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二章-首都の御三家-

12『平家のマキナ』

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 首都にある空軍管轄の藤原研究所、ユキノの事務室の扉を強くノックし部屋の主の許可を得る前に、来訪者がズカズカっと入って来る…

「藤原博士、赤坂村での一件での事後処理はどういうつもりか教えてくれ!」
入って来るや否やユキノへ問い詰めた軍人の男の肩章には、黒と黄色のラインの上に桜の花が左側から二つ並んでいる。

「はぁ…これは、これは…【平影盛たいらのかげもり】中尉ではないですか…赤坂村の件とは一体、なんの事でしょうか?」
不躾な態度に対してしらを切るユキノは、中年の影盛の後から金魚の糞の様にずらずらと入って来た少女3人に、視線を奪われる。

「海軍も、もう完成していたの…」
ユキノの隣に立つ桜が、小声で呟く。

「私達のご主人様が述べられている件とは…卜部レイを拘束した件についてで御座います。」
桜と同様のセーラー服を纏い、ベッコウバチが刺繍された赤いブーツを履き…長い銀髪、どこか自我を感じさせない虚ろな瞳が特徴である少女が機械的に答える。

「はい…ご主人様が言いたい事は、御三家の間で交わされた『戦マキナよろず型』の素体候補に関する協議違反ではないかと…」
右の一人目と瓜二つの姿である少女が続けて答える。

「はい…博士の藤原家と源坂もとさか家ひいては、源家が結託し、ご主人様の平家を出し抜こうとしているのではと危惧しておられます。」
右の一人目と真ん中の二人目と同じ姿をした、三人目の少女が更に続ける。

「おい!?お前達は黙っていろ!それとご主人様って呼ぶなと言っただろ…ったく、これだから女は困る…」
統率を取れていない少女達に対して、更なる悪態をついた影盛は、部屋の主の許可無しに来客用の装飾が施された椅子へとドカっと座る。

「それは私達のオリジナルに対する侮蔑でしょうか?」
主に注意された3人の少女達は、文字通り口を揃えて歯に衣着せぬ問い掛けをした後、同時に犬の様に首を同じ方向に傾げる。

「ふっ…戦マキナの中でも開発時期が最も遅かった『共鳴特異・量産型【有左アリサ】』達をもう育成容器から出したのですか…それと、中尉、これからの時代において女性を軽視する様な発言は控えた方が身のためですよ。」
何かを思い出し思わず笑ってしまったユキノが提言する。

「異邦の目新しい技術をちらつかせて、御三家の各家に寄生した魔女達が調子に乗るなよ…」
更に悪態をついた影盛は、軍服の内ポケットからウィスキーが入ったスキットルを取り出し一口飲む。

そのタイミングで、有左アリサ達はベルトで肩に掛けていた7.7mm口径の短式少銃ライフル『アリサ式M型短式少銃』を下ろし…銃口に両手を起き、休めの姿勢を取る。

「私達のオリジナルがもたらした蒸留技術を元に開発した、国産初のウィスキー『平揚羽ひらあげは』は影盛様の欲と平家の懐も潤しております。」
一番左に立つ有左アリサが機械的に余計な捕捉説明する。

「寄生とは失礼な物言いじゃないですか…相利共生に該当するのでは?」
そう反論したユキノが僅かに口角を上げる。
「ぬかすな、片利共生の間違いだろ…それよりも、卜部レイの件について答えて欲しい。」
影盛が話題を本筋に戻す。

「あぁ…それは、戦マキナ達の設定年齢に近い、一般のベッコウ師の少女と雷クモの討伐数を競わせて実戦におけるデータを得る事が目的ですよ。」
考えを述べたユキノは珈琲を一口飲む。

「ふん、藤原家の現当主に気に入られているからってあまり勝手な事をするなよ…カラスについばまれるぞ…」
一回り年下の口の上手い女性のユキノへ対して、影盛は更に嫌味を告げる。

「それはお互い様だと思いますよ、影盛中尉もあまり横暴な態度を取らない方が良いですよ。」
またしても不敵な笑みを見せたユキノを横目に、影盛は立ち上がる。
「用件は以上だ、失礼する。」
そう短く別れを告げた影盛が踵を返し、事務室を後にする。

その後に続く有左アリサたちが、再び振り返り同じく戦マキナの桜を見つめる。
見つめられた桜は思わず首を傾げる。

そして、桜に合わせるように首を傾げた有左たちは、軽く手を振って別れを伝える。
それに対して桜が手を振って応えていると、影盛が有左たちに早く付いて来る様に急かし…唐突な来客達が去っていく。
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