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遅い朝食をベッドの上で食べているとレオナルドがお願いをしてきた。

「半年、避妊しないか」

「はい?」

「妊娠したらできなくなるし」

「妊娠が目的ですよ?」

「先ずは1週間!頼む!」

「分かりました」



3日後から毎晩抱くようになった。
その中で快楽に導かれてしまった。

その最中、半年間の避妊に承諾してしまった。

レオナルドは閨事を始めた後も私から離れず、領地も一緒に行った。

叔父様は察して夫婦の間に私達を案内して子供達を近付かせないようにした。

理由を察することができないシビルとケビンは文句を言っていた。



半年後から避妊を止めると直ぐに妊娠した。
そして産まれたのは私に似た女の子で瞳の色はレオナルドと同じだった。

レオナルドはクリステルを抱っこしながら私から離れない。おかげで有名な夫婦になった。

「クリステルは嫁にやらない」

「何でよ。ヘイデンうちなら申し分ないでしょう」

ロクサーヌが自分の息子とクリステルを婚約させようと打診をしたのでレオナルドが拒否した。

「私が可愛がるのよ?クリステルは幸せになれるわ」

「私とリアで幸せにするから大丈夫だ」

結局婚約した。家族ぐるみの交流は持たせても婚約者としてはしないとルールを決めた。子供のうちなら様子を見て解消も検討する約束だ。


さらに3年後、レオナルドに似た私の瞳の特徴を持った男児を産んだ。これで子を産むのはお終いにしたが夜の夫婦の時間は途切れていない。

そして巷では“愛の手枷”という商品が恋人達や恋愛婚の夫妻に密かに買われていた。
太めのブレスレットを鎖で繋いだものだ。それを手枷にして愛を確かめ合うらしい。
私達が使ったのは囚人用の手枷だったけど。


未だに蟠りは消えないけど悪くはないと感じられるようにはなった。

レオナルドはしっかりと思いを伝えてくれる。拗ねていても嬉しそうに微笑む。そして閨事で有耶無耶になる。そんなことの繰り返しでもレオナルドは変わらない。そこには感謝している。

いつか“愛してる”と言える日が来るのだろうか。








【 その後のクリステル 】

クリステルが8歳になると質問をしてくるようになった。

「どうしてお父様達はいつも一緒なのですか?」

「心配だからだよ」

「何のですか?」

「誰かに取られないように警戒しているんだ」

「お母様を?」

「そうだよ」

「お父様とお母様は恋愛結婚だったのですよね」

「私の片思いだったんだ」

「本当ですか!?」

「長く婚約していたけど、その頃はオリヴィアを傷付けてしまった。一度解消したけどもう一度婚約してもらえたんだ」

「お母様は後悔していませんか」

「クリステルとルイが産まれてくれたもの。

もしかして、婚約が嫌なの?」

「なんていうか釣り合わない気がするのです」

「そんなことはないと思うけど、誰かに言われたの?」

「そう感じただけです」

クリステルの不安は私達が思っていたより大きなものだった。


セレスタンが成人を迎える数ヶ月前、クリステルが婚約の解消を希望した。

セ「は?」

ク「私ではセレスタン様の婚約者は務まりません」

セ「意味が分からない」

ク「ずっと感じていたことです。セレスタン様にはもっと相応しい方が近くにおられるではありませんか」

セ「何のことだ」

ク「ローゼン侯爵令嬢やハルンセル伯爵令嬢やボデュア公爵令嬢のことです」

セ「彼女達が?何故相応しいと?」

ク「解消してください」

セ「私が他の女と結婚してもいいというのか」

ク「……はい」

セ「分かった」

両家の親が間に入ったが、本人達の心が既に決まっており解消することになった。

2ヶ月後、セレスタンは婚約者選びを開始したと聞かされた。


一方でヘイデン公爵家では。

「セレスタンが婚約者選びを始めたって教えたのにクリステルの反応が無いのよ」

「嫌なら仕方ないだろう」

「父上、調査を入れてくださいませんか」

「何の」

「具体的な名前が上がるなら、何かあったのかもしれません」

「それで何も出なかったら婚約者候補の中から選ぶんだな?」

「はい」

「分かった」

名の上がった3人のうち2人は婚約者がいたが、解消を知ると釣書を送り付けてきた。
ハルンセル伯爵家は元々婚約者は居らず定期的に釣書を送り付けてきていた。伯爵家はかなりの富豪だった。


調査結果の報告を聞いたアーサーは妻と息子にも伝えた。

「ボデュア嬢からは家格を突かれ、ローゼン嬢からは個人の優劣を突かれ、伯爵令嬢からは財力で突かれていたようだ。
茶会などで顔を合わす度にクリステルを3人で囲んだり、人気のない場所で単独で呼び止めたりしていたようだ。

“母親同士のくだらない口約束でセレスタンが犠牲になっている。解放すべき”と締めくくるらしい」

「小娘のクセに、私とリアとの絆に口出ししたのね」

「それで。セレスタンはどうしたい?」

「うちで茶会を開いてください。夫人同伴で。
そこにその3人と、しつこく求婚してくる別の家門と、オリヴィア様とクリステルを呼んでください。絶対に来るようにさせてください」

「分かった」



そして行われた茶会は、夫人達のテーブルと令嬢達のテーブルを分けた上で自由席にすると、例の3人はクリステルの座るテーブルに出向き、既に座っていた他の令嬢達を退かせ 自分達が座った。
クリステルは浮かない顔になり俯いた。

「身の程を知ったのね」

「遅いのよ。何年かけているのよ」

「本当なら私達はもっと早く婚約者候補に上がっていたはずなのよ?」

「王子が婿入りしたからといって、前当主が追放された家門だという事実は変わらないのよ!図々しいわ」

「うちに比べたら大した財力もないのにどうやってヘイデン公爵家の役に立とうというのよ」

「私より可愛くない子がセレスタン様の隣にいていいはずがないのに」

「……」

セレスタンはそっと忍び寄りメイドの後ろに隠れて、3人の口撃を聞いていた。

「もう解消したのですから、放っておいてくださいませんか」

「生意気なのよ」

「私達がいつ貴女に話しかけようと貴女が拒否できる立場ではないのよ」

「そもそも、何で今日来てるのよ」

「出席するなんて図々しいわ。帰りやすくしてあげる」

公女がクリステルのカップを持ち、クリステルのドレスに茶をかけた。

「熱い!」

「あら、ダメじゃない」

3人がクスクスと笑う中、その上から水をかける者いた。
セレスタンだった。

「まあ、セレスタン様」

「水をかける程、嫌でしたのね」

「みっともないドレスを着替えにお帰りなさい」

「……」

ついに涙が溢れたクリステルは帰ろうと立ち上がった。

「クリステル」

「失礼します」

「クリステル、待て」

「いくら公子でももう他人です。二度と呼ばないでください」

「クリステル!」

セレスタンはクリステルの腰に手を回し引き寄せると口付けをした。
抵抗するクリステルを力で拘束し舌を捩じ込ませた。
クリステルの力が抜けると止めて抱きしめた。

3人は大騒ぎだ。

「ローゼン侯爵令嬢。可愛さに自負しているようだが私の好みではない。自惚れは自邸の中だけにしろ」

「え?」

「ハルンセル嬢、うちは伯爵家から支援を受けなければならない家門ではない。財力なら充分だ。
金があれば何でも思いのままになるなどと下劣な発想は止めろ」

「っ!」

「ボデュア嬢。君は公爵家の令嬢なのに、淹れたての茶が熱いことを知らないようだな。
態と人のカップを手に持ち クリステルにかけて火傷を負わせたな」

「そ、それは、」

「私がクリステルに水をかけたのは応急処置だ。
“みっともないドレス”?このドレスは私と母が選んで贈った物だ。悪かったな。みっともないドレスしか贈れないヘイデン公爵家で」

「ち、違います」

「違わないだろう」

ビチャビチャビチャッ

「キャアっ!」

セレスタンはボデュア嬢の頭の上から、ボデュア嬢のカップの中身を頭からかけた。

「さっきより冷めたから熱くはないだろう?」

「ううっ」

令嬢は泣き出した。

ボデュア嬢の母親が慌てて娘のそばに駆け寄った。

「そこまでなさらなくても」

「ボデュア公爵家では、態と熱い茶を令嬢にかけろと教育を?」

間に入ったのはアーサーだ。

「い、いえ」

「では、何故娘の暴挙を咎めることなく庇い立てするのですか」

「あ、後で叱ろうと、」

「ボデュア嬢がクリステルに茶をかけたのは初めてのことではありませんよ。3人で執拗に嫌がらせをしていたと調査報告が上がりました。家格云々を口に出させるなら相応しい教育をなさってもらいたいですな」

「も、申し訳ございません」

「うちは財力や容姿や家格でセレスタンの妻を決めることはありません。いくら妻同士か仲が良くても相応しくなければ私が認めません。
3家はこの私が判断もつかず 妻の言いなりになる愚か者だと愚弄したようなものですよ。

3家は今後、ヘイデン家とボステーヌ家に近寄らないように。我々からは二度と招待することはありません。

息子の気持ちは分かりましたので、改めてボステーヌ家に求婚します。
ご来場の皆様は縁談をくださった方々です。この場を持って引いていただくことをお願い申し上げます」

すぐさまお開きになった公爵家では、医師を呼び火傷の有無を確認させた。
その後、着替えて目元を腫らしたクリステルがセレスタン達の前に戻った。

「ありがとうございます。でも私は、」

「もう手遅れだよ。まさかあれだけ大っぴらに想いをぶつけたのに振るつもりか?」

「え?…でも」

「キスもしたじゃないか」

「あれは、」

「みんなの前でしたんだから、もう君は私のものだと知れ渡るだろう。私が決めた婚約者だと理解するはずだ」

「……」

「クリステル。もし私以外の男と婚約したらイビリ倒して追い払うからね」

「はい?」

「つまり無駄だということだ。あきらめて署名してくれ」

クリステルの前に婚姻契約書が置かれた。

母を見るも、ロクサーヌに抱きつかれていた。
ロクサーヌはクリステルを笑顔で見つめた。

アーサーも“いい子だね”と言いながら私にペンを持たせた。

「拒否権は」

「あるわけないだろう」

署名した。


それ以来、セレステンは分かりやすく他人の前でクリステルを愛でまわした。

邪魔をする者はもういない。





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