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21話 騎士団団長の令息 ③

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「・・・。」

「いやー、強かったな!全然歯が立たなかった!」

「・・・何で嬉しそうなの。」

「だってオレの親父より強い男がいるって知れたから嬉しくってな!」

「・・・。そう。」

グローリオは笑って彼の頭を撫でている。あれこれ言っても結局ソイツに甘いんだな。

幼馴染か、なんかいいな。最近教室で一人になる事は滅多に無くなったが、友人と呼び合える人は未だにいない。
何でも相談できて心の許せる相手がいるってのは羨ましいなと、今更ながらに思う。

「ノアディア、だっけな。手合わせありがとう!オレはまだまだ修行が足りないみたいだ。今回はなんか勝っちまったけど、実質負けたようなもんだ。お互い精進していこうな!」

脳筋のお手本みたいなヤツがそう言ってこちらの方へやって来た。

握手をしようと手を差し出していたが、俺を見た後慌てて手を引っ込める。

それにしてもコイツは基礎体温が高いのだろうか、喋るだけでこちらに熱気が伝わってくる。気のせいだろうか、段々と暑くなってきたので上着を脱ぐ。

「・・・。実質負けではない。負けたんだ。」

グローリオが含みのある言い方をする。
負けたって、そんな謙遜けんそんしなくていいんだぞ。

「俺達、というよりもノアディアが二人を蹴飛ばしたりするからルール上ではお前達の勝ちでいいんだぞ。」

いくら強くてもルールを守らないヤツが悪い。キッとノアディアを見据える。相変わらず柔らかい笑顔でこちらを見てくる。
何で睨まれたってのに笑ってるんだよ。

「・・・いや、最後蹴られた時、痛みはなかった。」

「あ、そういえばオレも痛くなかったぞ!」

どういうことだ?

「昏睡させたんですよ。足に魔力を込めて、蹴る直前に御二方の体内魔力を利用して、視床下部の働きを阻害し、一時的にオレキシン分泌量を低下させる事で眠らせたのです。なので実際、私の足は二人に到達していません。」

何言ってんだ・・・意味が分からない。説明されなかった方がありがたかったんだが。

「・・・。」

「なんかスゲー!」

二人共よく分かっていないようだ。初めて聞くもんな、そんな魔力の扱い方。原理を説明されたところで実現できるのは極わずかだろう。

全くタメにならない話を聞いている内に、どうやら女性陣側も勝敗が決した様だ。
勝者はティルミア様悪役令嬢だったが、何やら暗い表情をしているように見える。気のせいだろうか。





「そうなるとやっぱりオレらの負けかー。悔しいな!ベイスと一緒に肉食べに行きたかったなー。」

そういえばそんな約束してたな二人共。

「・・・行ってもいい。審判の判定では優勝だったから。」

目を逸らして腕を組みながらそう言っている。お前、そんな寛大な性格してたか?仲良いな二人共。

「ホントか!!やったー!!」

「・・・。」

嬉しそうに無抵抗のグローリオに抱きつく脳筋。大きな胸板にグローリオの頬が密着し、潰れる。

少しは抵抗した方がいいんじゃないのか。頬が変形しているぞ。





「あ、そうだ!ベイスの親父から伝言なんだけどさ、魔法学園に指名手配中の凶悪犯が紛れ込んでいる可能性があるんだってよ。尋常じゃない魔力が探知されたとかで。だから気をつけろよなー。」

ゼリファーが警告してくる。

それってもしかして、俺やノアディアの事だろうか?
最近頻繁に魔法を作ったり使ったりしてたからな。魔術師団の本拠地にある魔力探知機が誤反応したのかもしれない。

自重すべきか・・・。

一方、話を聞いたノアディアは険しい顔をしていた。

「やはりそうですか。情報、感謝します。」

ん?反応的にどうやら犯人は別にいるらしいな。まあ、俺達なら能力も高いし大丈夫だろう。その上魔法学園の警備は徹底されているしな。異変があればすぐに分かるだろう。

「ライ、くれぐれも怪しいモノ・・には近付かないようにして下さいね。」

俺は小学生かよ。子供扱いに怒りを覚えるが、一応危険な事には干渉しないように気を付けておこうか。

「ん。」

ゆっくりと相槌を打つ。



まあ、それはともかく・・・

「いつ降ろしてくれるんだ?」

試合が終了してからというものの、ずっと横抱きにされたままなのだ。俺から離すなと言ってしまったので、今の今まで降ろしてもらい損ねていた。

というか普通に試合が終わった時に離せよ。何で今もお姫様抱っこのままなんだよ。

さっきから胸がうるさく波打って仕方ない。早く降ろしてくれ。ゼリファーとグローリオは敢えてこの状況に触れてこないのが余計に恥ずかしくて身の置き所がない。苦笑いしてないでノアディアに何か言ってやれよ。





「さて、これから一緒に着替えに行きましょうか?」

人の話を聞け!聞き捨てるな!質問に答えろ!それと・・・

「俺は一人で着替えられるッ!!!」
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