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第3章 レッドフェイスを止めろ!

20.どうか手遅れでありませんように

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§

 本当にぐっすり眠れちゃった! 気が付いたら朝になっていたよ! 誰かとくっついて寝るのって最強だね!
「今日は頑張ろうね! チトセちゃん!」
「はいなのです!」
 私とチトセちゃんは身支度を済ませて、ホールに向かった。時刻は七時を過ぎたころ。まだ正午までは余裕がある。
「おはよう!」
 ホールに着くと、そこにはカヤトくんとウィガルくんがすでに席についていた。私たちも挨拶をすませて、席に座る。
「おはようでござる。よく眠れたでござるか?」
「もうばっちり! ウィガルくんは眠れた?」
「オイラはぼちぼちでござる。……それよりも」
 ウィガルくんが、カヤトくんの方に視線を向けた。釣られて、私もカヤトくんをじっくりと見てみる。
「……うわっ! カヤトくん、めっちゃ目つき悪っ!」
「悪かったな」
 視線を向けただけでモンスターも逃げ出してしまいそうなほどに、目つきが鋭い! これ、絶対寝てないでしょ!
「大丈夫なのです? まだ時間があるから、少しでも寝た方が……」
「心配すんな。オレは大丈夫。やるべきことは、やれる」
 本当に大丈夫かなあ? ……もし、大丈夫じゃなかったら私たちが支えればいいか。困った時は支えるのが、チームだもんね。
「おはよう、みんな。今日は頑張ろうね」
 そう言いながら、レンさんもホールに入ってきた。レンさんはいつもと変わらない様子だ。きっと、落ち着いて眠れたんだろうなあ。
「レンさんは、学校の外側を見回りするんですよね?」
「そうだよ。もし何かあったら君たちにも連絡するから、昨日渡したスマホはしっかりと持っていてね」
「分かりました!」
 スマホはしっかりと充電しているし、制服のポケットに入れている。いつ連絡が来ても大丈夫!
「ちなみに、先生方はもう見回りをしているよ。もしかしたら先生方からも連絡があるかもしれない。あと、何かあったらそっちからも連絡してね」
「了解でござる」
「そういえば、ギアガル校長は何をするの?」
 トガラム先生たちとレンさんは校外の見回り。私たちシルティアは校内の見回りだ。ギアガル校長はその間、何をしているんだろう。
「父上は報道陣の対応をするみたいでござるよ。ネット上に爆破予告が出されたことで、様々なメディアがMCCアカデミーに注目しているでござるから」
「メディア対応ねえ。ウィガルの親父はすげえ魔力を持ってるんだろ? レッドフェイス相手に派手に魔法をぶちかませばいいのに」
「父上は、結界石に毎朝ロスト寸前まで魔力を注いでいるのでござる。そこまでしないと結界は維持できないようでござるから」
「そっか。じゃあ、戦いに使える魔力はねえのか」
 校長も見回りに参加したら心強かったのになあ。残念。まあ、見回りできるメンバーでやるだけのことをやるしかないか。
「朝ごはんを食べたら、私たちもすぐに見回りしよっか」
 私の言葉に、みんなが頷く。やる気満々といった感じだ。
 私もやる気を出すためにしっかり食べて、しっかり見回りするぞー!

§

「異常ないねー」
 時刻は十一時半。レッドフェイスが予告した時間まであと三十分だ。
 朝ご飯を食べ終わった後から今まで、私たちはひたすら校舎の中や周囲の見回りをした。でも、怪しい物は見当たらない。
「あの予告状はいたずらだったのかもしれないでござるな」
「そう決めつけるのは早いのです。警戒は怠らない方が良いのですよ」
「そうだね」
 チトセちゃんの言葉に同意した瞬間、私のスマホが鳴った。電話の主は、レンさんのようだ。私はすぐに電話に出た。
『もしもし。そっちはどうだい?』
「今のところ、異常なしです。レンさんの方はどうですか?」
『俺も不審者や不審物は見つけられていないよ。このまま何事もなければ良いけど、お互い油断せずにミッションをこなそうね』
「はい」
 私は電話を切り、レンさんの方も特に変わったことはないみたいと三人に伝えた。
「一応、先生にも電話してみようか」
 先生たちの様子も気になる。そう思った私はまず担任のトガラム先生に電話をかけてみた。
「もしもし。トガラム先生?」
『どうしたッ! 何かあったのかッ!?』
 トガラム先生ッ! 声が大きすぎるよッ! 耳が痛いッ! ……そう叫びたくなる気持ちを堪えながら、私は今のところ異常がないことを伝えた。
『それはよかったッ! ワシの方も特に変わったことはないぞッ! 何……あ……すぐ……連絡……て……』
「あれ? トガラム先生?」
 急にノイズが入ったかと思うと、通話が切れてしまった。電波が悪いのかな?
「どうしたんだ?」
「トガラム先生と電話したら、急にノイズが走って切れちゃった」
 私はもう一度、トガラム先生に電話をかけてみた。だけど、繋がらない。
「……試しに、父上に電話をかけてみたら繋がらなかったでござる」
「マジか。……って、圏外になってんぞ」
「チトセのスマホもなのです」
「あっ。私のもだ」
 四人揃って、スマホが圏外になるなんて。これは偶然なの? それとも……。
「……これ、レッドフェイスの仕業じゃないよね?」
「急にみんな揃って圏外になるのは、おかしいのです。その可能性は高いかと」
「だとしたら、何が目的なんだ……?」
 突然のことに私たちが困惑していると、校門の方から警備員のおじさんが走ってきた。
「おーい! もしかして、みんなのスマホも圏外になっちゃった?」
「ああ。ってことはそっちも……」
「うん。おじさんのスマホも圏外だ。だから慌てて校舎に来たんだよ。スマホが使えないなら、職員室にあるトランシーバーを持ち出した方がいいかなと思ってね」
 トランシーバーって、確か無線機のことだよね。スマホの代わりにそれで連絡を取ろうってことなのかな。
「ここに来た理由は分かったのですが、警備員さんは持ち場を離れて大丈夫なのです?」
「校門の方はユナ先生が一時的に見守りをしてくれているよ。その間に、おじさんがトランシーバーを取りに来たわけ」
「なるほどなのです。……ところで、そちらはスマホが圏外になったこと以外に、異常はなかったですか?」
「食材搬入のために業者の男の人が来たくらいだね。その業者の人には一応服を脱いでもらって肩を確認したけど銃創はなかったよ」
「そうですか。引き止めて悪かったのです」
「気にしなくていいよ。それじゃ、引き続きここの見張りを任せるね」
 そう言い残して、おじさんは校舎の中に入っていった。トランシーバーを取りに行くためだろう。
「……うーん」
「どうしたんだよ、ヒナ」
「何か、引っ掛かるんだよね……」
 さっきのおじさんの発言に、どこか違和感がある。
 引っ掛かったのは、業者の人に服を脱いでもらって肩を確認したという発言だ。
「……肩。なんで、おじさんは肩を確認したって言ったんだろう?」
「そういえば、ヒナコさんはヒナコさんのパパがレッドフェイスの背中を撃ったとしか言っていなかったはずなのです」
 チトセちゃんの言う通りだ。私は、パパがレッドフェイスの背中を撃ったとみんなに言った。肩を撃ったなんて言っていないはずだ。それなのに、おじさんは肩を確認したと言った。
「確かに、ちょっと変でござるな。勘違いしたのか、それとも……。実際に聞いてみた方が良さそうでござる」
 私たちは駆け足で職員室に向かった! 本当は廊下を走っちゃいけないけど、緊急事態の時は仕方ないよね!
「おい! あの警備員、いねえぞ!」
「ええっ!?」
 私たちはすぐに職員室にたどり着いた! でも、中には誰も居ない! おじさんは職員室にあるトランシーバーを取りに来たはず! それなのに、居ないなんておかしい!
「……きゃあっ!?」
 突然、ドンっと大きな音がした!
「上の方から聞こえたぞ!」
「まさか、レッドフェイスの仕業でござるか!?」
「行ってみよう!」
 私たちは大きな音がした方――上の階に向かって走った! どうか、手遅れでありませんようにと祈りながら!
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