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賭けに負けた
しおりを挟むカチャ カチャ コトッ
遅い朝食の準備をしているメイドをベッドから薄目で見ていた。
昨夜は閣下に処女を奪われ、今朝も閣下に盛られてしまった。
「ミーナ様、いい加減に諦めて出てきてください。朝食をご用意していますから」
「か、閣下は?」
「お客様の対応をなさっています」
毛布から顔を出した。
「賭けは私どもの勝ちですね」
「まあ!隠れるドレスを選ばなくては」
「2つとも使われたのですね。空き瓶は回収いたします」
「それ、なんなの?閣下の痛み止めじゃなかったの?私が飲まされたんだけど」
「1つは乙女との初夜が円滑になるようにするためのものです」
だから痛くなかったのね…
「大公閣下はそんなものを常備しているの?」
「過去に ご主人様の代で購入したことはございません」
「じゃあ何であるの」
「それはミーナ様がいらしたからです」
「いやいや、私は大公国の何処かでひっそりと暮らすつもりで、」
「ミーナ様のお住まいは大公宮だと指示が出ております」
何万歩も譲って話を進めてみよう。
「もう1本は何?」
「こちらは避妊薬です」
なるほど。閣下も男だものね。一応女の私が側にいたらムラムラして発散させたくなるものね。
でもこの世界って…
「何も私なんかで発散しなくても、閣下のお相手をしたいと手を挙げる人はたくさんいるんじゃない?」
「何を仰いますか!ご主人様の耳に入ったらとんでもないことになります!」
「そうですわ!ご主人様は性欲の捌け口にミーナ様に触れる方ではございません!」
「何かご不満なことがございましたか!?」
「だって、ソレを同意なく飲ませるということは、そういうことじゃないの?」
「まあ!ミーナ様はご主人様のお子が欲しかったのですね!」
「もう少し待っていただかないと婚外子になってしまいます」
「どうしましょう。ミーナ様のお望みをご主人様がお知りになったら籠もられるかもしれませんわ!お支度をしなくては」
「待って待って!何だか嫌な予感がする。
私は妊娠したいなんて言っていないの。
いきなりこんなことになっておかしいって言っているの」
「まあ。どうしましょう。ミーナ様が鈍い」
「あれだけご主人様からの寵愛をいただいておいて無かったことに? ご主人様がお可哀想…グスン」
「もしかして、国が違うと愛情表現も違うのかもしれませんわね」
はぁ…。大公閣下は皇帝の弟だよ?私なんか好きになるはずがないじゃない。
「部屋を移して」
「駄目です。賭けは私どもの勝ちです」
「閣下が喜んだとは限らないわ」
「喜んだから初夜になったのです!私どもの勝ちです!」
「「そうです!」」
何でそんなに強く言うの。
「私が負けたの?」
「「「 はい 」」」
「つまり?」
「私どもからの要求はこのままご主人様のお部屋に住んで仲良くしてくださることです」
「そんなことを私達が決められないわ。閣下のお部屋よ!?」
「では、後で確認をいたしましょう」
はぁ。
昼食も部屋食になった。
はじめての後だから。しかも2回戦分。
「何で2人分?」
「ご主人様がご一緒に召し上がります」
「そ、そう」
待っていると閣下が現れた。
美しい顔立ちに神々しい金の瞳が微笑む。
「ミーナ。身体は大丈夫か?」
「ま、まあそれなりに。
ところで、私の居候部屋は何処でしょう。というか、大公国の町の何処かで平民として普通の生活を送ろうと思っていたのですが。お金はありますので、不動産屋を紹介していただければ」
「何だそれは」
「空き家や土地を仲介する職種です」
「ミーナは此処で暮らすから問題無い。城外は危険だし虫も付く」
「そんなに恐ろしい虫が生息しているのですか?」
「種を植え付けようとする虫がな」
ヒトクイバエとか?
「殺虫剤とか虫除けとか」
「それが俺だ」
「それは頼もしいですけど、大公閣下に虫の駆除係などさせられませんから。男の人を募集して、」
「ミーナ」
ビクッ!
低い一声が部屋の空気さえも制圧した。
「閣下?」
「俺を弄んだのか?」
「はい!?」
「弄んだのだな?」
「そんなことは…ありません」
「ならば他の男を頼るな」
「ですが、閣下には虫退治なんて、」
「ミーナはこの部屋で暮らすんだ。他の男に頼ってはいけない。そしてグリフィスと呼ぶんだ。いいな?」
「え?この部屋は…」
「ミーナ」
「は…い、閣下」
「グリフィスだ」
「グリフィス様」
「さあ 食べるぞ。切ってやるからな」
「……」
食事が終わり、閣下が退室するとソファに寝転んだ。
「約束通り、この部屋でご主人様と仲良くしてくださいね」
「ミーナ様、ご主人様の仰る虫とはミーナ様に言い寄る殿方のことですわ」
「言い寄られたことなんかないのに…」
「ミーナ様、ご主人様はかなり独占欲が強い方のようですから、くれぐれも他の殿方と心を通わせて屍を作らないようにお願いしますね」
「もっと身の回りの物を買い揃えなくてはなりませんね」
「暴君だ~!」
「ミ、ミーナ様っ」
「さっきの何!? あの怖いの!」
「そりゃ…」
「弄ぶって何!名前呼んだだけじゃない!この国は名前を呼ぶと手籠に遭うの!?」
「ミーナ様、ご主人様はミーナ様に名を呼んでもらえて嬉しかったのです」
「嬉しいなら嬉しいで終わらせればいいじゃない。何であんなことになるのよ」
「まさか…ご主人様との夜はご不満でしたか!?」
「私どもには分からない特異な趣向があったとか」
「お早いとか?」
「ちょっと、不敬よ」
「だって、原因をはっきりさせないとご主人様との関係が円滑にならないもの」
その後は、メイド3人の話はどんどん酷いものになっていき、このまま何も知らずに聞いた人は その話を信じるのだろうなと恐ろしくなった。
“お早い” “粗○ン” “ねちっこい” “M” “幼児がえり”
“屋外プレイ” “バテた魚(元の世界の言葉に訳すとマグロ)” “単に下手”などなどメイド達の口から次々と出てくるのだ。
全て私は否定している。
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「ミーナ様?」
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