【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ

文字の大きさ
上 下
10 / 72

現実の騎士

しおりを挟む
【 リヴウェルの視点 】


父上と一緒に登城して騎士団の育成所で基礎訓練をさせてもらっている。

育成所は既に騎士団の試験に合格した者かスカウトされた者で17歳以下の者が基礎訓練や規則などを学ぶ場だ。騎士になるには18歳に達していないとならない。

だけど育成所で学んで合格していれば18歳になった時点で即戦力として雇ってもらえる。
18歳になってから入団試験を受けたり、育成所で合格をもらえなかった者は、18歳になってから1年間雑用と訓練をしながら正騎士の付き人を務める。

それがかなりハードらしい。そこで辞めていく者がかなりいると聞いていた。

だから俺は子供の頃から剣を習った。育成所合格を機に王都で暮らすようになった。
そこでようやく母上の余命があまりないことを知った。

再会した母上は食欲もあまり無く、飲み込みやすくした食事を気合いで飲み込んでいた。
頭痛に悩まされ、強い痛み止めを使うが乱用はできない。死を待つだけだと告げられた。


ついに母は遺言書を書き始めた時だった。

父「ジオニトロ侯爵令嬢が見舞いに来たい?」

面識はないらしいが相手は侯爵家。母上は仕方なく会うことにした。
その日は皆抜けられない用事があり、父上が執事に監視を頼んでいた。


父上は帰宅すると母上の部屋へ向かった。
そして翌日、入院した。
伯爵令嬢が何かしたのかと思ったが違うらしい。
そして毒殺未遂事件が公になった。


退院すると母上は伯爵令嬢を招いて散歩をしたり話をしたり食事を共にするようになった。
何故か令嬢のメイドが菓子を習いに来ていた。


「ウフフ、それでね、アリスちゃんったら、侯爵様の股間を蹴り上げたんですって」

「令嬢がですか!?」

「しかも 
“今の立ち位置を覚えていてください。お父様は跪いて私にお願いする立場”って啖呵を切ったんですって」

「それはまた…勇ましい子ですね」

「アリスちゃんの専属メイドのローリーが嬉々とその話をするの。アリスちゃんは目が泳いでいたわ」

兄上と快活に話をする母上を見て、ほっとした。
だが、伯爵令嬢との関わりが分からなかった。


そんなある日、母上と父上がこっそり話している部屋の前を通り過ぎたときに聞いてしまった。
毒を盛られていたことを教えてくれたのは伯爵令嬢だと。感謝の品の相談をしていた。


翌日、城に向かう馬車の中で父上に聞いた。
何故内緒にするのかと。

「そういう条件で毒のことを教えてもらえたんだ」

「そもそも縁の無かった伯爵令嬢が何でそんなことを知っているのですか。寧ろ怪しいんじゃ」

「独自にジオニトロ伯爵家もアリス嬢も調査したがシロだった。
アリス嬢は恩人だ。アリス嬢が知っていたことを秘密にする約束をした」

「他にも知っていることがあるかも知れないじゃないですか。公にして聞き出せば、」

「命を助けてくれたアリス嬢を裏切るのか?」

「……」

「この程度の秘密を守れなくては騎士には向かない。
騎士は時に非道なことを求められたり、憤りを飲み込まなくてはならない。不道徳な行為に沈黙を迫られることもある。

何故“お手付き”という言葉が罷り通るか分かるか?
例えば第三王子の母はメイドだった。世間一般で言う強姦だ。勿論陛下の部屋の外には騎士が護衛で立っている。叫び声も物音も聞こえただろう。
王子が生まれているということは騎士が止めなかったということだ。

主人が誰かによって環境が変わってしまう。
もし公平さも誠実さも道徳心も持ち合わせていない主人に当たってしまった時、騎士によっては辞職を選ぶ者もいる。例え近衛になれてもな。
告発をしたとして、正義を褒める者もいるだろう。だが大抵は爪弾きだ。主人を裏切り契約を破った。転職も困難になるだろう。重要なのは秘密を守り主人を護れるかどうかだからだ。

リヴウェル。お前の母を助けてくれた人にさえアレコレ思うのなら、お前には騎士は無理だ。
2、3日で答えを出せ。
教えてくれる先輩騎士達にも迷惑だ」

「……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花
恋愛
 公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。  彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。  その『誰か』とはマーセルという少女だ。  マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。  いつに間にか二人は入れ替わっていた!  空いている教室で互いのことを確認し合うことに。 「貴女、マーセルね?」 「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」  婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?  そしてなぜ二人が入れ替わったのか?  公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。 ※いじめ描写有り

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?

satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません! ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。 憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。 お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。 しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。 お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。 婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。 そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。 いきなりビックネーム過ぎませんか?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

処理中です...