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必殺技
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私は余計な一言で自分の首を絞めるタイプらしい。
「ミーナ様、お疲れ様でした」
「隣の領地、近いんだよね?回っちゃおうか」
「隣は予定に無く、帰還日程がずれてしまいます」
「お金ならあるよ?」
「大公閣下が迎えに来てしまいます」
「まさか。行こう行こう」
隣の領地へ向かい、領境で祈りを捧げに来たと告げると領主のおもてなしが始まり、この領地だけで2泊3日もしてしまった。
「同じ道を通って帰っても無駄じゃない?あっちから帰ろうよ」
「ですが、」
「効率効率。また来ることを考えたら同じ道を通るのは効率悪いよ?」
別の道で帰るので、また違う領地に入り歓迎され、そんなことを繰り返し、2泊3日の予定が2週間になろうとしていた。
「ミーナ!」
聞き慣れた声に全員の顔色が悪くなる。
「ねえ、フィア。幻聴かな」
「私は幻覚まで見えます」
「マジで?」
「マジです」
私の言葉を真似るフィアは専属護衛騎士。
女性だ。
最初に専属護衛騎士を決める時に、閣下が“この2人は俺が信頼している騎士だ。主人の女に手を出したりしない”
それに私はつい、“私が手を出すかもしれないじゃないですか”と言ってしまい、1ヶ月の謹慎を言い渡され、その間、抱き潰され続けた。
その間、閣下は女性騎士の精鋭を選出。しかも帝国からも融通してもらい、女性騎士5人で周囲を固められた。
もちろん遠出には彼女達の他に男の騎士も護衛に就く。
「隠れる場所ない?」
「見通しの良すぎる平原ですよ?穴を掘っても 掘ってる姿が丸見えで、覗かれて見つかります」
「怒られるやつ?」
「ご名答です」
「じゃあ、必殺技使うね」
「よろしくお願いします」
そんな話をしているうちに、馬で追いかけてきたグリフィス大公閣下率いる一団に追いつかれた。
「ミーナ!」
「あ、グリフィス様」
閣下は馬から降りて、馬車から顔を出している私に近寄った。
「何でこんなところまで来ているんだ!」
「せっかくだからこっちに来てみました」
「予定通りに行動しないと駄目だろう!」
「だって、美味しい食事が食べたいからいっぱい祈らないと」
「だからって!」
「でも寂しかった」
「っ!」
「私は会えて嬉しいのにグリフィス様は嬉しくないのですか?」
「う、嬉しいに決まっている」
「お馬さんを預けてこっちに来てください」
「いや、」
「もう飽きたのですか?」
バタン
閣下は手綱を部下に渡して馬車に乗り込んだ。
「真っ直ぐ帰るぞ。出発」
閣下は外の騎士達に告げ、馬車が進むと窓を閉めてカーテンも閉めた。
馬車の中で交わり、途中の宿で交わり、翌日もまた馬車の中で交わり大公宮に到着し、部屋に軟禁された。
メイド達は苦笑いをしていた。
大公国の領地を巡って祈りを捧げたいと言い出したのは私。何故なら私は量より質派だからだ。
前は“大地の盃”に祈れば国内中に効果があった。だがアルネージュ大公国では盃は無く、足を使うしかなかった。
本当は“大地の盃”なんて信じていなかった。光る玩具化程度に捉えていた。誰も見ていないときに持ち上げて裏とか見ちゃった。落とさなくて良かった。
渋々許可を出してくれて、出掛けてみたら大延長。
閣下が鬼の形相で捕まえに来たのだ。まるで野良猫の生き様を思い出した飼い猫が、飼い主に首根っこ掴まれてゲージに戻された気分になっていた。
数日後。
「ミーナ。兄上に待望の皇子が産まれたんだ。祝いに行くからミーナも連れて行く」
「私も?」
「置いて行くなど考えられない。不在の間が心配で仕方ない。何故かミーナの側に人を付けると ミーナの味方をしてしまう。この間の祈りの旅で痛いほど分かった。俺がいなくなったら勝手に祈りの旅に出て行くのだろう?」
流石、よくご存知で。
「そんなことはないです。グリフィス様の脱いだシャツの匂いを嗅いで待っています、あっ」
チュン、チュチュン
「起きたか」
「……抱っこしてください」
「連れて行くからな」
チッ
じゃあ 何でエッチしたの!
閣下がお仕事に向かい、私の世話をするメイド達に疑問と不満を口にした。
「それは愛らしいことを仰るから ご主人様が愛してしまうのです。ミーナ様と夜を過ごして離れたくないと確信なさったのでしょう」
「帝国やだ。なんか面倒臭そう。ここで皆の顔を見て過ごしていた方が幸せだもん」
「ミーナ様っ」
「私達も幸せです」
「大好きです、ミーナ様」
よし。3人の次の誕生日は奮発しよう。
結局、辛さしかない馬車に揺られて帝国の王城に到着した。不機嫌しかない私の顔を見飽きただろうと思ったのに、閣下はご満悦。ある意味 強者?心臓に毛が生えてる?空気読めない?どれかな。
出発からエンドレスな馬車ガイド閣下の降臨で、馬車別にすれば良かったと呟けば、護衛騎士に“叶いません”と小さな声で返事をされた。
うわぁ…すごく歓迎されてる。
城門から兵士達が剣を持って並んでるよ。ひっそりひっそり忍び込むみたいに滞在して、部屋食にして挨拶して帰るっていうのが理想なんだけど。
門から遠いなぁ。門番の人、トイレが近い人だと無理だろうし我慢すると膀胱炎になっちゃうし。近くにトイレないよね?漏れずに数回分吸収する大人用オムツなんてないだろうし。コンパクト尿瓶が草陰に置いてあるのかもしれない。女の人は無理ね。
そんなくだらないことを考えていても まだ着かない。
「ミーナ。そろそろ機嫌を直してくれ」
「なんだ…正常だったのですね」
「え?」
「はぁ~ ゴロゴロしたい。5日間くらいゴロゴロしたいです」
「お誘いか」
「違います。全く違います」
「ミーナ様、お疲れ様でした」
「隣の領地、近いんだよね?回っちゃおうか」
「隣は予定に無く、帰還日程がずれてしまいます」
「お金ならあるよ?」
「大公閣下が迎えに来てしまいます」
「まさか。行こう行こう」
隣の領地へ向かい、領境で祈りを捧げに来たと告げると領主のおもてなしが始まり、この領地だけで2泊3日もしてしまった。
「同じ道を通って帰っても無駄じゃない?あっちから帰ろうよ」
「ですが、」
「効率効率。また来ることを考えたら同じ道を通るのは効率悪いよ?」
別の道で帰るので、また違う領地に入り歓迎され、そんなことを繰り返し、2泊3日の予定が2週間になろうとしていた。
「ミーナ!」
聞き慣れた声に全員の顔色が悪くなる。
「ねえ、フィア。幻聴かな」
「私は幻覚まで見えます」
「マジで?」
「マジです」
私の言葉を真似るフィアは専属護衛騎士。
女性だ。
最初に専属護衛騎士を決める時に、閣下が“この2人は俺が信頼している騎士だ。主人の女に手を出したりしない”
それに私はつい、“私が手を出すかもしれないじゃないですか”と言ってしまい、1ヶ月の謹慎を言い渡され、その間、抱き潰され続けた。
その間、閣下は女性騎士の精鋭を選出。しかも帝国からも融通してもらい、女性騎士5人で周囲を固められた。
もちろん遠出には彼女達の他に男の騎士も護衛に就く。
「隠れる場所ない?」
「見通しの良すぎる平原ですよ?穴を掘っても 掘ってる姿が丸見えで、覗かれて見つかります」
「怒られるやつ?」
「ご名答です」
「じゃあ、必殺技使うね」
「よろしくお願いします」
そんな話をしているうちに、馬で追いかけてきたグリフィス大公閣下率いる一団に追いつかれた。
「ミーナ!」
「あ、グリフィス様」
閣下は馬から降りて、馬車から顔を出している私に近寄った。
「何でこんなところまで来ているんだ!」
「せっかくだからこっちに来てみました」
「予定通りに行動しないと駄目だろう!」
「だって、美味しい食事が食べたいからいっぱい祈らないと」
「だからって!」
「でも寂しかった」
「っ!」
「私は会えて嬉しいのにグリフィス様は嬉しくないのですか?」
「う、嬉しいに決まっている」
「お馬さんを預けてこっちに来てください」
「いや、」
「もう飽きたのですか?」
バタン
閣下は手綱を部下に渡して馬車に乗り込んだ。
「真っ直ぐ帰るぞ。出発」
閣下は外の騎士達に告げ、馬車が進むと窓を閉めてカーテンも閉めた。
馬車の中で交わり、途中の宿で交わり、翌日もまた馬車の中で交わり大公宮に到着し、部屋に軟禁された。
メイド達は苦笑いをしていた。
大公国の領地を巡って祈りを捧げたいと言い出したのは私。何故なら私は量より質派だからだ。
前は“大地の盃”に祈れば国内中に効果があった。だがアルネージュ大公国では盃は無く、足を使うしかなかった。
本当は“大地の盃”なんて信じていなかった。光る玩具化程度に捉えていた。誰も見ていないときに持ち上げて裏とか見ちゃった。落とさなくて良かった。
渋々許可を出してくれて、出掛けてみたら大延長。
閣下が鬼の形相で捕まえに来たのだ。まるで野良猫の生き様を思い出した飼い猫が、飼い主に首根っこ掴まれてゲージに戻された気分になっていた。
数日後。
「ミーナ。兄上に待望の皇子が産まれたんだ。祝いに行くからミーナも連れて行く」
「私も?」
「置いて行くなど考えられない。不在の間が心配で仕方ない。何故かミーナの側に人を付けると ミーナの味方をしてしまう。この間の祈りの旅で痛いほど分かった。俺がいなくなったら勝手に祈りの旅に出て行くのだろう?」
流石、よくご存知で。
「そんなことはないです。グリフィス様の脱いだシャツの匂いを嗅いで待っています、あっ」
チュン、チュチュン
「起きたか」
「……抱っこしてください」
「連れて行くからな」
チッ
じゃあ 何でエッチしたの!
閣下がお仕事に向かい、私の世話をするメイド達に疑問と不満を口にした。
「それは愛らしいことを仰るから ご主人様が愛してしまうのです。ミーナ様と夜を過ごして離れたくないと確信なさったのでしょう」
「帝国やだ。なんか面倒臭そう。ここで皆の顔を見て過ごしていた方が幸せだもん」
「ミーナ様っ」
「私達も幸せです」
「大好きです、ミーナ様」
よし。3人の次の誕生日は奮発しよう。
結局、辛さしかない馬車に揺られて帝国の王城に到着した。不機嫌しかない私の顔を見飽きただろうと思ったのに、閣下はご満悦。ある意味 強者?心臓に毛が生えてる?空気読めない?どれかな。
出発からエンドレスな馬車ガイド閣下の降臨で、馬車別にすれば良かったと呟けば、護衛騎士に“叶いません”と小さな声で返事をされた。
うわぁ…すごく歓迎されてる。
城門から兵士達が剣を持って並んでるよ。ひっそりひっそり忍び込むみたいに滞在して、部屋食にして挨拶して帰るっていうのが理想なんだけど。
門から遠いなぁ。門番の人、トイレが近い人だと無理だろうし我慢すると膀胱炎になっちゃうし。近くにトイレないよね?漏れずに数回分吸収する大人用オムツなんてないだろうし。コンパクト尿瓶が草陰に置いてあるのかもしれない。女の人は無理ね。
そんなくだらないことを考えていても まだ着かない。
「ミーナ。そろそろ機嫌を直してくれ」
「なんだ…正常だったのですね」
「え?」
「はぁ~ ゴロゴロしたい。5日間くらいゴロゴロしたいです」
「お誘いか」
「違います。全く違います」
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