ヒョイラレ

如月芳美

文字の大きさ
上 下
26 / 35

第二十六話 怪しい南雲太一

しおりを挟む
羊羹ようかんって結構簡単にできるんだな」
 そこで関西人の俺的には「羊羹ようかんようんで食べや」って言いたいねんけど、猫やし言えへんねん。ほんまストレスまるわ。
「ええ、寒天と同じですから。あんこを入れずに牛乳を入れたら牛乳寒天になります」
「それにしてもあんなに砂糖入れるとは思わなかったね、驚き桃の木山椒さんしょの木、見上げたもんだよ屋根屋のふんどしってなもんさ」
 せやからわかれへんっちゅーねん。
 昨日は未だ勝手がわからず一緒に給食を食っとった留学生四人組やけど、今日は他の子たちに呼ばれて別のグループと飯食っとる。それなりに日本を楽しんでくれとるようや。
「五限は茶道部の二人と南雲だけで行けるか?」
「あたしもてられるよ」
 当たり前のように小梅が言う。なかなかやるな。役者はそんなことまでやるんか。
「クラスのみんなは御薄おうすでよろしゅうございましょう。留学生の方たちには、せっかくですから御濃茶おこいちゃを味わっていただきませんか」
「じゃあ、御濃茶はあんたが点てな。茶道部の二人は今年茶道部に入ったばかりの初心者だって言ってたからね。あんたなら菓子屋の跡取あととりなんだし、それなりに形になってるんだろう?」
 そもそも誰が茶道部なんだよ。という俺の声が届いたのか、ワカメご飯を頬張っていた宇部が言った。
「茶道部は蕪月姉妹。二人で協力してくれるらしいよ」
 ああ、あの双子か。未だにどっちがどっちかわからんが。こないだ太一郎のことを「怪しいクラスメイトだ」って言うとった方が姉かな。怪しいって何やねん、俺の体やで。ま、確かにキャラ変してから怪しいがな。
 結局蕪月姉妹と打ち合わせをしている間に教室の前の方にシステムたたみを九枚き(つまり四畳半や)、後ろの方には椅子を並べた。野点のだてみたいなノリでやるといってたが、俺には野点がまずわからん。
 五限になると、クラスのみんなが椅子の方に座り、留学生たちは畳に正座した。
 正座は結構きついんじゃないかと思っとったけど、空手家に侍に忍者や、きついわけがあらへん。それどころかジェイコブは抹茶を飲んだことがあるらしい。さすが侍や。
 茶筅ちゃせんっていうなんやわからんけど抹茶を泡立てるヤツが三つしかなかったらしく、蕪月姉妹がみんなの分を、太一郎が留学生の分を点てることになった。名倉は葛城と一緒に何人かに仕事を振り分けて、お菓子(羊羹ようかんや!)を出したりお湯をかしたり忙しく立ち働いとった。猫の手も借りたそうやったし、貸したろ思うたけど、邪魔じゃまやしやめといた。
 しかし、や。太一郎がチートすぎやねん。ちょっと現代を生きとらへん感じはしよるが、剣術はできるし、羊羹も作れる。お茶も点てられる。
 なのに体は俺やねん! 南雲太一の評価が爆上ばくあがりやねん。
 いつか自分の体に戻る時が来た時、これメチャメチャ困るヤツやん?
 一通りみんなの分のお茶を点て終わった蕪月……姉か妹かどっちかわからんけど俺を抱っこしよる。
「はぁ、疲れた。ちょっとイヌチャージさせて」
「あ、お姉ちゃん、次わたし」
 つまり今チャージしてる方が姉だな。てかお前が今チャージしてるのは猫やのうて南雲太一やで。怪しいクラスメイトやで(根に持っとる)。
 そのとき、畳の方からどよめきが上がった。どうやら侍ジェイコブがお茶を点てるらしい。今度は蕪月姉妹と太一郎をもてなす気のようや。
 みんな興味津々でジェイコブを見とるが、黒人さんがきちんと正座をしてお茶を点てている図っちゅーのんは絵になるなぁ。マジでカッコええな。志士髷ししまげやし。しかも基本的に口数の少ないジェイコブが「お菓子をドウゾ」とか言うのが新鮮や。
 感激した蕪月(多分妹)の方が「別れが訪れるその日まで、いっぱい思い出作ろうね」と言うと、ゾーイが「そしたら今度はみんながアメリカに来て」と返す。すっかりみんな仲良しこよしや。
 俺は蕪月姉妹から放っぽり出されたんで、仕方なく宇部のところへ行った。
「ジェイコブ、思った以上に侍だな」
「にゃ」
「太一郎は思った以上にチートだな」
「……にゃ」
「太一郎のヤツ、名倉のこと好きだな」
「にゃっ?」
 なんですと?
「心配すんな、名倉は何とも思って無さそうだ」
 良かった。良うないか。あいつにとっては良うないわな。
「もうお前、元の体には戻れないんだから、太一郎の応援してやれよ。あの体はもうお前のもんじゃねえよ」
 そりゃわかってんねんけどな。割り切れるもんと違うねん。
 でもな……そっか。あいつ、名倉(っていうか小梅)のことが好きか。
 俺はぼんやりと、名倉の隣で茶をすする太一郎を眺めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

放課後モンスタークラブ

まめつぶいちご
児童書・童話
タイトル変更しました!20230704 ------ カクヨムの児童向け異世界転移ファンタジー応募企画用に書いた話です。 ・12000文字以内 ・長編に出来そうな種を持った短編 ・わくわくする展開 というコンセプトでした。 こちらにも置いておきます。 評判が良ければ長編として続き書きたいです。 長編時のプロットはカクヨムのあらすじに書いてあります --------- あらすじ --------- 「えええ?! 私! 兎の獣人になってるぅー!?」 ある日、柚乃は旧図書室へ消えていく先生の後を追って……気が付いたら異世界へ転移していた。 見たこともない光景に圧倒される柚乃。 しかし、よく見ると自分が兎の獣人になっていることに気付く。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

湯本の医者と悪戯河童

関シラズ
児童書・童話
 赤岩村の医者・湯本開斎は雨降る晩に、出立橋の上で河童に襲われるが…… ‪     ‪*‬  群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。

稲の精しーちゃんと旅の僧

MIKAN🍊
児童書・童話
「しーちゃん!しーちゃん!」と連呼しながら野原を駆け回る掌サイズの小さな女の子。その正体は五穀豊穣の神の使いだった。 四季を通して紡がれる、稲の精しーちゃんと若き旅の僧の心温まる物語。

処理中です...