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【ハッピーBL】
神を殺す男
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神を殺せ。さすればその力を我が物にできる────
そんな伝承を信じ、神殿にやってきた男は、無敗の戦神と刃を交わした────が、負けた。
連戦連敗、一度も勝てない。
剣だけでなく、ありとあらゆる勝負をしかけたが、男が神に勝つことはなかった。
どうすれば神を倒せるのか。悩む男の前に蛇が現れ「神は酒に弱い」と囁く。
【キーワード】
ファンタジー / 鈍感攻め / 神受け / シリアスなし
◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆
静謐な神殿に男が足を踏み入れるのは、もう何度になるだろうか。
平らかな白亜の石の道を踏みしめながら一歩一歩進んでいく。
奥には大階段があり、頂上には石の台座があり────そこには今日も人影があった。
いや、彼は「人」ではない。
「神よ、今日こそ決着をつけよう」
神のために設えられた場で着崩した衣を纏い、神のために供物を捧げる台座に座ることを許されたもの。
「今日こそ、神を殺す」
男の厳かな宣言に、神はにやりと笑ってみせた。
「いいだろう。来い、人間」
どこにでもいそうな少年だ。
生成りの貫頭衣を雑に巻き付け、革ベルトのサンダルも特別なものには見えない。
唯一、敷いて座っている上着は高貴な紫。
見るものが見れば不敬と腹を立てそうなだらしなさだ。
しかし彼に意見できるものはいない。
なぜなら彼は、この地で最強と謳われる神だからだ。
男はそんな神に躊躇なく近づき、小脇に抱えていたものを石台にドンと置いた。
「これは?」
神は妙に年齢を思わせる仕草で顎をなぞり、それを見下ろす。
「知らないのか? このマス目にひとつずつコマを置いていく。コマは表裏が黒と白に色分けされていて……」
「なるほど、陣取り遊戯だな」
「さすがだな、神よ。理解したのなら早速始めよう」
話し合うこともなく先行を奪い取り、コマを握りしめた男に、神は苦笑する。
「勝てないからってこんな盤上遊戯まで持ち出すとは」
「うるさい。今日こそおまえを負かして俺が最強になるのだ!」
「はいはい」
神は色の薄い髪をさらりと後ろへ除け、仕方なさそうに笑ってコマを手に取った。
神は常に神殿に在った。
そこへ男がやってきたのは、しばらく前のこと。
彼はいきなりやってきて、神に勝負を挑んだ。
この地では、神を倒せばその力を我がものにできる、と言い伝えられていたからだ。
「この地に俺の敵はもういない。俺は最も強い剣士となった。ならば神をも殺せるはずだ」
結論から言って、それはとんだ慢心だった。
自分よりいくらも小さく細い神に、男はぼろ負けした。
それはもうぼろくそにされた。
「この程度で最強の剣士なのか。この国、いやこの地もそろそろ一度滅びるやもしれんな」
物騒なことを言いながら剣を肩に担ぎ、男を見下ろしてにやりと笑う神に、男は恐れをなして逃げ出し────たりはしなかった。
「今日こそ倒す!」
男は次の日も来た。その次の日も、また次の日も来た。
何度やっても勝てないと悟ると、男は剣以外の武器を持ってきた。
槍、弓、斧、それだけでなく農作業用の鎌を持ってきたとき、神は初めて男に笑みを見せた。呆れ笑いであったが。
そのうち雨季に入り、神殿の広間で戦えないとなると、今度は別の勝負を挑むようになった。
短距離走、マラソン、幅跳びに高跳び、木登り崖登り、反復横跳びの回数まで競ったが、勝てなかった。
ある日、大嵐で神殿にたどり着くにもやっとだった男を出迎え、神はついに神殿の建物内へ男を通した。
強風と豪雨にあおられた男があまりにも濡れ鼠でかわいそうだったからだ。
男は、荘厳な造りの外側とは打って変わって狭い神の居室をまじまじ眺め、ここではろくな勝負はできぬと懐からコインを取り出した。
「今日はコイントスでおまえを倒す」
男はコインの裏表を予測するゲームですら神に負けた。
「おまえ、そろそろ飽きないのか?」
「飽きるとか飽きないとかではない。俺は神、おまえを倒すのだ。それ以外になにがある」
「なにがある、と言われてもなぁ。陣取り遊戯ですら我に負けるのに、倒すとか無理だろう」
「うぐぐ」
神は三連勝してそろそろ退屈していた。ずっと盤を見下ろす姿勢だったので肩も凝った。
男は変なうめき声を出しながら、完敗の盤面をにらみつけて動かない。
仕方なく神は腰を上げ、神殿建屋に戻った。そして籠を持って戻ってくる。
「腹が減ったろう。これでも食え」
「あぁ。おい神、もう一戦だ」
「まだ我に負け足りぬのか~?」
「次こそは負けん!」
神に捧げられた供物である果物を口に放り込みながら、男はまだまだ諦めていなかった。
戦いも体力も遊戯も何一つ勝てていないが、さまざまなものを試していればいつかは神を凌駕できると信じ切っている。
いつだって無駄に自信満々な男の真っ直ぐな眼差しに、神はにやりと笑って、いつだって勝負を断ることはなかった。
陣取り遊戯は日が暮れるまで何戦も行われたが、当然のように男の全敗であった。
「なぜこんなにも勝てない……」
その日、男はさすがに凹んでいた。
神殿の入り口にひとつだけ、やや灰色がかった石材がある。
そこに刻んだ男の「神への挑戦回数」は、男がもう三月も毎日負け続けていることを示していた。
常に根拠のない自信に満ちあふれている男であったが、さすがにそろそろ堪えてきた。
一番自信のあった剣術でぼろ負けして、結局一太刀も浴びせることができなかったことが思い出され、深々と嘆息する。
「なぁ、きみ」
そんな男に近づくものがあった。
神殿の壁面を覆う蔦に器用に体を巻きつけて、するすると降りてくる。
「はぁ……いつになったら神を倒せるのだろうか」
しかし男は落ち込むのに忙しく、来訪者に気づいていなかった。
「なぁ、なぁって」
「体力勝負も遊戯も勝てぬ、力比べはもっとダメ、あとはもう知恵比べくらいしか……」
「おい、おーい」
「パズルリングでも持ってくるか? いや謎解きのほうが」
「おいっそこの連敗男!」
大声で至極不名誉なことを言われ、男は振り返った。
神殿の柱の中ほどに、蔦にぶら下がった一匹の蛇。
失礼なことを言うのはこいつか。なめして腰紐にしてやろうか。
男が腕を伸ばす前に蛇はさっと身をもたげ、細い舌をチロチロさせながら話しかけてきた。
「おまえ、あの神に負け続けているんだろう」
「うるさいぞ、腰紐もどき。今に見ていろ、すぐ勝ってやる」
「腰紐って呼ぶな。それよりおまえ、『神に勝つ』ということを、きちんと理解しているのか?」
「なに……?」
思いもよらぬことを言われ、男はその場で正座した。拝聴の姿勢である。
「いいか。おまえは無闇に勝負勝負と神に立ち向かっているが、そもそも勝ち負けの条件を理解しているか?」
「勝ち負けの条件……」
「おまえの勝つ条件は、神を『倒す』ことだ。考えてもみろ、おまえは毎日神と勝負して負けている。しかしおまえは命を、それどころかなにも奪われていないし、明日もまた勝負ができる。おまえが勝ったら神の力を奪えるというのに……釣り合いがとれなさすぎるだろう」
男は正座したままハッとした。
たしかに、男は全力で神と戦っているし、隙あらば打ち倒そうと思っているが、神は男が膝をついたり、項垂れたり、遊戯に勝敗がついた時点でそれ以上なにもしてこない。
男は負け続けているが、「倒されてはいない」。
「神は侮っているのだ。おまえが何度挑んでこようと勝てると。屈服させ、命を奪う必要すらないと」
蛇はチロチロと舌を振り、冷たい目で男を見つめた。
膝の上で握られた男の手がぎりりと音を立てる。
弄ばれていると薄々感づいていたが、他者からそれを指摘されるのは屈辱だった。
男の怒りを十分に煽ることができた蛇は、満足げに身をうねらせる。
「このままでは何度挑んだところでおまえは負け続けるだろう。どうすれば勝てるか、わかるか?」
「いや……正直もう手詰まりだ……」
「そうだろう。いやいやわかっている。いいか、神の弱みを握るのだ」
「神の、弱み?」
あのひたすらに強い神に弱みなどあるのだろうか。
剣術勝負では、人体の急所のどこを狙っても防がれてしまっていた。だからどこが弱いかすらわかっていない。
農業用の鎌で勝負を挑んだときは、初めて持つ鎌というものに苦笑していたが、ものの数振りで得手とされて負けてしまった。
運動勝負でも遊戯勝負でも、ルールを知らなかったというのにすぐ覚えて、なおかつ男を圧倒するのだから、かの神に弱い部分などないように思えてならない。
しかし蛇は酷薄そうに目を細め囁いた。
「あの神は酒に弱いのだ。うまく利用しろ」
それはまったくの盲点だった。
そもそも男は神に勝ちたいのであって、神を敬う心が全くないものだから、神に何かを捧げるという発想がなかった。
だがおそらく神の信徒なら、かの神が酒に弱いことを知っているのだろう。
猪突猛進すぎて、ただ神に体当たりすることしかできない男にとってそれは、とてつもなく有意義な情報に思えた。
ただし、男とて酒に強いわけではない。
その後勝負をすることを考えれば、男は酒を飲まず、神だけを酔わせるのが最善だろう。
そうと決まれば酒の準備である。
男はいつも素通りする神殿のふもとの町で、酒屋に入った。
「店主よ、俺はこれからあの神殿の神に捧げ物をしにいく。神に喜んでいただけるよう、飲みやすく旨い酒はどれか」
「おぉ、あんちゃんお目が高いな。うちは代々神様に酒を奉納しているんだ。神様はこの酒が気に入りだよ」
店主が出してきたのは、国で広く飲まれている蒸留酒だ。
口当たりはさわやかで、度数がそれなりにあり、寒い日に体を温めるための酒としても重宝される。
男は満足して店を出ようとして、店主に肩を掴まれた。
「あんちゃん、お代」
「えっ。神に捧げるものなのに、金を取るのか」
「そりゃ神様に捧げるんだから安くはするさ。タダにはしないが」
しっかりしているというか、がめついというか。男は仕方なく金を払い、店を後にした。
男が酒を持ったまま神殿に向かうのを、店主がこっそりと見つめている。やはりがめついだけのようだ。
「神よ、今日も来たぞ」
近頃男は口上を面倒がって「おじゃまします」的に雑な挨拶だけで神殿へ入っている。
神も特に咎めず「いらっしゃい」という感じで迎えてくれるのだが、今日は少しだけ違った。
「今日も来たか。おや、それは」
「おまえにやる」
「えっ!」
酒瓶を渡され、神は目を白黒させた。
「おまえ、毎日武器か遊戯しか持ってこないのに、今日はどういう風の吹き回しだ?」
「べ、別に俺が捧げ物を持ってきたって、お、おかしくないだろう。おまえは神なのだから」
「いや明らかに様子がおかしいが……あぁそうか、今日は祭りだからか」
「まつり?」
男は辺鄙な山奥から毎日走ってここに通っているために、人里の行事に疎かった。
当然、今日が豊饒祭であることは知らなかったが、神が酒を受け取るには理由が必要らしいと察し、とりあえず頷いておいた。
「そ、そうだ。祭りの捧げ物だ。受け取れ、そして飲め」
「そうか、それなら受け取ろう。礼を言うぞ」
「……」
男は神と対話し始めて久しいが、礼を言われたのは初めてだったので押し黙った。
そもそも勝負が介在しない会話をすること自体初めてで、なんだか急に照れくさいような、全身が痒いような妙な感覚に襲われていた。
「では行くか」
「は? 行くとはなんだ」
「決まっているだろう、祭りにだ」
感情をうまく処理できない男の腕を、神が取った。
ぐいっと引っ張られ、逆らわずにいると、神は神殿の階段を降り始めた。
どうやら本当に町の方へ行くらしい。
武器を持たず、相手を打ち負かす目的でなく、神に触れるのも初めてのことであった。
握られている方の手から尋常じゃなく汗が出る。
今すぐ振り払いたいような、いつまでもこうしていたいような、またしても理解できない感情にみまわれ、結果男は何も言わずに神に手を引かれていった。
「今日は来ないかと思っていた。あまりに遅かったからな」
男が町で酒屋を探してもたもたしているうちに、地上は西日に包まれ始めていたのだった。
神は町の景色がよく見える高台へ男を連れてきて、放置されている石材に腰を下ろした。よく見ると石材は神殿の石と同じもののようだ。
男が神の横に座ると、神はいつの間に持ってきたのか、ゴブレットを二つ取り出した。
片方を男へ差し出し、その表面が少し曇っているのを見て、慌てて高貴な紫の衣で拭いて渡す。
輝くゴブレットが黄金製のような気がして男はやや怯んだが、断る間もなく神にお酌されてしまい、渋々酒を含んだ。たしかに旨い。
「にぎやかだな」
神がぽつりとつぶやいた。
その横顔は、夕日に照らされて陰影がはっきりとして見える。
やがて日が沈み、町では本格的に祭りが始まった。灯火が焚かれ、食欲をそそる祭りの振る舞いと共に、拍子と歓声が風に乗って運ばれてくる。
しかし高台から見下ろす祭りは、とても遠くの出来事のように映った。
「祭りに参加しないのか、神よ」
「参加しているだろう。こうして酒を楽しんでいるし」
「もっと近くに行ってはどうか」
「ここでいい」
にべもなく断られ、男は再び黙り込んで酒を煽った。
ふと、神が誰かといるところを見たことがないなと思う。
神は町の人間たちから崇拝と信仰を集めている。神殿には毎日のように捧げ物が贈られ、祭りの囃子は神を賛美する歌だ。
しかし神はいつもたった一人で神殿にいた。
「楽しいな……」
横にいる神の声が上ずっている。
神は酒に酔っていた。頬が赤らみ、口元は緩み、吊り目がちの双眸はいつになくとろけている。
酒瓶はそれほど嵩を減らしていない。どうやら神が酒に弱いのは本当のようだ。
男は思わぬ好機に呆然としてしまった。
(今なら倒せる……)
しかし躊躇した。
そんな男の葛藤を知ってか知らずか、神は機嫌良さそうに町を見下ろしながら、ゴブレットを傾ける。
「おまえ、以前言っていたな。我を倒せばその力を得ることができると」
「あ、あぁそうだ」
男は踏ん切りがつかないまま、神の言葉に耳を傾ける。
「我も同じだ。この神殿の神の力をものにした。そして並び立つもののない強さを持つ神となった……強大な力を恐れて、誰も近寄れなくなるほどに」
「……!」
「なんとも思っていないつもりだったのだがな。こうして久方ぶりに人の営みなどみると、少しばかり、孤独というものを思い出してしまう」
それから神は、灯火のちらつく潤んだ瞳を真っ直ぐに男へ向け、微笑んだ。
「おまえが毎日来るようになって、楽しいという気持ちを思い出した。こういうのも悪くないな」
それから神は力が抜けたように、男の肩に寄りかかって深く嘆息した。
わずかに表皮を撫でた呼気が熱い。
神は酒気で頬を赤く染め上げていた。
口角はゆるく持ち上がり、男の肩に触れている髪は驚くほどつややかで、さらさらと風に吹かれている。
見下ろすと、神の頭がよく見えた。まろい輪郭、肌がすべすべしていてやわらかそうだ。頭の位置が低い。首も肩も腕も細い。年頃の少年よりさらに薄い体。衣類の合間から鎖骨が覗き、その下の淡く色づく胸元まで見えてしまいそうで、男は慌てて目をそらし酒を含んだ。
神とは、こんなにも小さく、可憐な存在だっただろうか。
どうして今まで、彼を殺せると信じ込んでいられたのだろう。
「……」
気がついたら、口づけをした後だった。
薄くやわらかく、ほんのりと薄紅の唇を軽く食んで、全く抵抗されないのをいいことに、もう一度口づける。
直後に「やってしまった」と思った。しかしもう後には引けない。
顔を離すと、神は閉じていた目をゆっくり開け、にやりと笑った。
「勝負するか?」
神よりも酒が進んでしまった男は、おそらく酔っていたのだろう。そこからの記憶はやや曖昧だ。
正気に戻ったときには、男は神を寝台に押し倒していた。
粗末なベッドだった。神殿の石材の上に申し訳程度に木の枠組みがあり、かろうじて埃っぽくはない布が数枚重ねてあるだけのもの。
神として崇め奉られている彼が、「命あるものとしては」極めて軽んじられていることを実感し、男はやるせなさに襲われた。
強大すぎる力を憂い、寂しさに渇く彼は、男と、人間たちと何も変わらないではないか。
そう思ったらもう止められなかった。
「ん……ッ、そう急くな、服は破くなよ」
「保障はできない」
「ばかやめろ、まったく……」
服を破かれたくないからと、神は自ら着衣を脱ぎ捨てた。
その時点でもう鼻血を吹きそうだった男は、なんとか堪えて、かわりに神の唇を好き放題に貪る。
神の舌技はつたなかった。
「ぅあ、ふ、っん……ちょ、くるし、」
「神よ、口づけをしたことがないのか?」
「な、ないわけがないだろう! ただちょっと、二百年ぶりくらいで、やりかたを忘れ、んんっ」
息継ぎできず溺れそうになっている神だったが、素直に目の前の男に教えを請うことなどできなかった。
その隙に男の手は下りていき、小さな突起を捉える。
「あっ!」
そんなところを触られたことなど一度もない。
神は男を遠ざけるために腕を突っ張り、身を捩ったが、その手を難なく捕らえられ頭上にまとめて拘束されてしまった。
男は神の抵抗を抑え込みつつ、わずかに立ち上がってきた胸の頂きに舌を這わせる。
「やっ、そんなところ、なめるな……っ、ぁ、ひ……っ」
「嫌か?」
「んぁっ、や、いやだ……っ」
どう見ても感じまくっている神は、そこらの女より感度が良さそうだった。
男は年齢なりに経験があったが、相手は異性ばかりで、同性とどうこうしようと思ったことすらない。
しかしどうにかなるだろうと考えていた。穴がないわけではないし。
男も酒の力で頭がゆるふわになっていた。
「そうか、こっちを触っていなかったな」
「あぁっ!」
乳首への刺激は止めることなく、男は神の下腹をまさぐる。
そのへんの作りが人間と違ったらどうしようと一瞬過ぎったが、杞憂であった。
神のものは比較的小さめで、体格に合った未熟さのようだ。使い込んでいるようには見えない。
「ひ、やぁっ、くぅ、ん……っ!」
ふるふると震える陰茎を手のひらで包み込み、扱きあげると、神は小動物のような鳴き声を上げた。
先端からとろとろと先走りが溢れてくる。その反応に気を良くした男は、戯れにぴんと立った胸の尖りに軽く歯を立てた。
「ぁああっ……」
手の中のものがびくんと震え、白濁が散る。
あまりのことに神は呆然としていた。男も呆気にとられた。まさかこれほどまでに神を翻弄できるとは。
息を乱して脱力する神は抵抗する気配がない。
男は拘束していた神の手を離し、自由になった両手で下半身を中心に責め立てることにした。
すなわち、くたりと力を失った陰茎に再び触れ、さらにはその奥に秘められた処女地を目指す。
「な、なんでそんなところを、おいっやめろ!」
「嫌か?」
「やだっ、ぇ、あ、うそ、なか、中にはいって……!」
男には男同士の知識がなかったが、女相手でもここを使うことはあると知っていた。
神が放ったものを纏った指は、くにくにと穴の周囲をしばし揉んだだけで、あっさりと受け入れられた。神の秘蕾は男の指を歓迎しているように思える。
「神よ。ここで一人遊びをしたことがあるのではないか?」
「え……っ」
絶句した神に手応えを感じ、遠慮なく指を根本まで埋める。
神はもはやされるがままだった。足を大きく開かれていても閉じる気配すらない。
神の雄芯は触れずともすっかり勃ち上がっていたので、男は神の膝裏に口づけながら柔らかく丸い尻を揉んだ。
「だめ、やめ……ぁ、あっ、ナカ、いじるなぁっ」
「たしか男にも、女のように感じる場所があるのではなかったか?」
「っ! そこ、やめ」
「ここか」
「あぁ……!」
神は嘘がつけない。
肉壁の一点を探ると、逃げようともがいていた神は雷が当たったようにびくんと震え、あえかな喘ぎをこぼした。
男はそこを何度もぐちゅぐちゅと指先で穿ち、押し込み、後孔を犯す指の数を増やしていく。
女相手でもここを使う場合は濡れないと聞いていたが、神の後孔はなぜかとろとろに潤みきっており、男の指を何本でも受け入れた。
これなら。
「神よ。勝負だ」
「は……はぇ……?」
「先に極めたほうが負けということにしよう。いいな?」
「……ぇ、待っ、我はもう、───ッ!」
男の陽物はギンギンに戦闘態勢となっていた。
神の尻から陰嚢にかけて擦り付けると、ほころんだ後孔が待ちきれぬとばかりに裏筋に懐いてくる。
こんな反応をしては、神自身がどんなに拒もうと、受け入れているも同然だった。
えらの張った先端を含ませると、神の穴は嬉しそうにそれを食んで飲み込んでいく。
神自身は言葉もないようで、全身をびくびくと震わせた。
陰茎から再び白濁が散っているように見えるが、まさか挿れただけで絶頂することはないだろうと男は判断し、挿入を止めることはなかった。
「はぁ……っ、神よ、もう少しナカをゆるめられないか」
「……」
「神?」
星あかりだけが照らす神殿の寝所で、神は気を遣りかけている。
このまま寝られたら勝負が流れてしまう。なにより自分の収まりがつきそうもない。
男は神の頬を撫でながら、かつてこの地を目指すと決めたときに知った彼の名を────もはや誰も呼ばなくなって久しい、神の名を呼んだ。
「ソル。起きてくれ、勝負を続けるぞ」
「……ぁ、な、なん……」
「どちらが先に極めるか、だ。俺はまだまだいけるぞ、さっきちょっと危なかったが」
ソルが意識を取り戻した瞬間、後孔の締め付けがゆるむ。
その瞬間を逃さず、男は奥まで腰を押し込んだ。
「───~~ッ!!」
背を仰け反らせ、声も出せないソルだったが、男はそれに気づかない。
己が陰茎を包み込む神の肉のなんと熱く、やわらかく、それでいて搾り取るように蠢くものか。
先端が肉輪を通り抜けたときになんとか耐えた射精感が再び迫り、唇を噛んでそれを耐える。こんなところで負けてしまうわけにいかない。
「動くぞ」
「ひ、やめ、たのむ、やめ───ぁあ、あっ!」
ソルもまだ闘志を失っていないようだ。男にしがみつき、快感に耐えている。
良い勝負ができそうだ。
男はソルの体を抱き起こし、腿の上で揺さぶった。
ソルの体は何度も弾み、ぴゅるぴゅると少量、男の腹に精液を撒いていたが、男は自身の律動に夢中で気づかなかった。
「あぁ、あ、も、つらい……」
「む。どこか痛いか?」
「ちが……きもち、よすぎて……」
ソルにとっては止まってほしいが故の必死の懇願だったが、男はその反応に満足した。
どうせなら神にもこの勝負を楽しんでほしいと思っていたからだ。
「あぁ、俺も気持ちがいい。達したければ先にいいぞ」
「もう何回も……ぁ、おく、奥やめ……」
「ここがいいのか」
やめろと言った場所ばかりぐりぐりと責め立てられ、ソルはそろそろ本格的に気を失いそうだった。
あまりにもつらい。
ソルは気力を振り絞って、男に言った。
「聞け、我はもう、何度も達している……だから、ヴィア、おまえの勝ちだ」
息も絶え絶えに口にしたのは、これまで決して呼ばぬと決めていた男の名だった。
神の力を目当てにやってくる人間の名など、全部覚えていてはきりがない。それにどいつもこいつもすぐに死んでしまう。
だから誰の名も呼ぶつもりはなかった。
自分を負かす、この男のようなしつこいやつが現れるまでは。
「だから、もうやめ、」
「やったぞ、ついにソルに勝てた!」
「ひぃっデカくするなっ!」
ヴィアは喜びのあまり大興奮して、ますます激しく神を揺さぶる。
「ソルが酒と色事に弱いとは盲点だった。常人より、いやむしろ商売女より弱々かもしれないな。尻など、すぐにほぐれてしまったし、俺に懐いてぎゅうぎゅう締め上げてくる始末。こんな有様でよく今まで無敗を貫けたものだ」
「あっ、あっ、あっ」
「勝負は決しているからな。あとは俺に最後まで付き合ってくれればそれでいい」
「ひぁ……やめて……しんじゃう……」
「はは、こんなことで殺せたらどんなに楽だったであろうな」
ソルは全然冗談でも誇張でもなく腹上死させられそうだと感じていたが、ヴィアはそれを笑い飛ばして、最奥まで神を蹂躙した。
「ぁ、あ゛、────ッ」
やがて神はついに射精を伴わぬ絶頂に至り、脱力して男の胸に倒れ込む。
ソルのナカは男をぎゅうっと絞り上げ、さしものヴィアもたまらず神の奥深くへたっぷりと白濁を吐き出した。
萎えたものを抜き取り、びくびくと跳ねるソルの体を寝台に横たえてやる。
「どうだ神よ、楽しかったか? 初めて負けた感想はどうだ」
「…………ばか……」
「ははは」
ヴィアは寝台に腰掛け、疲れきって指一本動かせないソルの髪をそっと撫でた。
こうしていると、無敗の戦神とは思えないたおやかさだ。
ヴィアの指先がいたずらに耳元をくすぐると、ソルは「んっ」と鼻にかかった声を漏らす。
男の男が、再びぐんと反応した。
「神よ」
「なんだ……ばかもの……」
「もう一度勝負だ」
「はっ!?」
神は渾身の力で上体を起こし、なぜか再び興奮し始めている男と股間を見た。
「ばか! ばかばかっ無理だ! 腰が抜けるっ」
「腰が抜けても大丈夫だ。俺が運んでやる」
「大丈夫じゃないわ! 本当にダメだって、おいっ」
「嫌か、そうか」
ヴィアはしゅんと項垂れる。
思ったより男が意気消沈してしまったので、ソルは内心慌てた。
さっきまではあんなにソルの拒絶を無視していたのに、突然聞き分け良くならないでほしい。
「ま、まぁ今日はもうダメだが、別日なら、考えてやるぞ」
だから、そんな譲歩を口にしてしまったのだが。
「そうか。神よ、たった今、日付が変わった。今日は別日となる。ヤろう」
「な……ッ!? おまえ、星の位置で時間を読むでないっ!」
「さぁ神よ、勝負をしよう」
ベッドに横たわり身動き取れないソルに、元気すぎるヴィアを押しのける力など残っているはずもなく。
空が白み始めるまで、神は男に負け続けたのであった。
一夜明け、ヴィアは神殿の寝台で目を覚ました。
眠ったのは朝方だったが、すっきり爽やかに目覚めることができた。出すものを出し切ったからだろう。
傍らに眠る神────ソルは死んだように眠っているが、死んでいないのはわかっている。
ヴィアはべたべたの体を洗うため神殿を出て、裏にある小川へ向かう。
そこで、低木からこちらを伺う蛇と再び相まみえた。
「おぉ蛇よ、あのときは助言をありがとう。おかげで神に勝つことができたぞ」
「そうか。ならおまえが次の神ということか」
「……うーん?」
蛇にそう言われ、男は違和感に首を傾げた。
神を倒したものはその力をすべて我が物とすることができる。しかしヴィアの肉体は、昨日となんら変わりがないように思える。
蛇は男の反応を予期していたようで、舌をちろちろとさせながら呆れたような目でヴィアを見た。
「倒せとは言ったが、押し倒せとは言っていないぞ、まったく……殺さなければ神の力は手に入らない。はぁ、とんだ無駄足だ」
「蛇に足はないだろう」
「うるさい。とにかくおまえはもう用無しだ、神と仲良く乳繰り合っていればいい」
蛇は長い体を器用にくねらせ、するすると木を降りどこかへ去っていった。
昨夜の情事を見られていたと知ったヴィアは、ちょっとだけ恥ずかしく思ったが、蛇に見られてもどうということはないと考えを改めた。
水を浴びて自身を清め、神の体を清めるために手ぬぐいを濡らす。
その後、寝台にしどけなく横たわるソルの体に再び欲情したヴィアは、眠る神を犯そうとして、目を覚ました神に渾身の力でげんこつを落とされ頭頂部が尋常じゃなく腫れたのだった。
「このばか! 下半身ばか!」
「俺の下半身は馬鹿ではない。神をも倒した下半身だ」
「ばか!!」
くっついたばかりのカップルのイチャつきであったが、そんな馬鹿馬鹿しいやりとりを見ているものは今度こそ誰もいない。
結局折れたのは神だった。
男はいつまでも己の神に勝負を挑み、神はいつだって己の男の勝負を受けてやるのであった。
おわり
そんな伝承を信じ、神殿にやってきた男は、無敗の戦神と刃を交わした────が、負けた。
連戦連敗、一度も勝てない。
剣だけでなく、ありとあらゆる勝負をしかけたが、男が神に勝つことはなかった。
どうすれば神を倒せるのか。悩む男の前に蛇が現れ「神は酒に弱い」と囁く。
【キーワード】
ファンタジー / 鈍感攻め / 神受け / シリアスなし
◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆
静謐な神殿に男が足を踏み入れるのは、もう何度になるだろうか。
平らかな白亜の石の道を踏みしめながら一歩一歩進んでいく。
奥には大階段があり、頂上には石の台座があり────そこには今日も人影があった。
いや、彼は「人」ではない。
「神よ、今日こそ決着をつけよう」
神のために設えられた場で着崩した衣を纏い、神のために供物を捧げる台座に座ることを許されたもの。
「今日こそ、神を殺す」
男の厳かな宣言に、神はにやりと笑ってみせた。
「いいだろう。来い、人間」
どこにでもいそうな少年だ。
生成りの貫頭衣を雑に巻き付け、革ベルトのサンダルも特別なものには見えない。
唯一、敷いて座っている上着は高貴な紫。
見るものが見れば不敬と腹を立てそうなだらしなさだ。
しかし彼に意見できるものはいない。
なぜなら彼は、この地で最強と謳われる神だからだ。
男はそんな神に躊躇なく近づき、小脇に抱えていたものを石台にドンと置いた。
「これは?」
神は妙に年齢を思わせる仕草で顎をなぞり、それを見下ろす。
「知らないのか? このマス目にひとつずつコマを置いていく。コマは表裏が黒と白に色分けされていて……」
「なるほど、陣取り遊戯だな」
「さすがだな、神よ。理解したのなら早速始めよう」
話し合うこともなく先行を奪い取り、コマを握りしめた男に、神は苦笑する。
「勝てないからってこんな盤上遊戯まで持ち出すとは」
「うるさい。今日こそおまえを負かして俺が最強になるのだ!」
「はいはい」
神は色の薄い髪をさらりと後ろへ除け、仕方なさそうに笑ってコマを手に取った。
神は常に神殿に在った。
そこへ男がやってきたのは、しばらく前のこと。
彼はいきなりやってきて、神に勝負を挑んだ。
この地では、神を倒せばその力を我がものにできる、と言い伝えられていたからだ。
「この地に俺の敵はもういない。俺は最も強い剣士となった。ならば神をも殺せるはずだ」
結論から言って、それはとんだ慢心だった。
自分よりいくらも小さく細い神に、男はぼろ負けした。
それはもうぼろくそにされた。
「この程度で最強の剣士なのか。この国、いやこの地もそろそろ一度滅びるやもしれんな」
物騒なことを言いながら剣を肩に担ぎ、男を見下ろしてにやりと笑う神に、男は恐れをなして逃げ出し────たりはしなかった。
「今日こそ倒す!」
男は次の日も来た。その次の日も、また次の日も来た。
何度やっても勝てないと悟ると、男は剣以外の武器を持ってきた。
槍、弓、斧、それだけでなく農作業用の鎌を持ってきたとき、神は初めて男に笑みを見せた。呆れ笑いであったが。
そのうち雨季に入り、神殿の広間で戦えないとなると、今度は別の勝負を挑むようになった。
短距離走、マラソン、幅跳びに高跳び、木登り崖登り、反復横跳びの回数まで競ったが、勝てなかった。
ある日、大嵐で神殿にたどり着くにもやっとだった男を出迎え、神はついに神殿の建物内へ男を通した。
強風と豪雨にあおられた男があまりにも濡れ鼠でかわいそうだったからだ。
男は、荘厳な造りの外側とは打って変わって狭い神の居室をまじまじ眺め、ここではろくな勝負はできぬと懐からコインを取り出した。
「今日はコイントスでおまえを倒す」
男はコインの裏表を予測するゲームですら神に負けた。
「おまえ、そろそろ飽きないのか?」
「飽きるとか飽きないとかではない。俺は神、おまえを倒すのだ。それ以外になにがある」
「なにがある、と言われてもなぁ。陣取り遊戯ですら我に負けるのに、倒すとか無理だろう」
「うぐぐ」
神は三連勝してそろそろ退屈していた。ずっと盤を見下ろす姿勢だったので肩も凝った。
男は変なうめき声を出しながら、完敗の盤面をにらみつけて動かない。
仕方なく神は腰を上げ、神殿建屋に戻った。そして籠を持って戻ってくる。
「腹が減ったろう。これでも食え」
「あぁ。おい神、もう一戦だ」
「まだ我に負け足りぬのか~?」
「次こそは負けん!」
神に捧げられた供物である果物を口に放り込みながら、男はまだまだ諦めていなかった。
戦いも体力も遊戯も何一つ勝てていないが、さまざまなものを試していればいつかは神を凌駕できると信じ切っている。
いつだって無駄に自信満々な男の真っ直ぐな眼差しに、神はにやりと笑って、いつだって勝負を断ることはなかった。
陣取り遊戯は日が暮れるまで何戦も行われたが、当然のように男の全敗であった。
「なぜこんなにも勝てない……」
その日、男はさすがに凹んでいた。
神殿の入り口にひとつだけ、やや灰色がかった石材がある。
そこに刻んだ男の「神への挑戦回数」は、男がもう三月も毎日負け続けていることを示していた。
常に根拠のない自信に満ちあふれている男であったが、さすがにそろそろ堪えてきた。
一番自信のあった剣術でぼろ負けして、結局一太刀も浴びせることができなかったことが思い出され、深々と嘆息する。
「なぁ、きみ」
そんな男に近づくものがあった。
神殿の壁面を覆う蔦に器用に体を巻きつけて、するすると降りてくる。
「はぁ……いつになったら神を倒せるのだろうか」
しかし男は落ち込むのに忙しく、来訪者に気づいていなかった。
「なぁ、なぁって」
「体力勝負も遊戯も勝てぬ、力比べはもっとダメ、あとはもう知恵比べくらいしか……」
「おい、おーい」
「パズルリングでも持ってくるか? いや謎解きのほうが」
「おいっそこの連敗男!」
大声で至極不名誉なことを言われ、男は振り返った。
神殿の柱の中ほどに、蔦にぶら下がった一匹の蛇。
失礼なことを言うのはこいつか。なめして腰紐にしてやろうか。
男が腕を伸ばす前に蛇はさっと身をもたげ、細い舌をチロチロさせながら話しかけてきた。
「おまえ、あの神に負け続けているんだろう」
「うるさいぞ、腰紐もどき。今に見ていろ、すぐ勝ってやる」
「腰紐って呼ぶな。それよりおまえ、『神に勝つ』ということを、きちんと理解しているのか?」
「なに……?」
思いもよらぬことを言われ、男はその場で正座した。拝聴の姿勢である。
「いいか。おまえは無闇に勝負勝負と神に立ち向かっているが、そもそも勝ち負けの条件を理解しているか?」
「勝ち負けの条件……」
「おまえの勝つ条件は、神を『倒す』ことだ。考えてもみろ、おまえは毎日神と勝負して負けている。しかしおまえは命を、それどころかなにも奪われていないし、明日もまた勝負ができる。おまえが勝ったら神の力を奪えるというのに……釣り合いがとれなさすぎるだろう」
男は正座したままハッとした。
たしかに、男は全力で神と戦っているし、隙あらば打ち倒そうと思っているが、神は男が膝をついたり、項垂れたり、遊戯に勝敗がついた時点でそれ以上なにもしてこない。
男は負け続けているが、「倒されてはいない」。
「神は侮っているのだ。おまえが何度挑んでこようと勝てると。屈服させ、命を奪う必要すらないと」
蛇はチロチロと舌を振り、冷たい目で男を見つめた。
膝の上で握られた男の手がぎりりと音を立てる。
弄ばれていると薄々感づいていたが、他者からそれを指摘されるのは屈辱だった。
男の怒りを十分に煽ることができた蛇は、満足げに身をうねらせる。
「このままでは何度挑んだところでおまえは負け続けるだろう。どうすれば勝てるか、わかるか?」
「いや……正直もう手詰まりだ……」
「そうだろう。いやいやわかっている。いいか、神の弱みを握るのだ」
「神の、弱み?」
あのひたすらに強い神に弱みなどあるのだろうか。
剣術勝負では、人体の急所のどこを狙っても防がれてしまっていた。だからどこが弱いかすらわかっていない。
農業用の鎌で勝負を挑んだときは、初めて持つ鎌というものに苦笑していたが、ものの数振りで得手とされて負けてしまった。
運動勝負でも遊戯勝負でも、ルールを知らなかったというのにすぐ覚えて、なおかつ男を圧倒するのだから、かの神に弱い部分などないように思えてならない。
しかし蛇は酷薄そうに目を細め囁いた。
「あの神は酒に弱いのだ。うまく利用しろ」
それはまったくの盲点だった。
そもそも男は神に勝ちたいのであって、神を敬う心が全くないものだから、神に何かを捧げるという発想がなかった。
だがおそらく神の信徒なら、かの神が酒に弱いことを知っているのだろう。
猪突猛進すぎて、ただ神に体当たりすることしかできない男にとってそれは、とてつもなく有意義な情報に思えた。
ただし、男とて酒に強いわけではない。
その後勝負をすることを考えれば、男は酒を飲まず、神だけを酔わせるのが最善だろう。
そうと決まれば酒の準備である。
男はいつも素通りする神殿のふもとの町で、酒屋に入った。
「店主よ、俺はこれからあの神殿の神に捧げ物をしにいく。神に喜んでいただけるよう、飲みやすく旨い酒はどれか」
「おぉ、あんちゃんお目が高いな。うちは代々神様に酒を奉納しているんだ。神様はこの酒が気に入りだよ」
店主が出してきたのは、国で広く飲まれている蒸留酒だ。
口当たりはさわやかで、度数がそれなりにあり、寒い日に体を温めるための酒としても重宝される。
男は満足して店を出ようとして、店主に肩を掴まれた。
「あんちゃん、お代」
「えっ。神に捧げるものなのに、金を取るのか」
「そりゃ神様に捧げるんだから安くはするさ。タダにはしないが」
しっかりしているというか、がめついというか。男は仕方なく金を払い、店を後にした。
男が酒を持ったまま神殿に向かうのを、店主がこっそりと見つめている。やはりがめついだけのようだ。
「神よ、今日も来たぞ」
近頃男は口上を面倒がって「おじゃまします」的に雑な挨拶だけで神殿へ入っている。
神も特に咎めず「いらっしゃい」という感じで迎えてくれるのだが、今日は少しだけ違った。
「今日も来たか。おや、それは」
「おまえにやる」
「えっ!」
酒瓶を渡され、神は目を白黒させた。
「おまえ、毎日武器か遊戯しか持ってこないのに、今日はどういう風の吹き回しだ?」
「べ、別に俺が捧げ物を持ってきたって、お、おかしくないだろう。おまえは神なのだから」
「いや明らかに様子がおかしいが……あぁそうか、今日は祭りだからか」
「まつり?」
男は辺鄙な山奥から毎日走ってここに通っているために、人里の行事に疎かった。
当然、今日が豊饒祭であることは知らなかったが、神が酒を受け取るには理由が必要らしいと察し、とりあえず頷いておいた。
「そ、そうだ。祭りの捧げ物だ。受け取れ、そして飲め」
「そうか、それなら受け取ろう。礼を言うぞ」
「……」
男は神と対話し始めて久しいが、礼を言われたのは初めてだったので押し黙った。
そもそも勝負が介在しない会話をすること自体初めてで、なんだか急に照れくさいような、全身が痒いような妙な感覚に襲われていた。
「では行くか」
「は? 行くとはなんだ」
「決まっているだろう、祭りにだ」
感情をうまく処理できない男の腕を、神が取った。
ぐいっと引っ張られ、逆らわずにいると、神は神殿の階段を降り始めた。
どうやら本当に町の方へ行くらしい。
武器を持たず、相手を打ち負かす目的でなく、神に触れるのも初めてのことであった。
握られている方の手から尋常じゃなく汗が出る。
今すぐ振り払いたいような、いつまでもこうしていたいような、またしても理解できない感情にみまわれ、結果男は何も言わずに神に手を引かれていった。
「今日は来ないかと思っていた。あまりに遅かったからな」
男が町で酒屋を探してもたもたしているうちに、地上は西日に包まれ始めていたのだった。
神は町の景色がよく見える高台へ男を連れてきて、放置されている石材に腰を下ろした。よく見ると石材は神殿の石と同じもののようだ。
男が神の横に座ると、神はいつの間に持ってきたのか、ゴブレットを二つ取り出した。
片方を男へ差し出し、その表面が少し曇っているのを見て、慌てて高貴な紫の衣で拭いて渡す。
輝くゴブレットが黄金製のような気がして男はやや怯んだが、断る間もなく神にお酌されてしまい、渋々酒を含んだ。たしかに旨い。
「にぎやかだな」
神がぽつりとつぶやいた。
その横顔は、夕日に照らされて陰影がはっきりとして見える。
やがて日が沈み、町では本格的に祭りが始まった。灯火が焚かれ、食欲をそそる祭りの振る舞いと共に、拍子と歓声が風に乗って運ばれてくる。
しかし高台から見下ろす祭りは、とても遠くの出来事のように映った。
「祭りに参加しないのか、神よ」
「参加しているだろう。こうして酒を楽しんでいるし」
「もっと近くに行ってはどうか」
「ここでいい」
にべもなく断られ、男は再び黙り込んで酒を煽った。
ふと、神が誰かといるところを見たことがないなと思う。
神は町の人間たちから崇拝と信仰を集めている。神殿には毎日のように捧げ物が贈られ、祭りの囃子は神を賛美する歌だ。
しかし神はいつもたった一人で神殿にいた。
「楽しいな……」
横にいる神の声が上ずっている。
神は酒に酔っていた。頬が赤らみ、口元は緩み、吊り目がちの双眸はいつになくとろけている。
酒瓶はそれほど嵩を減らしていない。どうやら神が酒に弱いのは本当のようだ。
男は思わぬ好機に呆然としてしまった。
(今なら倒せる……)
しかし躊躇した。
そんな男の葛藤を知ってか知らずか、神は機嫌良さそうに町を見下ろしながら、ゴブレットを傾ける。
「おまえ、以前言っていたな。我を倒せばその力を得ることができると」
「あ、あぁそうだ」
男は踏ん切りがつかないまま、神の言葉に耳を傾ける。
「我も同じだ。この神殿の神の力をものにした。そして並び立つもののない強さを持つ神となった……強大な力を恐れて、誰も近寄れなくなるほどに」
「……!」
「なんとも思っていないつもりだったのだがな。こうして久方ぶりに人の営みなどみると、少しばかり、孤独というものを思い出してしまう」
それから神は、灯火のちらつく潤んだ瞳を真っ直ぐに男へ向け、微笑んだ。
「おまえが毎日来るようになって、楽しいという気持ちを思い出した。こういうのも悪くないな」
それから神は力が抜けたように、男の肩に寄りかかって深く嘆息した。
わずかに表皮を撫でた呼気が熱い。
神は酒気で頬を赤く染め上げていた。
口角はゆるく持ち上がり、男の肩に触れている髪は驚くほどつややかで、さらさらと風に吹かれている。
見下ろすと、神の頭がよく見えた。まろい輪郭、肌がすべすべしていてやわらかそうだ。頭の位置が低い。首も肩も腕も細い。年頃の少年よりさらに薄い体。衣類の合間から鎖骨が覗き、その下の淡く色づく胸元まで見えてしまいそうで、男は慌てて目をそらし酒を含んだ。
神とは、こんなにも小さく、可憐な存在だっただろうか。
どうして今まで、彼を殺せると信じ込んでいられたのだろう。
「……」
気がついたら、口づけをした後だった。
薄くやわらかく、ほんのりと薄紅の唇を軽く食んで、全く抵抗されないのをいいことに、もう一度口づける。
直後に「やってしまった」と思った。しかしもう後には引けない。
顔を離すと、神は閉じていた目をゆっくり開け、にやりと笑った。
「勝負するか?」
神よりも酒が進んでしまった男は、おそらく酔っていたのだろう。そこからの記憶はやや曖昧だ。
正気に戻ったときには、男は神を寝台に押し倒していた。
粗末なベッドだった。神殿の石材の上に申し訳程度に木の枠組みがあり、かろうじて埃っぽくはない布が数枚重ねてあるだけのもの。
神として崇め奉られている彼が、「命あるものとしては」極めて軽んじられていることを実感し、男はやるせなさに襲われた。
強大すぎる力を憂い、寂しさに渇く彼は、男と、人間たちと何も変わらないではないか。
そう思ったらもう止められなかった。
「ん……ッ、そう急くな、服は破くなよ」
「保障はできない」
「ばかやめろ、まったく……」
服を破かれたくないからと、神は自ら着衣を脱ぎ捨てた。
その時点でもう鼻血を吹きそうだった男は、なんとか堪えて、かわりに神の唇を好き放題に貪る。
神の舌技はつたなかった。
「ぅあ、ふ、っん……ちょ、くるし、」
「神よ、口づけをしたことがないのか?」
「な、ないわけがないだろう! ただちょっと、二百年ぶりくらいで、やりかたを忘れ、んんっ」
息継ぎできず溺れそうになっている神だったが、素直に目の前の男に教えを請うことなどできなかった。
その隙に男の手は下りていき、小さな突起を捉える。
「あっ!」
そんなところを触られたことなど一度もない。
神は男を遠ざけるために腕を突っ張り、身を捩ったが、その手を難なく捕らえられ頭上にまとめて拘束されてしまった。
男は神の抵抗を抑え込みつつ、わずかに立ち上がってきた胸の頂きに舌を這わせる。
「やっ、そんなところ、なめるな……っ、ぁ、ひ……っ」
「嫌か?」
「んぁっ、や、いやだ……っ」
どう見ても感じまくっている神は、そこらの女より感度が良さそうだった。
男は年齢なりに経験があったが、相手は異性ばかりで、同性とどうこうしようと思ったことすらない。
しかしどうにかなるだろうと考えていた。穴がないわけではないし。
男も酒の力で頭がゆるふわになっていた。
「そうか、こっちを触っていなかったな」
「あぁっ!」
乳首への刺激は止めることなく、男は神の下腹をまさぐる。
そのへんの作りが人間と違ったらどうしようと一瞬過ぎったが、杞憂であった。
神のものは比較的小さめで、体格に合った未熟さのようだ。使い込んでいるようには見えない。
「ひ、やぁっ、くぅ、ん……っ!」
ふるふると震える陰茎を手のひらで包み込み、扱きあげると、神は小動物のような鳴き声を上げた。
先端からとろとろと先走りが溢れてくる。その反応に気を良くした男は、戯れにぴんと立った胸の尖りに軽く歯を立てた。
「ぁああっ……」
手の中のものがびくんと震え、白濁が散る。
あまりのことに神は呆然としていた。男も呆気にとられた。まさかこれほどまでに神を翻弄できるとは。
息を乱して脱力する神は抵抗する気配がない。
男は拘束していた神の手を離し、自由になった両手で下半身を中心に責め立てることにした。
すなわち、くたりと力を失った陰茎に再び触れ、さらにはその奥に秘められた処女地を目指す。
「な、なんでそんなところを、おいっやめろ!」
「嫌か?」
「やだっ、ぇ、あ、うそ、なか、中にはいって……!」
男には男同士の知識がなかったが、女相手でもここを使うことはあると知っていた。
神が放ったものを纏った指は、くにくにと穴の周囲をしばし揉んだだけで、あっさりと受け入れられた。神の秘蕾は男の指を歓迎しているように思える。
「神よ。ここで一人遊びをしたことがあるのではないか?」
「え……っ」
絶句した神に手応えを感じ、遠慮なく指を根本まで埋める。
神はもはやされるがままだった。足を大きく開かれていても閉じる気配すらない。
神の雄芯は触れずともすっかり勃ち上がっていたので、男は神の膝裏に口づけながら柔らかく丸い尻を揉んだ。
「だめ、やめ……ぁ、あっ、ナカ、いじるなぁっ」
「たしか男にも、女のように感じる場所があるのではなかったか?」
「っ! そこ、やめ」
「ここか」
「あぁ……!」
神は嘘がつけない。
肉壁の一点を探ると、逃げようともがいていた神は雷が当たったようにびくんと震え、あえかな喘ぎをこぼした。
男はそこを何度もぐちゅぐちゅと指先で穿ち、押し込み、後孔を犯す指の数を増やしていく。
女相手でもここを使う場合は濡れないと聞いていたが、神の後孔はなぜかとろとろに潤みきっており、男の指を何本でも受け入れた。
これなら。
「神よ。勝負だ」
「は……はぇ……?」
「先に極めたほうが負けということにしよう。いいな?」
「……ぇ、待っ、我はもう、───ッ!」
男の陽物はギンギンに戦闘態勢となっていた。
神の尻から陰嚢にかけて擦り付けると、ほころんだ後孔が待ちきれぬとばかりに裏筋に懐いてくる。
こんな反応をしては、神自身がどんなに拒もうと、受け入れているも同然だった。
えらの張った先端を含ませると、神の穴は嬉しそうにそれを食んで飲み込んでいく。
神自身は言葉もないようで、全身をびくびくと震わせた。
陰茎から再び白濁が散っているように見えるが、まさか挿れただけで絶頂することはないだろうと男は判断し、挿入を止めることはなかった。
「はぁ……っ、神よ、もう少しナカをゆるめられないか」
「……」
「神?」
星あかりだけが照らす神殿の寝所で、神は気を遣りかけている。
このまま寝られたら勝負が流れてしまう。なにより自分の収まりがつきそうもない。
男は神の頬を撫でながら、かつてこの地を目指すと決めたときに知った彼の名を────もはや誰も呼ばなくなって久しい、神の名を呼んだ。
「ソル。起きてくれ、勝負を続けるぞ」
「……ぁ、な、なん……」
「どちらが先に極めるか、だ。俺はまだまだいけるぞ、さっきちょっと危なかったが」
ソルが意識を取り戻した瞬間、後孔の締め付けがゆるむ。
その瞬間を逃さず、男は奥まで腰を押し込んだ。
「───~~ッ!!」
背を仰け反らせ、声も出せないソルだったが、男はそれに気づかない。
己が陰茎を包み込む神の肉のなんと熱く、やわらかく、それでいて搾り取るように蠢くものか。
先端が肉輪を通り抜けたときになんとか耐えた射精感が再び迫り、唇を噛んでそれを耐える。こんなところで負けてしまうわけにいかない。
「動くぞ」
「ひ、やめ、たのむ、やめ───ぁあ、あっ!」
ソルもまだ闘志を失っていないようだ。男にしがみつき、快感に耐えている。
良い勝負ができそうだ。
男はソルの体を抱き起こし、腿の上で揺さぶった。
ソルの体は何度も弾み、ぴゅるぴゅると少量、男の腹に精液を撒いていたが、男は自身の律動に夢中で気づかなかった。
「あぁ、あ、も、つらい……」
「む。どこか痛いか?」
「ちが……きもち、よすぎて……」
ソルにとっては止まってほしいが故の必死の懇願だったが、男はその反応に満足した。
どうせなら神にもこの勝負を楽しんでほしいと思っていたからだ。
「あぁ、俺も気持ちがいい。達したければ先にいいぞ」
「もう何回も……ぁ、おく、奥やめ……」
「ここがいいのか」
やめろと言った場所ばかりぐりぐりと責め立てられ、ソルはそろそろ本格的に気を失いそうだった。
あまりにもつらい。
ソルは気力を振り絞って、男に言った。
「聞け、我はもう、何度も達している……だから、ヴィア、おまえの勝ちだ」
息も絶え絶えに口にしたのは、これまで決して呼ばぬと決めていた男の名だった。
神の力を目当てにやってくる人間の名など、全部覚えていてはきりがない。それにどいつもこいつもすぐに死んでしまう。
だから誰の名も呼ぶつもりはなかった。
自分を負かす、この男のようなしつこいやつが現れるまでは。
「だから、もうやめ、」
「やったぞ、ついにソルに勝てた!」
「ひぃっデカくするなっ!」
ヴィアは喜びのあまり大興奮して、ますます激しく神を揺さぶる。
「ソルが酒と色事に弱いとは盲点だった。常人より、いやむしろ商売女より弱々かもしれないな。尻など、すぐにほぐれてしまったし、俺に懐いてぎゅうぎゅう締め上げてくる始末。こんな有様でよく今まで無敗を貫けたものだ」
「あっ、あっ、あっ」
「勝負は決しているからな。あとは俺に最後まで付き合ってくれればそれでいい」
「ひぁ……やめて……しんじゃう……」
「はは、こんなことで殺せたらどんなに楽だったであろうな」
ソルは全然冗談でも誇張でもなく腹上死させられそうだと感じていたが、ヴィアはそれを笑い飛ばして、最奥まで神を蹂躙した。
「ぁ、あ゛、────ッ」
やがて神はついに射精を伴わぬ絶頂に至り、脱力して男の胸に倒れ込む。
ソルのナカは男をぎゅうっと絞り上げ、さしものヴィアもたまらず神の奥深くへたっぷりと白濁を吐き出した。
萎えたものを抜き取り、びくびくと跳ねるソルの体を寝台に横たえてやる。
「どうだ神よ、楽しかったか? 初めて負けた感想はどうだ」
「…………ばか……」
「ははは」
ヴィアは寝台に腰掛け、疲れきって指一本動かせないソルの髪をそっと撫でた。
こうしていると、無敗の戦神とは思えないたおやかさだ。
ヴィアの指先がいたずらに耳元をくすぐると、ソルは「んっ」と鼻にかかった声を漏らす。
男の男が、再びぐんと反応した。
「神よ」
「なんだ……ばかもの……」
「もう一度勝負だ」
「はっ!?」
神は渾身の力で上体を起こし、なぜか再び興奮し始めている男と股間を見た。
「ばか! ばかばかっ無理だ! 腰が抜けるっ」
「腰が抜けても大丈夫だ。俺が運んでやる」
「大丈夫じゃないわ! 本当にダメだって、おいっ」
「嫌か、そうか」
ヴィアはしゅんと項垂れる。
思ったより男が意気消沈してしまったので、ソルは内心慌てた。
さっきまではあんなにソルの拒絶を無視していたのに、突然聞き分け良くならないでほしい。
「ま、まぁ今日はもうダメだが、別日なら、考えてやるぞ」
だから、そんな譲歩を口にしてしまったのだが。
「そうか。神よ、たった今、日付が変わった。今日は別日となる。ヤろう」
「な……ッ!? おまえ、星の位置で時間を読むでないっ!」
「さぁ神よ、勝負をしよう」
ベッドに横たわり身動き取れないソルに、元気すぎるヴィアを押しのける力など残っているはずもなく。
空が白み始めるまで、神は男に負け続けたのであった。
一夜明け、ヴィアは神殿の寝台で目を覚ました。
眠ったのは朝方だったが、すっきり爽やかに目覚めることができた。出すものを出し切ったからだろう。
傍らに眠る神────ソルは死んだように眠っているが、死んでいないのはわかっている。
ヴィアはべたべたの体を洗うため神殿を出て、裏にある小川へ向かう。
そこで、低木からこちらを伺う蛇と再び相まみえた。
「おぉ蛇よ、あのときは助言をありがとう。おかげで神に勝つことができたぞ」
「そうか。ならおまえが次の神ということか」
「……うーん?」
蛇にそう言われ、男は違和感に首を傾げた。
神を倒したものはその力をすべて我が物とすることができる。しかしヴィアの肉体は、昨日となんら変わりがないように思える。
蛇は男の反応を予期していたようで、舌をちろちろとさせながら呆れたような目でヴィアを見た。
「倒せとは言ったが、押し倒せとは言っていないぞ、まったく……殺さなければ神の力は手に入らない。はぁ、とんだ無駄足だ」
「蛇に足はないだろう」
「うるさい。とにかくおまえはもう用無しだ、神と仲良く乳繰り合っていればいい」
蛇は長い体を器用にくねらせ、するすると木を降りどこかへ去っていった。
昨夜の情事を見られていたと知ったヴィアは、ちょっとだけ恥ずかしく思ったが、蛇に見られてもどうということはないと考えを改めた。
水を浴びて自身を清め、神の体を清めるために手ぬぐいを濡らす。
その後、寝台にしどけなく横たわるソルの体に再び欲情したヴィアは、眠る神を犯そうとして、目を覚ました神に渾身の力でげんこつを落とされ頭頂部が尋常じゃなく腫れたのだった。
「このばか! 下半身ばか!」
「俺の下半身は馬鹿ではない。神をも倒した下半身だ」
「ばか!!」
くっついたばかりのカップルのイチャつきであったが、そんな馬鹿馬鹿しいやりとりを見ているものは今度こそ誰もいない。
結局折れたのは神だった。
男はいつまでも己の神に勝負を挑み、神はいつだって己の男の勝負を受けてやるのであった。
おわり
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