目指すは正義のコントロール! 〜命がけで魔法犯罪を取り締まる中学生活、始まりました〜

神所いぶき

文字の大きさ
20 / 24
第3章 レッドフェイスを止めろ!

19.通過点と終着点

しおりを挟む
§

 静かな図書室に、紙をめくる音だけが響く。
 私は一通り本棚を眺めてみたけど、タイトルを見ただけでも難しそうな本だらけで頭が痛くなっちゃった。
 ……みんなは、何の勉強をしているのかな? 気になった私は、近くにいたカヤトくんが読んでいる本のタイトルを読み上げてみた。
「『火属性設置型魔法対策~火の抑制式のすべて~』?」
「うおっ。急に声を出すな。びっくりするだろうが」
「ごめん。みんなはどんな勉強をしているか気になっちゃって。……もしかしてそれ、火属性の設置型魔法を無力化する方法が書いてあるの?」
「ああ」
「でも、火属性の設置型魔法は火属性魔法の使い手しか無力化できないんじゃ……」
「分かってる。でも、覚えておいて損はないだろ。いざとなれば、オレがヒナに抑制式を教えればいいんだから」
 カヤトくんの言葉を聞いて、私は思わず笑ってしまった。
「な、何笑ってんだよ」
「嬉し笑いだよ。会ったばかりの時のカヤトくんだったら一人で何でもする方法を考えて、絶対にそんなことを言わなかっただろうなあと思って」
 私がそう言うと、カヤトくんはそっぽを向いてしまった。顔が少し赤い気がする。やっぱり、カヤトくんは照れ屋さんだなあ。
「……ねえ、私も一緒に読んでいいかな?」
「ああ。別に構わねえよ。ヒナが少しでもこの本の中身を覚えてくれたら、オレが教える負担も減るからな」
「うん。頑張る」
 私はカヤトくんの隣に座り、一緒に抑制式についての本を読むことにした。

 ……予想はしていたけど、やっぱり難しい! 専門的な言葉や模様が沢山書かれていて、頭が痛くなってくる!

「ふうん。なるほどな……」
 カヤトくんは本を読みながら、時々うんうんと頷いている。カヤトくんはしっかりと理解できているみたい。やっぱり、頭が良いなあ。
「……このページに書かれていること、ヒナは理解できたか?」
「チンプンカンプンデス……」
「だろうな。表情に出るから分かりやすい」
 カヤトくんが優しく笑った。
 ……うーん、やっぱりカヤトくんの笑い顔はいいなあ。改めて、イケメンだと思う。ずっと笑顔ならいいのに。……一瞬、そう思ったけど、ずっと笑顔のカヤトくんを想像したら怖いな。やっぱり、笑顔はたまに見せてくれるくらいでいいや。
「……ねえ、カヤトくん。もし、明日レッドフェイスが私たちの前に現れたら……」
「当然、追い詰める。そう約束しただろ?」
 そうだ。私とカヤトくんはレッドフェイスを追い詰めるという約束を交わした同志だ。
 でも、レッドフェイスを追い詰めた後。その後は……?
「何か、気になることでもあんのか?」
「……ううん。何でもない。続きを読もう、カヤトくん」
 レッドフェイスを追い詰めるために、カヤトくんはMCCアカデミーに入学した。でも、もしレッドフェイスを追い詰めることができたら、その後カヤトくんはどうするんだろう。
 ……気になるのに、怖くて聞けなかった。

§

「盛りだくさんの一日だったのです」
「そうだね。でも、明日はもっと大変だー」
 しばらく図書室で勉強をした後、私たちは寮に戻った。
 夕ご飯を食べた後にチトセちゃんと一緒に入ったお風呂は、まるで大きな温泉みたいだったなあ。あと、メガネを外して髪を下ろしたチトセちゃんの姿は新鮮だった。明日のミッションのことで頭がいっぱいで、ゆっくり堪能できなかったけど……。
 とにかく、ご飯を食べてお風呂に入ったわけだから、後は歯を磨いて寝るだけ。明日に備えて早く寝ないと。 
「明日のことさえなければ、ヒナコさんと夜ふかししたかったのです」
「せっかく相部屋になったんだもんね。明日のミッションをクリアできたら、パジャマパーティでもする?」
「賛成なのです!」
 パジャマパーティの約束をして歯を磨いた後、私たちはふかふかの布団に潜りこんだ。あとは寝るだけ! 
 ……寝るだけなんだけど、中々眠れない。眠れなくて、布団の中で何度も寝返りをうっちゃう。
「……眠れないのです?」
「ごめんね。うるさかった?」
「そんなことは無いのですよ。チトセも中々眠れなくて、レッドフェイスと因縁があるヒナコさんはきっともっと眠れないだろうなと思っていたとこだったのです」
「……うん。レッドフェイスのこととか、カヤトくんのこととか。色々考えて、眠れないよ」
 目を閉じると、それらのことをぐるぐると考えてしまった。考えてもどうにもならないことだとは思っているんだけどね。それでも考えてしまう。
「……良かったら、チトセに悩んでいることを話してみるといいのです。お話すれば、楽になるかもしれないのですよ」
「いいの?」
「もちろんなのです。仲間の相談に乗るのは、当たり前のことなのです」
「……ありがとう、チトセちゃん」
 悩みを抱えたままもやもやするなんて、私らしくないよね。ここはお言葉に甘えて、チトセちゃんに話してみよう。
「明日、私たちがレッドフェイスに遭遇したとしたら捕まえなきゃだよね」
「MCCアカデミーの防衛が主な目的ですが、もしレッドフェイスを見つけたとしたら捕まえるために行動すると思うのです。……ヒナコさんは、レッドフェイスを捕まえたくないのですか?」
「まさか! 捕まえられるなら捕まえたいよ! でも、もしレッドフェイスを捕まえることができたら、それからカヤトくんはどうするんだろうと思ってさ」
「どうする、とは?」
「強くなって、レッドフェイスを追い詰める。カヤトくんがMCCアカデミーに入学した理由が、それなの」
「なるほど。レッドフェイスを捕まえたとしたら、その後にカヤトさんがMCCアカデミーに残るかどうかが心配ということなのです?」
 チトセちゃんの言葉に、私は深く頷いた。レッドフェイスを捕まえたら、カヤトくんがMCCアカデミーに残る理由がなくなるんじゃないか。そう思っちゃう。
「こればかりは本人の気持ち次第なのです」
「だよねぇ……」
「逆に、ヒナコさんはどうなのです? レッドフェイスを捕まえたとしても、ヒナコさんは変わらずにMCCアカデミーに通うのです?」
 意外な質問をされて、私は一瞬固まってしまった。
 ……私が悪の魔法使いを許さないと思うようになったきっかけは、パパの命を奪ったレッドフェイスだ。
 そのレッドフェイスを捕まえたら、満足してそれで終わり? ……いや、それは違う。
「……レッドフェイスを捕まえたとしても、私はMCCアカデミーに通うよ! 悪い魔法使いはレッドフェイス以外にも沢山いるから、それをじゃんじゃん捕まえる正義の魔法使いになりたい!」
「なるほど。つまり、ヒナコさんにとってはレッドフェイスを追い詰めることもただの通過点なのですね。対して、カヤトさんはレッドフェイスを追い詰めることが終着点である可能性がある。ヒナコさんはそれが心配なのでは?」
「チトセちゃん天才! それだよ! 私が悩んでいたのは!」
 レッドフェイスを追い詰めることは、私にとっては通過点。だけどカヤトくんはそれを終着点だと思っていそうな気がする。そのズレで、もやもやしたんだ!
「レッドフェイスを追い詰めた後も、MCCアカデミーに通う理由をカヤトさんが見つけられるかどうか。それにかかっていそうなのです」
「でもカヤトくんはレッドフェイスを追い詰めることに全てを賭けている感じだから、新しい理由を見つけられるかなあ……」
「もし理由を見つけられずにカヤトさんが困るようなことがあれば、チトセたちが支えればいいのですよ。チームとは、そういうものなのでは?」
 ……そうだ。こういう時こそ、あの言葉だ
 パパがよく言っていた言葉。そして、入学試験の時に私がカヤトくんに言った言葉。
「一人でできることには限界がある。でも、誰かと力を合わせれば限界を超えられる。……これ、私のパパがよく言っていた言葉」
「良い言葉なのです」
「だよね。私、またこの言葉を信じて動いてみる! ……ありがとう、チトセちゃん! お話したら本当に楽になったよ!」
「それは何よりなのです。では、後は明日に備えてぐっすり眠らなければならないのです」
 そう言って、チトセちゃんは私の布団にもぐりこんできた。
「えっ!? チトセちゃん!?」
「知ってますか? 人は、誰かの呼吸音を近くで聞くと安心して眠れるそうなのですよ」
「へぇ~そうなんだ!」
「だから、くっついて寝るのですよ。そうしたらぐっすり眠れて、明日のミッションもバッチリバチバチなはずなのです。これもまた、作戦なのですよ」
「オッケー! 二人でぐっすり寝ちゃおう!」
 というわけで、私とチトセちゃんはくっつきながら目を閉じた。……本当だ。チトセちゃんの呼吸の音を聞いていたら、何か安心してきたよ。
 これなら、ぐっすり眠れそう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

鯨の国のヒーロ王子 ―海を救った49歳の物語―

谷川 雅
児童書・童話
かつて「鯨の国」は、海の恵みを余すことなく活かし、王国一の繁栄を誇っていた。 だが時代の流れとともに捕鯨は衰退し、国は衰え、人々は去り……。 49歳のヒーロ王子はただ一人、未来を守るために立ち上がる。 魚が消えた世界で、彼の声は世界を変え、やがて「海を救った英雄」と呼ばれることになる。 ――これは「正しいことを信じ抜けば、必ず報われる」ことを伝える、勇気と希望の物語。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

処理中です...