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30話 淡い夏休み⑦ 消したい想い

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「はぁっ・・・、はっ。」

時間停止魔法を使い、足早に物で溢れた客間へと逃げる。水魔法を使って真水を頭から被り、何とかたかぶる気持ちを鎮めて興奮を冷ます。

冷静になれ。冷静に・・・。





俺は・・・ノアディアと・・・。どうしてあんな状況になってしまったんだ。少しふざけただけなのに、どうして・・・。





────あんなキスをされても・・・まだ俺は、この気持ちを認められない。

認めてもどうにだってならないと思ってしまう。相手の地位が高いからこそ、こんな俺の性格では釣り合わないからこそ・・・俺は、彼よりも無力で弱いからこそ。

無謀な想いは抱いたって、結末は苦しく切ないだけだろう。

ノアディアの言葉を思い出す。「私はこういった事に────最近とても気になってしまって────初めてする時、負担を掛けたくはありませんからね。」
気になる人がいるんだろう。俺はただ、教えると言ったから練習台にされただけなのだろう。もてあそびやがって・・・。

・・・いつもに増して、手が冷たく感じる。

もしも願いが一つ、叶うとしたら。こんな気持ちが生まれてしまう前に戻りたい。苦しくて息が吸えない。

全部全部、ノアディアの責任だ。

温かく接してくれだとか、これっぽっちも望んでなかった。なのに、いつもいつもいつも・・・。

どうせなら俺のことをただのライバルだと思って、俺と同じように言い返したりして、強く当たってくれれば良かったんだ。偉い立場の人間じゃなければ良かったんだ。

こんな気持ちを持っていると知られたら、ノアディアはきっと侮蔑ぶべつするのではないのだろうか。何勘違いしてるんだと・・・。優しくされた分、そう言われて切り捨てられてしまう未来を想像してしまうと、どうしようもなくなり消えたくなる。

────俺は、この淡い想いにそっと蓋をした。

「リスタート。」





「出て行ってくれ。」

ノアディアを玄関まで連れて行き、目を合わせることなく冷たい声で言う。

「ライ、申し訳ございま「謝るのは聞き飽きた。」

声を聞いているとどうにかなってしまいそうになる。もう何も言わないでくれ。もう・・・

「もう、来ないでくれ。」

「ライ・・・。」

きっぱりと拒絶の意志を示し、ドアを閉じる。
瞳から涙が少し零れたが、俺は気付かぬ振りをした。





────ノアディアを追い出してからというものの、勉強に身が入らず、何も手をつけられない状況が何日間か続いた。

ノアディアは俺がお願いした通り、追い払った日からはこの家に来ることも近寄ることもなかった。

・・・俺はずっと家に引きこもっていた。昼間に起きてはただ布団の上で物思いにふけり、一日が終わる。

母さんは何かあったのかと聞いてくることなく、毎日ただ食事を部屋まで持ってきてくれた。

時間を掛けて割り切れないこの感情を押し殺し、やっと魔法の特訓をする気になれた時には・・・

夏休みはもう、終盤に差し掛かっていた。
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