そう、僕は前線で戦えない土魔道士。
ならば、知略を練って間接的に敵を倒そう。
つまり、魔法や人材を使って敵陣を制圧していこうと思う。
そして、ゆくゆくは三国志で有名な諸葛亮孔明のようになれば、あるいは……。
「おい! ヒイロ! さっきから何をぶつぶつ言ってやがる」
「……あ、ごめんさない」
「消えろ!」
「え?」
「もうおまえはパーティから追放したんだ! どっかいけ!」
はい、と僕は答え、踵を返した。
だが、アイリちゃんが僕の手を握って、止めてくれる。
──なんて優しいんだ……。
「いくことないよ! ヒイロくん!」
「……で、でも、ミツルが」
「気にしないでいいって、ミツルは本当はいいやつだから、ね?」
「……」
「今はちょっと、異世界に来てパニックしてるだけだよ、だからいっしょに来て、お願い」
「わかった、パーティに残るよ」
「うんうん! ヒイロくんは、あたしが回復してあげるからね」
「……あ、ありがとう」
ミツルは、本気で怒っているのだろう。
彼の顔は、まるで鬼。
身体からは、禍々しい赤いオーラが放出している。
完全に戦闘モードだ。圧がすごい。
っていうか……。
魔法が使える異世界は、感情がもろに表現されるのでわかりやすい。
ミツルのような単純な性格だと、すぐに反映されるから草。
「おまえが出て行かないなら……俺たちが行く!」
そう叫んだ瞬間、ミツルは速攻で動いた。
一瞬でこちらに近づく。は、速い!
気づけばアイリちゃんの腹に、ミツルの拳が入っているではないか!
「ゔゔっ……」
アイリちゃんは、あっけなく気絶してしまう。
──ミツル! 自分の彼女を殴るなんて、最低なやつだ!
「ミツル! 何やってんだー!」
オオタが、怒鳴り声をあげる。流石にオオタも怒っているようだ。
ミツルは、アイリちゃんをお姫様抱っこすると、ニヤッと僕を見て笑う。
「じゃあな!」
「待て! ミツル、なぜアイリちゃんを殴ってまで僕を追放する?」
「うっせぇわ! どうせここはゲームだ! 俺は最強の勇者だ! アイリは俺の女だ!」
「……ミツル、おまえ、頭大丈夫か?」
「あはは! 陰キャは陰キャらしく、ぼっちでやってろや!」
「待て! 落ち着けって……」
「食らえっ! ファイヤーストーム」
突然、ミツルの手から火の柱が放出される。
「アハハハ! ゲームの世界ってクソ面白いなー! 手から炎が出ちゃうよぉ、うっほほーい!」
「おい、やめろミツル! ここは森のなかだ。こんなことしたら火事るって!」
「バーカ! どうせゲームなんだから別にいいんだよ、火事なんかほっとけほっとけー! アハハハ」
「……狂ってる」
「あ! せっかくゲームの世界に来たんだ……よし、いいこと思いついた」
「……?」
「街に着いたら、宿でアイリと一緒に泊まろう」
「……おい、ミツル、何を考えてるんだ?」
「アイリは俺の家に来ても、門限がある、とか言って、いつもいいとこで帰るんだ」
「……え?」
「アッハハハ、童貞のおまえには、わからんだろうな」
「っぐ!」
ミツルの話は、意味不明だった。
そんなことより、火の勢いは強く、みるみる木々に燃え移っていく。
逃げ惑う動物たち、それにゴブリンや魔獣たちも。
──ん?
それらのなかに、ひときわ大きな犬の魔獣がいた。
その瞳は、じっと僕を見つめている。
──森を救って……。
そう訴えているような、そんな幻聴があった。
いよいよ、僕の頭もイカれてきたようだ。
魔獣の声が、聞こえるわけないだろう。
それにしても熱い。皮膚が焼け落ちそうだ。
僕は額から落ちる汗を、手でぬぐった。
──やばいな……すぐに火を消化してなくては、森が焼けてしまう。
「バイバーイ! ぼっちな土魔道士ぃ、あははは!」
自然や動物のことは何も考えないのか、こいつは?
バカ笑いするミツルは、アイリを抱いて走り去っていく。
一方、オオタは、燃え上がる森を見つめていた。
彼は、何を思っているのだろう。
その瞳に映る炎が、感情を揺さぶっているのだうか?
もしも善良な心があれば、ミツルの行動はおかしい、そう感じてるはず。
だが、オオタは慌てふためきながら、
「ミツルー!」
と叫んで、その後を追っていく。
僕は、あきれてしまって、ポカンと立ち尽くしてしまった。
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