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第一章 異世界転移

4  はい、モンスターですよ!

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「みんな、魔物がきます!」
 
 僕がそう言った、次の瞬間、ツノが生えた魔物が飛び出した。
 
 ──ゴブリン 餓鬼の魔物
 
 女神のブレスレットから浮きあがる枠に、そう書いてある。
 本当に便利なアイテムだ。
 僕が知りたい、そう思って触れると発動するのだろう。
 
「おいおい! いきなり魔物と戦闘かよ、剣がないのは痛いな」

 そう言ったミツルは、自分のステータスを調べた。
 
「だが、俺は魔法が使えるから問題なーい!」

 ──火魔法 ファイヤーボール火の玉
 
 ミツルの手から、ボワッと火の玉が放出された。
 見事、ゴブリンに命中する。
 よし、とミツルはガッツポーズ。
 だがゴブリンは、次から次へと現れるではないか。
 これには、ミツルも辟易した顔を見せる。
 
「おいおい、かなりいるな……アイリ、俺の裏に隠れてろ」
「うん」
「オオタは自分のステータスをみろ、何か使える魔法はないか?」

 ん? と言ったオオタは、腕輪をいじくってステータスを出す。
 
「無、魔法。これを使って拳に力を加えよう、って書いてある」
「よし、やれ」

 ミツルにそう言われ、オオタは拳に力を込めた。
 すると、みるみるうちにオオタの筋肉が膨れあがる。
 
 ──無属性魔法 プリーズマッスル筋肉にお願い
 
 まるでプロレスラーのようになったオオタ。
 彼の攻撃は、まさに瞬殺だった。
 たくさんのゴブリンは、ミツルとオオタによって一掃されていく。
 僕の出番は、まったくなかった。
 と、言うわけではない。
 僕は僕で、遠くにいるゴブリンの群れを、土のなかに埋めていた。
 文字通り、生き埋めだ。
 
 ──土魔法 ピットウォール落とし穴
 
 倒したゴブリンの数で言ったら、圧倒的に僕なのだが。
 パーティのみんなは、まったく気づいていない。
 だが、別に構わない。僕は、ふう、と息を吐いた。
 
「やったね! ミツルー! オオター!」

 飛び跳ねて喜ぶアイリちゃんは、ミツルとオオタに拍手した。
 するとそのとき。
 生き残っていたゴブリンが、突然、襲いかかる。
 狙われているのは、アイリちゃんだった。
 
「きゃー!」

 危ないと思った僕は、走り出す。
 とっさに、ゴブリンの攻撃から、アイリちゃんを守る。
 
「アイリちゃん!」

 ドガッと鈍い音が響き、僕はゴブリンの爪に引っ掻かれた。
 痛い! 腕が血だらけになっている。
 
「うおぉぉぉ!」
 
 雄叫びをあげる僕。
 すると、なぜか地震が起きて、ゴブリンはひっくり返った。
 そして不思議なことに、突然空間から岩が落ちてきて、ゴブリンに命中。
 なんとか、ゴブリンを倒したようだ。
 
「はぁ……」

 ほっとした僕は肩を落とした。
 いろいろなことが起きて、よく説明できない。
 だけど、アイリちゃんが助かってよかった……。
 ミツルとオオタが、騒いでいるが、よく聞こえない。
 アイリちゃんが、僕の手を握っている。
 ああ、だんだん、意識が朦朧としてきた……。
 
 ──僕は出血多量で……死ぬのか……。
 
 あちゃあ、これから面白くなるところだったのに。
 異世界に来て、ワンチャン、僕の人生もやり直せると思ったのに。
 
 ──あーあ……。
 
 瞼が重い。もう死ぬわ……。
 と思った瞬間、僕は温かい光りに包まれた。
 
「ん?」

 ふと、目覚める僕。
 
「え……ええ!? アイリちゃん?」

 気づけば、僕はアイリちゃんから抱きしめられているではないか!
 
 ──光魔法 ヒール回復
 
 なんとアイリちゃんは、魔法で僕の傷を癒してくれていた。
 だが、やり方がよくわからなかったのだろう。
 シンプルに、僕を抱きしめる、という方法をとっている。
 そのおかげで、血だらけだった腕は、綺麗に完治した。

「……ヒイロくん」
「……アイリちゃん」

 いまだにアイリちゃんは、倒れた僕の上にまたがっている。
 むにゅっと当たるアイリちゃんの胸が、心臓の鼓動を速くさせた。
 
 ──ああ、気持ちいい……。

 僕は、生まれて初めて、女の子から幸せを感じている。
 しかも、憧れのアイリちゃんから、ああ、尊い、尊いよぉ……。
 するとそのとき。
 
「追放だー!」

 顔を真っ赤にしたミツルの叫び声が、森に響いていた。
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