【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

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現実の騎士

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【 リヴウェルの視点 】


父上と一緒に登城して騎士団の育成所で基礎訓練をさせてもらっている。

育成所は既に騎士団の試験に合格した者かスカウトされた者で17歳以下の者が基礎訓練や規則などを学ぶ場だ。騎士になるには18歳に達していないとならない。

だけど育成所で学んで合格していれば18歳になった時点で即戦力として雇ってもらえる。
18歳になってから入団試験を受けたり、育成所で合格をもらえなかった者は、18歳になってから1年間雑用と訓練をしながら正騎士の付き人を務める。

それがかなりハードらしい。そこで辞めていく者がかなりいると聞いていた。

だから俺は子供の頃から剣を習った。育成所合格を機に王都で暮らすようになった。
そこでようやく母上の余命があまりないことを知った。

再会した母上は食欲もあまり無く、飲み込みやすくした食事を気合いで飲み込んでいた。
頭痛に悩まされ、強い痛み止めを使うが乱用はできない。死を待つだけだと告げられた。


ついに母は遺言書を書き始めた時だった。

父「ジオニトロ侯爵令嬢が見舞いに来たい?」

面識はないらしいが相手は侯爵家。母上は仕方なく会うことにした。
その日は皆抜けられない用事があり、父上が執事に監視を頼んでいた。


父上は帰宅すると母上の部屋へ向かった。
そして翌日、入院した。
伯爵令嬢が何かしたのかと思ったが違うらしい。
そして毒殺未遂事件が公になった。


退院すると母上は伯爵令嬢を招いて散歩をしたり話をしたり食事を共にするようになった。
何故か令嬢のメイドが菓子を習いに来ていた。


「ウフフ、それでね、アリスちゃんったら、侯爵様の股間を蹴り上げたんですって」

「令嬢がですか!?」

「しかも 
“今の立ち位置を覚えていてください。お父様は跪いて私にお願いする立場”って啖呵を切ったんですって」

「それはまた…勇ましい子ですね」

「アリスちゃんの専属メイドのローリーが嬉々とその話をするの。アリスちゃんは目が泳いでいたわ」

兄上と快活に話をする母上を見て、ほっとした。
だが、伯爵令嬢との関わりが分からなかった。


そんなある日、母上と父上がこっそり話している部屋の前を通り過ぎたときに聞いてしまった。
毒を盛られていたことを教えてくれたのは伯爵令嬢だと。感謝の品の相談をしていた。


翌日、城に向かう馬車の中で父上に聞いた。
何故内緒にするのかと。

「そういう条件で毒のことを教えてもらえたんだ」

「そもそも縁の無かった伯爵令嬢が何でそんなことを知っているのですか。寧ろ怪しいんじゃ」

「独自にジオニトロ伯爵家もアリス嬢も調査したがシロだった。
アリス嬢は恩人だ。アリス嬢が知っていたことを秘密にする約束をした」

「他にも知っていることがあるかも知れないじゃないですか。公にして聞き出せば、」

「命を助けてくれたアリス嬢を裏切るのか?」

「……」

「この程度の秘密を守れなくては騎士には向かない。
騎士は時に非道なことを求められたり、憤りを飲み込まなくてはならない。不道徳な行為に沈黙を迫られることもある。

何故“お手付き”という言葉が罷り通るか分かるか?
例えば第三王子の母はメイドだった。世間一般で言う強姦だ。勿論陛下の部屋の外には騎士が護衛で立っている。叫び声も物音も聞こえただろう。
王子が生まれているということは騎士が止めなかったということだ。

主人が誰かによって環境が変わってしまう。
もし公平さも誠実さも道徳心も持ち合わせていない主人に当たってしまった時、騎士によっては辞職を選ぶ者もいる。例え近衛になれてもな。
告発をしたとして、正義を褒める者もいるだろう。だが大抵は爪弾きだ。主人を裏切り契約を破った。転職も困難になるだろう。重要なのは秘密を守り主人を護れるかどうかだからだ。

リヴウェル。お前の母を助けてくれた人にさえアレコレ思うのなら、お前には騎士は無理だ。
2、3日で答えを出せ。
教えてくれる先輩騎士達にも迷惑だ」

「……」
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