【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

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エリアーナ夫人

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午後は、これまでジオニトロ家が贔屓にしていたドレス店でデザイナーと対峙している。

「今までのことは忘れてください。
義母のように豪華なドレスはもう作りません」

そう言うとあからさまに態度が悪くなった。

「ですがお嬢様にはドレスのことはお分かりにならないのでは?今までのようにお任せくださる方がお嬢様の為です」

「本気?あの野暮ったいドレスが貴女の最善なの?」

「メイベル様やスーザン様が購入していたようなドレスがよろしいですわ」

「華美なドレスじゃないと作りたくないと?」

「ですから 今までと同じように、」

「もう結構よ」

「お嬢様?」

「義母は領地に引っ込んで社交はほぼ禁じたの。
それにジオニトロの実権を握ったのは私よ。
つまり、義母もスーザンも注文できないの。
貴女は私を馬鹿にしているし、これ以上は結構よ。
今後呼び出すことはないから安心なさって」

「お待ちください、お嬢様!」

「さようなら」




そして別の店に来てみた。

先客があれこれドレスを持って来させていた。

「違うわ!何か違うのよ」

「えっと、色ですか?デザインですか?」

「私に似合うドレスはないの!?」

う~ん、時間かかりそうだから他の店に行こうかな。

「ローリー、行きましょう」

「はい、アリス様」

帰ろうとした時に奥の部屋の扉が開いていて、未展示のドレスが見えた。そこでお節介をしてしまった。

「あの~。あれがいいんじゃありませんか」

令嬢と店員が一斉に私を見た。

こ、怖い!

店員が小走りに近寄り

「どこ!どこですか!どこにありますか!」

と私に縋る。

「アレです」

「あ!」

慌てて奥の部屋からドレスを持ってくると令嬢の胸元に合わせた。

「これ!これよ!」

退散しようとすると呼び止められた。

「お待ちなさい。そこのレディ」

ピタッ

「もしかして私のことですか」

「他にいないじゃないの。こっちへ来なさい」

仕方なく近寄ると美しい方だった。

「あと2着選んで」

「えっ?」

「貴女があと2着選ぶの!」

「は、はい」

何で私がと思うが美形の令嬢の圧に負けて選ぶことになった。隅々までドレスを見て、さっきの奥の部屋も見せてもらった。

選んだ2つを持っていくと、

「何故コレ?」

「似合うと思ったからです」

「ヒラヒラしたのは似合わないと思うのだけど」

「髪型と化粧次第です」

「貴女はドレスを買いに?」

「デザインを相談してオーダーしようかと」

「ちょっと、この子の採寸を急いで」

「かしこまりました」

「えっ!?」

「お嬢様、どうぞこちらへ」

店員さんがすごい笑顔だわ。


採寸中は、

「ありがとうございます」

「命の恩人です」

と感謝され、令嬢のところに戻された。

生贄なのね、私。

「さあ、いらっしゃっい。どんなデザインにするのかしら?」

デザイナーらしき人と令嬢がテーブルから手招きしていた。

紙とペンを貸してもらい、簡単に描いて見せた。

「ミランダさん。私は極力窮屈なドレスは嫌です。
私は私の着たいドレスを着るつもりです。
ですので礼儀や規定に引っかかる場合だけ指摘してください」

「かしこまりました」

「あまりフリルとかリボンとか多用したくありません。シンプルで美しく品良くです」

「何もないのは…」

「ありますよ。フリルもリボンも全く付けないわけではありません。その代わり、レース、刺繍、ビーズを使います。

それらはデザインによっては逆に高価なものになります。ビーズとはいえ、クオリティの高いものなら尚更です」

「あの、Vラインが深いようですが」

「しっかりしたレースを胸元に入れますから大丈夫です」

布や色なども細かく決めてまとまった。

「ねえ、これはもしかしてデビュータントのドレス?」

「はい」

「私はエリアーナ・ノッティング。貴女は?」

逆ハーのメンバー、ブレイルの兄の妻!?

「アリス・ジオニトロと申します」

「あら…そう」

何ですか、その反応は!

「ジオニトロ様、デザイン画を描きますので確認をしていただいた後に製作にとりかかりたいと思います。いつ頃お屋敷にお伺いすれば、」

「ノッティング邸に来て」

「「え!?」」

「いつ描き終わるの?」

「描き直すだけですので本日描いてしまいます」

「明日の午後一番にノッティング邸に来てちょうだい。その後、別のドレスの話し合いをするから2時間滞在してちょうだい。
アリスは11時よ」

「えぇ!?」

「嫌なの?」

「う、伺います」

「お腹空かせて来なさいよ」

「は、はい」

強引なお姉様に見張られながら、既製品のワンピースドレスなども購入した。


帰るともう夕刻だ。

王子妃教育から帰って来たスーザンが泣いていた。

「何であんなに厳しいの!」

「そりゃ、妃となって高貴な方々のお相手をするのだから礼儀も知識も最高域でないと」

「そんなっ」

「貴女ねぇ、妃がどれだけお金を使うか分かる?
衣食住は最高級で仕える人達はそれはもう優秀なの。つまりすごくお金が掛かっているの。
何もしない女に出すわけないでしょう。見返りに公務と跡継ぎを産む義務があるのよ」

「でも、外国語も、」

「外国にも公務に行くし、来国なさる高貴なお方もいらっしゃるから当然よね。全ての国の言語と言っているわけではないのだから頑張りなさい」

「難しさが分からないから姉様は、」

「バカね。分かるから王子妃なんか嫌なんじゃない。貴女とメイベル様が言っていたでしょう?
“アリスには王子妃は無理だ”って。
その通りよ。だから私は婿を取ることになって、貴女は嬉々と王子妃選抜に参加したんじゃないの」

「!!」

「泣いていても明日、貴女の顔が浮腫むだけ。
方法は死にかけるほど勉強するか、王子妃を諦めるかよ」

「ううっ」

「好きになさい。王子妃を辞めるなら貴女が跡取りになって婿を迎えてね。私は屋敷を出ていくから」

「お姉様!」
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