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二章-首都の御三家-

14『桜と小町』

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 戦マキナとして雷クモの討伐に向かった筈の桜と小町は、夕方に通り掛かった屋台の店先で魔術の様に次第に大きくなっていく綿飴に、視線を奪われている。

「砂糖がどうして、こんなふわふわになるんだ?」
屋台で購入した綿アメを頬張りながら、小町が疑問を問い掛ける。
「うん、確かに不思議だよね…どういう原理なのか…」
桜の口角もその甘さに緩む。

「おっ、色んなお面が並んでいるな!」
小町は子供の様に、欲望の赴くままに次の屋台へと歩みを進める。
「ちょっと小町、本来の目的を忘れていない?」
同い年の桜が注意しながら追いかける。

「おっ、『金色ハット』のお面があるな!」
「金色ハットって何?」
小町が購入し、さっそく顔に付けた面は…小さな金色のシルクハットを右耳に斜めに掛ける形で被る猫のデザインをしている。

「知らないのか?『弱き者の為に、お宝を頂戴する猫の怪盗!金色ハット!』…輝くハットは正義の証♪誰を救うのか、金色ハット♪…紙芝居に、映画っと今のハイカラだぞ!」
鼻歌交じりの小町の隣を、神輿を担ぐ男女の成人2人が通りすぎていく…

その瞬間…小町の嗅覚と桜の戦マキナとしての探知能力が、異変を察知する。

「なぁ、桜…気付いたか?」
「うん…追いかけないと…」
さっきまでお祭り気分だった桜と小町の目付きが変わる。

そして、一定の距離を保ちながら法被姿に、戌の面を付ける男女が担ぐ神輿の後を、追っていく…

その神輿は、神社の本殿の前で急に止まる。

「どうやら…噂は本当だったみたいですね…」
「あぁ、そうらしい…」
疑問が確証へと変わった女の言葉に対して、男も迎合する。

「失礼ですが…噂って何のことでしょうか?」
桜が初対面の男女に対して、問い掛けると…桜たちに対して背を向けていた男女は同時に振り返り、同時に桜と小町をそれぞれに指を指す。

「あなた達の事ですよ…最近、私達の正体を見破るセーラー服姿の少女が首都を彷徨く様になったと…」
そう女が答えたタイミングで、神社の周囲に茂る草木が不自然に揺れ…多数の法被姿に戌の面を付けた老若男女が10人以上現れて、桜と小町と面と向かって対峙する。

「桜、すまない…神輿の中身の匂いに気を取られて気付かなかった。」
状況が悪くなったことに対して小町が、相方へ謝罪する。
「小町だけの責任じゃないよ…私も神輿に集中し過ぎていて探知が遅れてしまったわ…」
そう答えた桜と視線があった真正面に対峙する女が、再び口を開ける。

「流石は同種もどき…この中身にも気付いているんですね…良ければお裾分けしますよ?」
そう女が冗談半分に言うと、後から現れた戌の面の老若男女たちが不気味に笑う。

「いや、遠慮しておく…私達は、お前達とは違うからな…」
小町が先にキッパリと否定する。
「えぇ…神様の乗り物で、そんな物を運ぶなんて…神様への冒涜ね。」
桜の言葉に更に怒りが乗る。

「いや、神への貢ぎ物として昔の人間どもがやってきた事と同じだろう?…それに神への冒涜という言葉をそのまま返すよ。」
そう軽蔑した男は、桜と小町を見下す。

「もう冗談に付き合うのも飽きた…桜、早々に片付けるぞ。」
「そうね、少し数が多いけど2人なら対処出来る。」
小町の戦意に同意した桜が、半自動式拳銃セミオートピストル『ミナカ式C型拳銃』を構えようとした瞬間…背後の階段を上る複数の音が聞こえて来る。

桜と小町が振り向くと…戌の面に法被姿の男に連れられた子どもがいた…

「この男の子は…人間ね…」
そう告げた桜は、嫌な汗をかく…

「そういうことですので…お二人には、武器を置いてもらいましょうか…」
真正面に立つ女の指示に対して従うしかない桜と小町は、ゆっくりと武器を置くしかない…
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