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二章-首都の御三家-

13『唐傘のマキナ』

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 首都の人混みでごった返した主な通りから外れた、路地裏を雷クモに寄生された男が必死に逃げている…

「はぁ、はぁ…ここまでくれば…撒けたか…何だよ、あの足が速いベッコウ師は…」
久しぶりの食事中に襲撃を受けた雷クモの男は、建物の壁に背を預けて呼吸を整えようとするが…

「嬉しいな、足の早さを褒めてくれるなんてね。」
その明るい声の主である戦マキナの一人【葵】は、路地裏の壁から僅かに迫り出す屋根の上に足を組み座っており…その右手には、標的である男の右肩に刺さるクナイと同じ物を持っている。

「くそ…しつこいな…」
そう吐き捨てた雷クモの男は、葵が行く手を阻む方向とは別方向へ走り去る。

「くそ…どけ!退かないと!」
しかし、その先にはもう一人ベッコウ師が待ち構えていた…

「よし、作戦通りだね…」
そう呟いたテフナは、走って来る男に対して、手にする45口径の『ミナカ式C型拳銃』で狙いを定め…1発、2発っと続けて発砲する。

次の瞬間…心臓の辺りに1発目、頭部に2発目を食らった雷クモの男は倒れ、静止する。

「やったね、テフナ。」
標的が倒れたことを視認した葵が、トコトコっとテフナの元へ歩み寄って来る。

「うん、葵もお疲れ様…それにしても良いのかな?」
疑問を示したテフナに対して、葵が首を傾げる。

「私の雷クモの討伐に関して、葵が協力してもルール違反にならないのかな?」
「いやぁ、大丈夫でしょ…博士から私が協力したら駄目って言われてないし…それに、テフナの討伐数を把握する人間が必要でしょ?」
テフナの懸念に対して、葵がフォローする。

「でも、協力するんだし…テフナから報酬は貰うからね!」
そう続けた葵の表情と語気が一段と明るくなる。
「うん、あれくらいの報酬で良いのならいくらでも…」
テフナも笑みを返す。

ーーー

今日の見回りを終えたテフナと葵は、空軍内の宿舎へと帰還し…キッチンに立っている。

「うーん…やっぱり、あんこはこし餡かな…どうしても小豆の皮が苦手だな…」
そうこぼしながら葵は、テフナお手製の菓子シベリアを食べている。
「いや、その小豆の皮があるからこそ、小豆を食べてる感じがして私は好きなんだけどな…」
シベリアを作ったテフナ自身も食べ、見回りによる疲れを癒す。

「でも、葵…協力して貰う見返りがこれで良いの?」
テフナが改めて聞く。
「うん、お給料は軍から十分に貰えるけど…同じ年頃の同性との思い出?…青春って言うんだっけ?それは貰えないからさ。」
そう答えた葵は、もう一つシベリアに手を伸ばす。

「そっか…葵に喜んで貰えるのなら、作り甲斐があるよ。」
テフナが微笑みを返していると…キッチンの扉の向こうから、誰かが走る音が近付いて来る…

そして、勢い良く開け放たれた扉は、その勢いのまま…談笑していたテフナと葵の横を吹き飛んでいき、壁に轟音と共にぶつかる。

「それが、シベリアだな!私にも分けて欲しい!」
テフナが沈黙した扉から、声が聞こえた方へと視線を戻すと…そこには、葵と同じセーラー服を纏い、言葉の覇気とは裏腹に、髪に緩いパーマが掛かった少女が立っている。

テフナと同じ位の背丈のその少女は、右手に大きなあかい唐傘を持っていて…テフナと葵が囲むテーブルへと歩み寄って来る。

「もう!【小町】ってば、静かに入ってこれないの?」
葵は、またかっと言わんばかりに諦め半分に注意する。
「【小町】さんって…もしかして…」
テフナは、葵との知り合いであることから何となく小町の正体に見当が付く。

「そうだよ、この子が…攻撃力と再生力に特化した戦マキナ『攻撃・不死型』の【小町】だよ。」
小町に代わって、葵が紹介する。

「あぁ、よろぉしく頼ふ…」
テフナのシベリアに夢中の小町が、口をモゴモゴしながら答える。
「うん、私は源坂テフナ、宜しくね…それにしても、凄い嗅覚だね…それも戦マキナとしての能力なの?」
若干、小町の勢いに押され気味のテフナが問い掛ける。

「いいや…この鼻の良さは、私のオリジナルから引き継いだものらしい…あっ、しまった!桜を追いかけるのを忘れていた!」
任務を思い出した小町は、シベリアを2個3個っとリスの様に頬へ詰め込み、急いで部屋を後にしようとする。

「ちょっと!小町!テフナにお礼はないの?」
葵が失礼な小町に対して、再び注意する。

「あぁ、美味しかったぞ!テフナ、ありがとう。」
扉が失われたことで開放的になったキッチンの入り口から、再び顔を見せた小町の頬は既に元通りになっている。

そして、勢い良く走り去る小町に対してテフナが苦笑する。
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