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守るべき者
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【 リヴウェルの視点 】
騎士を夢見てきた俺には父上の言葉はショックだった。
俺は小説の中の正義の塊のような騎士を夢見ていた。
帰ると屋敷は昨日よりもまた華やいでいた。
母上が元気になるだけでこんなにも違うのか。
母上は兄にアリスとの会話を報告しているようだ。
「それでね、アリスちゃんがね…
あらお帰り、リヴウェル」
「ただいま帰りました。令嬢が来ていたのですね?
どうして会わせてもらえないのですか」
「アリスちゃんが嫌がるの」
「何故です」
「息子狙いかと思って2人には婚約者がいるって最初に言っちゃったの。で、アリスちゃんもそんなつもりはないって。自分も婚約者がいるしって。
余計なことを言ったわ。頑なに拒むのよ」
「リヴウェルと同じ歳でしたっけ」
「大分大人びていて令嬢の皮を被っているけどね」
夕食後に兄上の部屋へ行って話をした。
「まあ、そうだな。騎士もあくまでも職業。すべき義務や守秘義務に大きく縛られる。
正義の騎士でいる気なら止めろ。金をもらう時点で雇用された使用人だ。扱う物は剣だというだけ。命をかけるから敬われる。
だからといって他の職業もそれぞれ敬われて然るべきだ。皆がいなければ私達など雑草だ。
まともな食事も作れないし、シミひとつ綺麗にできない。商人のように目利きでもない。農家のように農作物を育てられない。花さえ売り物になるように育てられない。お前の座るソファも作れないし、眠るベッドも作れない。鍋も金槌も鍬も釘も作れない。服も靴も作れない。人の怪我や病気も治せない。木製の桶だって水漏れさせることのない物を作れない。ブラシも作れない。出来ないことの方が多い。
騎士は命をかけて人を守っている。
だが、人の命を守っている人はものすごく多い。
例えば釘を作っている職人だって人の生活を助けているんだ。家だけで何本の釘が使われていることか。階段を登る時、釘で板が固定されていなければ、ズレて転落するかもしれない。
農家だって、人の命を救い育てている。食べ物が無ければ生きられない。
当たり前に飲んでいる水はどうやって汲んでいると思う。井戸ならばかなり深く掘って壁を固めなくてはならない。石を使うなら石切職人が崩落を防いでいるし、滑車やロープ、バケツも無くてはならない。そうやって生きる上で大切な水が目の前に置かれるんだ。
全ての職業を敬うべきではないか?」
「はい」
「私は主人がしでかしたことに口を噤めないと思ったから騎士は目指さなかった。寧ろ主人を斬り殺しそうだからな」
「兄上…」
「まずは私達がアリス嬢を守らないか?」
「守る?」
「そうだ。私達にとって唯一無二の母上を守ってくれた子を守ろう。
まだ18になるまで長い。その間に心を決めろ。
父上には、先ずはアリス嬢を守らせてください、その後で騎士について答えを出させてくださいと言えばいい。
そしてこういう手もある。
王宮騎士に拘らず、お前が信頼して守りたくなる主人を探して仕えるという手だ」
兄上の助言で心が軽くなったのはいいけど……。
肝心の令嬢に会えなかった。
「母上、まだ会わせてもらえないのですか」
「頑なに拒むのよ」
「私も駄目なのか」
「旦那様が会ったらリヴウェルも会うことになるわ」
「あれ?兄上は静かですね」
「私は偶然挨拶ができたよ」
「「 は? 」」
「母上には友人のような娘、私にとっては妹だな。
あんな子が本当に妹だったらなぁ。嫁になんて出さないで愛でるのに」
「そうよねぇ~、楽しいもの。
はぁ、学園が始まったらあまり会えないわね」
「よし、迎えに行って夕食を一緒に食べましょう」
「そうね!
あ、でも断られるかも」
「学校が始まればリヴウェルも知り合うのでは?」
「リヴウェルや貴方の婚約者が嫌な思いをすると言って会おうとしないのに夕食を皆で食べるかしら。
食べないわね。ならアリスちゃんが来た時は私はあの子とサロンで食べるわ」
「母上、ずるいですよ」
「「……」」
「リヴウェル、そのうちリリスが王都に来るからお相手してあげなさい」
「はい、母上」
リリスは幼馴染の分家の子爵令嬢だ。俺の婿入り先となる。
彼女は内気な子で、社交が苦手だ。
予定では王立学園ではなく、淑女を育てる女学校に通うと聞いた。
だから侯爵令嬢がそこまで気にすることはないと思うが、結局私は恩人と話せないまま入学することになる。
騎士を夢見てきた俺には父上の言葉はショックだった。
俺は小説の中の正義の塊のような騎士を夢見ていた。
帰ると屋敷は昨日よりもまた華やいでいた。
母上が元気になるだけでこんなにも違うのか。
母上は兄にアリスとの会話を報告しているようだ。
「それでね、アリスちゃんがね…
あらお帰り、リヴウェル」
「ただいま帰りました。令嬢が来ていたのですね?
どうして会わせてもらえないのですか」
「アリスちゃんが嫌がるの」
「何故です」
「息子狙いかと思って2人には婚約者がいるって最初に言っちゃったの。で、アリスちゃんもそんなつもりはないって。自分も婚約者がいるしって。
余計なことを言ったわ。頑なに拒むのよ」
「リヴウェルと同じ歳でしたっけ」
「大分大人びていて令嬢の皮を被っているけどね」
夕食後に兄上の部屋へ行って話をした。
「まあ、そうだな。騎士もあくまでも職業。すべき義務や守秘義務に大きく縛られる。
正義の騎士でいる気なら止めろ。金をもらう時点で雇用された使用人だ。扱う物は剣だというだけ。命をかけるから敬われる。
だからといって他の職業もそれぞれ敬われて然るべきだ。皆がいなければ私達など雑草だ。
まともな食事も作れないし、シミひとつ綺麗にできない。商人のように目利きでもない。農家のように農作物を育てられない。花さえ売り物になるように育てられない。お前の座るソファも作れないし、眠るベッドも作れない。鍋も金槌も鍬も釘も作れない。服も靴も作れない。人の怪我や病気も治せない。木製の桶だって水漏れさせることのない物を作れない。ブラシも作れない。出来ないことの方が多い。
騎士は命をかけて人を守っている。
だが、人の命を守っている人はものすごく多い。
例えば釘を作っている職人だって人の生活を助けているんだ。家だけで何本の釘が使われていることか。階段を登る時、釘で板が固定されていなければ、ズレて転落するかもしれない。
農家だって、人の命を救い育てている。食べ物が無ければ生きられない。
当たり前に飲んでいる水はどうやって汲んでいると思う。井戸ならばかなり深く掘って壁を固めなくてはならない。石を使うなら石切職人が崩落を防いでいるし、滑車やロープ、バケツも無くてはならない。そうやって生きる上で大切な水が目の前に置かれるんだ。
全ての職業を敬うべきではないか?」
「はい」
「私は主人がしでかしたことに口を噤めないと思ったから騎士は目指さなかった。寧ろ主人を斬り殺しそうだからな」
「兄上…」
「まずは私達がアリス嬢を守らないか?」
「守る?」
「そうだ。私達にとって唯一無二の母上を守ってくれた子を守ろう。
まだ18になるまで長い。その間に心を決めろ。
父上には、先ずはアリス嬢を守らせてください、その後で騎士について答えを出させてくださいと言えばいい。
そしてこういう手もある。
王宮騎士に拘らず、お前が信頼して守りたくなる主人を探して仕えるという手だ」
兄上の助言で心が軽くなったのはいいけど……。
肝心の令嬢に会えなかった。
「母上、まだ会わせてもらえないのですか」
「頑なに拒むのよ」
「私も駄目なのか」
「旦那様が会ったらリヴウェルも会うことになるわ」
「あれ?兄上は静かですね」
「私は偶然挨拶ができたよ」
「「 は? 」」
「母上には友人のような娘、私にとっては妹だな。
あんな子が本当に妹だったらなぁ。嫁になんて出さないで愛でるのに」
「そうよねぇ~、楽しいもの。
はぁ、学園が始まったらあまり会えないわね」
「よし、迎えに行って夕食を一緒に食べましょう」
「そうね!
あ、でも断られるかも」
「学校が始まればリヴウェルも知り合うのでは?」
「リヴウェルや貴方の婚約者が嫌な思いをすると言って会おうとしないのに夕食を皆で食べるかしら。
食べないわね。ならアリスちゃんが来た時は私はあの子とサロンで食べるわ」
「母上、ずるいですよ」
「「……」」
「リヴウェル、そのうちリリスが王都に来るからお相手してあげなさい」
「はい、母上」
リリスは幼馴染の分家の子爵令嬢だ。俺の婿入り先となる。
彼女は内気な子で、社交が苦手だ。
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