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第二十五話 調理実習
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翌日は白石さんと葛城さんが二人そろって茶色のTシャツを持って来ました。ゾーイが買わなくて済むようにという配慮のようです。
そして素晴らしいことに、宇部君が何も言わなかったのに、全員が自分用の刀(新聞紙ですが)を準備してきていましたし、家から刷毛を持ってくる人や、白い猫耳カチューシャとやらを持ってくる人もいました。これをリアムがつけるのだそうです。
女子はあれから連絡を取り合って、家にある「デンセンしたストッキング」というものをかき集めて持って来たようです。どうやらそれを編んで猿の尻尾を作るようです。
授業中もみんな『桃太郎』のことばかり考えているようで、教室が浮足立っております。まるで名倉一座の芝居を見に行く前の晩のわたくしのようでございます。
かく言うわたくしも、数学の授業中だというのに今日の殺陣の流れなどを考えております。今日は桃太郎の殺陣をやろうと思っておりますので。
でもその前に、本日はスペシャルイベントがあるのでございます。我がクラスでは五限にみんなでお茶を点てようということになっておりまして、それもこれも留学生のためなのですが、みんな抹茶を飲んでみたいということでして。
商家、それも菓子屋の跡取りと致しましてはお茶の一つも点てられないとあっては御家の恥にございます。当然わたくしもお茶のお稽古に通っておりましたので、本日はわたくしが亭主でございます。
更に四限は調理実習がございます。五限にお茶を点てるとなれば、四限にみんなでお菓子を作るというのが完璧な流れでございましょう。
そんなこともありまして、みなさん勉強が手に付かないのでございます。
さあ、待ちに待った四限です。今日ばかりは先生は何も言わずにわたくしに任せてくださいます。
「はい、皆さんそれでは日本橋南雲屋三代目らしい南雲君が今日は水羊羹の作り方を教えてくれますからねー。先生は今日は食べるだけでーす」
先生、まるでやる気なしですが、その方がわたくしはやりやすいので。
「それではみなさん、粉寒天を水に浸してください。ちゃんと測ってくださいね」
みんな楽しそうです。そう、お菓子作りは楽しいものなのですよ。
「そこにお砂糖を入れて、鍋を火にかけてください。中火ですよ。沸騰したら一分ほどで火を止めてください」
宇部君と葛城さんは同じ班のようですが、葛城さんが手慣れた様子で鍋を火にかけているところを見ると、家でもお料理をなさっているのでしょう。
留学生の四人組はバラバラの班に一人ずつ、名倉さんも留学生とは一緒の班にならなかったようです。まあ、かまどを使うわけではないので、名倉さんも勝手がわからないでしょうし。
「火を止めた班はそこにこしあんを入れてよく練ってください。本当はあんこから作れるといいんですが、時間が足りませんので皆さんは買ってきたこしあんで」
壁に寄りかかっていた先生が体を起こします。
「南雲君はあんこも作るの?」
「もちろんでございます。伊達に日本橋南雲屋の跡取りじゃありませんよ」
「おい、南雲、よく練ったら次どうすんの?」
「あ、はいはい、氷水に鍋をつけて粗熱を取ってください。粗熱が取れたら型に流し込んで冷蔵庫で冷やします。いいですねぇ、この時代は冷蔵庫というものがあって。わたくしどもはかまどで火を起こし、井戸水で……」
「にゃっ」
あ。そうですね、江戸時代の話をしても仕方がありません。増して氷室の話などしても誰もついて来ないでしょう。
「イヌも羊羹食べますか?」
「にゃっ」
大きく首を縦に振っています。食べたいということですね。甘味の好きな猫というのも珍しい。
次々に羊羹の入った型が冷蔵庫に入れられて行きます。これでお昼休みが終わるころにはきっと寒天がいい感じに固まっているでしょう。それを五限の茶菓子にしてお茶をいただく、これこそが菓子屋の醍醐味でございます。型さえあれば御干菓子だって作れるのでしょうが……。
全部の班の羊羹が冷蔵庫に入ったところで、ちょっと早いのですが四限は終了となりました。五限の準備があるだろうからと家庭科の先生が解放してくださったのです。
その時間を使って、体格の良い男子五名ほどで倉庫にシステム畳を取りに行きました。普通の畳は一対二の割合ですが、システム畳は一対一の正方形で、江戸間を基準に一辺が二尺九寸のようです。これを九枚持って来て、3×3に敷き詰めることになるようでございます。他にも茶道部の部室から茶碗やら棗やら茶筅やらの茶道具をみんなで運んで大騒ぎです。
最初から茶道部で使ってる茶室でやればいいじゃないかという話もございましたが、四畳半に四十人が入るのは不可能でございますので。
首尾よく運び終わったところでチャイムが鳴りました。腹が減っては戦はできません。まずは給食をいただきましょう!
そして素晴らしいことに、宇部君が何も言わなかったのに、全員が自分用の刀(新聞紙ですが)を準備してきていましたし、家から刷毛を持ってくる人や、白い猫耳カチューシャとやらを持ってくる人もいました。これをリアムがつけるのだそうです。
女子はあれから連絡を取り合って、家にある「デンセンしたストッキング」というものをかき集めて持って来たようです。どうやらそれを編んで猿の尻尾を作るようです。
授業中もみんな『桃太郎』のことばかり考えているようで、教室が浮足立っております。まるで名倉一座の芝居を見に行く前の晩のわたくしのようでございます。
かく言うわたくしも、数学の授業中だというのに今日の殺陣の流れなどを考えております。今日は桃太郎の殺陣をやろうと思っておりますので。
でもその前に、本日はスペシャルイベントがあるのでございます。我がクラスでは五限にみんなでお茶を点てようということになっておりまして、それもこれも留学生のためなのですが、みんな抹茶を飲んでみたいということでして。
商家、それも菓子屋の跡取りと致しましてはお茶の一つも点てられないとあっては御家の恥にございます。当然わたくしもお茶のお稽古に通っておりましたので、本日はわたくしが亭主でございます。
更に四限は調理実習がございます。五限にお茶を点てるとなれば、四限にみんなでお菓子を作るというのが完璧な流れでございましょう。
そんなこともありまして、みなさん勉強が手に付かないのでございます。
さあ、待ちに待った四限です。今日ばかりは先生は何も言わずにわたくしに任せてくださいます。
「はい、皆さんそれでは日本橋南雲屋三代目らしい南雲君が今日は水羊羹の作り方を教えてくれますからねー。先生は今日は食べるだけでーす」
先生、まるでやる気なしですが、その方がわたくしはやりやすいので。
「それではみなさん、粉寒天を水に浸してください。ちゃんと測ってくださいね」
みんな楽しそうです。そう、お菓子作りは楽しいものなのですよ。
「そこにお砂糖を入れて、鍋を火にかけてください。中火ですよ。沸騰したら一分ほどで火を止めてください」
宇部君と葛城さんは同じ班のようですが、葛城さんが手慣れた様子で鍋を火にかけているところを見ると、家でもお料理をなさっているのでしょう。
留学生の四人組はバラバラの班に一人ずつ、名倉さんも留学生とは一緒の班にならなかったようです。まあ、かまどを使うわけではないので、名倉さんも勝手がわからないでしょうし。
「火を止めた班はそこにこしあんを入れてよく練ってください。本当はあんこから作れるといいんですが、時間が足りませんので皆さんは買ってきたこしあんで」
壁に寄りかかっていた先生が体を起こします。
「南雲君はあんこも作るの?」
「もちろんでございます。伊達に日本橋南雲屋の跡取りじゃありませんよ」
「おい、南雲、よく練ったら次どうすんの?」
「あ、はいはい、氷水に鍋をつけて粗熱を取ってください。粗熱が取れたら型に流し込んで冷蔵庫で冷やします。いいですねぇ、この時代は冷蔵庫というものがあって。わたくしどもはかまどで火を起こし、井戸水で……」
「にゃっ」
あ。そうですね、江戸時代の話をしても仕方がありません。増して氷室の話などしても誰もついて来ないでしょう。
「イヌも羊羹食べますか?」
「にゃっ」
大きく首を縦に振っています。食べたいということですね。甘味の好きな猫というのも珍しい。
次々に羊羹の入った型が冷蔵庫に入れられて行きます。これでお昼休みが終わるころにはきっと寒天がいい感じに固まっているでしょう。それを五限の茶菓子にしてお茶をいただく、これこそが菓子屋の醍醐味でございます。型さえあれば御干菓子だって作れるのでしょうが……。
全部の班の羊羹が冷蔵庫に入ったところで、ちょっと早いのですが四限は終了となりました。五限の準備があるだろうからと家庭科の先生が解放してくださったのです。
その時間を使って、体格の良い男子五名ほどで倉庫にシステム畳を取りに行きました。普通の畳は一対二の割合ですが、システム畳は一対一の正方形で、江戸間を基準に一辺が二尺九寸のようです。これを九枚持って来て、3×3に敷き詰めることになるようでございます。他にも茶道部の部室から茶碗やら棗やら茶筅やらの茶道具をみんなで運んで大騒ぎです。
最初から茶道部で使ってる茶室でやればいいじゃないかという話もございましたが、四畳半に四十人が入るのは不可能でございますので。
首尾よく運び終わったところでチャイムが鳴りました。腹が減っては戦はできません。まずは給食をいただきましょう!
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