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戦争編〜第三章〜

第154話 Fランク冒険者のゴリ押し戦法

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 暗い表情をした一行。
 私とカナエさんとエリアさん(流石に現男爵を呼び捨てには出来ない)は3人で顔を見合わせた。

「魔法の根源、というのは……」
「魔石のことを、グルージャ君に教えられたの」

 エリアさんの疑問に即座に答えたのはカナエさんだった。

「…………そうでしたか。なんと言えばいいか、分かりませんが。それにしてもお2人はそこまで堪えて無いようですね」

 この場で深く掘り下げる気は無いので簡単に切り上げようと思っていたけど、エリアさんもどうやらそのつもりだったみたい。

「あたしは元々知ってたからさ」
「まぁ私はそんな変えようも無き漠然とすたテーマより目先のことぞ手一杯ですので」

 魔石が破壊されたら魔物は死ぬんだから、魔石をとることも出来ないでしょ。なら変えられない事より目の前のトリアングロ幹部って言う問題を注目したいし思考回路の割合を置きたい。

 それに、私の中で疑問はあるけど納得はしてるから。

 うーん。やはり異世界人と転生者ってこの世界に帰属意識が無いからどうやっても他人事としか思えないんだね。常識が違う。

 まぁ、私は前世の個人情報とかそういうのは全然覚えてないんだけど。

「それより──」

 新しい話題をふりかけたその時、荷馬車からバキッという嫌な音が聞こえた。

「何事!?」

 音の方面に慌てて駆け寄るとそこには馬車の車軸がイッちゃってる場面だった。
 あぁ、もう、わかりやすいほどいってますね。

 しかも馬車が壊れた振動で荷物がいくつかばらまかれている。武器ならともかく、火薬なので危険だろう。

「ちょ、ノッテさーーーん!?」
「はいはいはいはい!?」

 私の苦情の声に慌ててノッテさんが駆け寄る。
 彼が故障箇所を確認している所を横で座って確認する。

「……これは、修復にしばらく時間がかかりますね」
「しかも人為的なる故障ですぞねー」

 私が言葉を付け足せばギュルンと首を凄まじい速さで回転させた。

「ミー、イズ、Fランク冒険者」
「段々誤魔化し方雑になってきてると俺は思うしただのFランク冒険者は故障箇所見て原因まで分からないとも思う」
「平凡なFランク冒険者」
「いやお前冒険者大会準優勝してんじゃん」

 グレンさんがそこだけは譲れないといった様子でツッコミを入れた。

「なぁリィン、お前Cランク冒険者に謝ってくれ。主に俺。前衛職として敗北したリックと、魔法職として同じ土俵に立てない俺に」
「えっ!? なんか俺流れ弾飛んできたけど!?」
「グルージャ……あのおかしな武器使いに勝てなかっただろリック」
「ぐぅ……」
「Fランク冒険者とか絶対詐欺だ……」

 グレンさんは不服そうに。リックさんは悔しそうに。
 まぁ私仕事する気欠片もないから。……ランク上げる気は微塵もないから。

「ぼうけんしゃたいかいじゅんゆうしょう」
「おや、今期の優勝者は誰だったのですか? 愛しのハニーを探していたので観戦出来なくて」

 イケメンから飛び出る愛しのハニーの破壊力だよ。
 呆然としたノッテさんを無視し、その背中から問いかけるエリアさんに私は答えた。

「あいつら有名なのですかね……。Cランク冒険者のパーティーです。リーダーはペインと言う黒髪の男の子で」
「…………………………………。」

 ノッテさんの笑顔が固まっていた。

「まぁペインはクロロスとも知り合いです故に、エリアさんもご存知ですぞ?」
「……………………ハイ! 彼は弟を通して街での活動や庶民的な視点の意見を集めてくれる協力者ですね!」
「へぇ?」

 つまり彼は、私の冤罪に感じて張本人の大臣に繋げれる伝手を持っていた、ということか。

「ふぅん……」

 実際はさておき、私がただの庶民だから情報漏らせないのは分かるけど、あの性格の悪い猫被り男なら間違いなく、焦りもせずに心の中で大爆笑していたな。


 ==========


「ぶえっっっっっくしゅん!!!!」

 丸1日経っても終わらぬ最強の戦いに砂塵吹き荒れ、思わずヴォルペールペインはくしゃみをした。

「殿下、大丈夫ですか?」
「あ、あァ。大丈夫だ。心配をかけたな」

 騎士の声に応え、前を見据える。

「(エルドラード男爵……頼むからペインオレがヴォルペールだとバラすなよ……そいつに弱み握られたらたまったもんじゃない……!)」

 リィンの視界にエルドラード男爵が現れた瞬間、普通に椅子からすっ転んだヴォルペールであった。
 胃が痛み始めたのは気の所為だろう。


 ==========


「(しまったな、エンバーゲール様の捜索に付きっきりで王都で起こった出来事を把握しきれていない……。まさかエルドラード付きじゃない金の血が居たとは……)」

 エリアさんが何か考え事をし始めた。

 私は周囲を確認する。第二都市から北回りで要塞都市に潜り込もうとしている手前、存在がバレてはノッテ商会自体に疑いの目がかかってしまう。
 バレるならバレるで上手くライン切りをしないと纏めて自爆するからな。
 元々クアドラードがスパイを紛れ込ませていたって事だからね、もし一本縄なら切れるのはまずい。私だって国家の邪魔はしたくないよ、睨まれたくないからね。

「(一体誰で、何が目的だろうか。あーくそ、冒険者大会見ておくんだった。エンバーゲール様が出るってことしか把握してなかった……。くっそ、金の血VS金の血見たかった! なんで行方不明になってんだよ主の大アホ! 絶対、絶対お前が血をばらまかないように地獄の果まで追い掛けてやる……! 私の監視から逃れられると思うなよ……嫌がってもついていくし拒否して貴重な血筋をばら撒くなら私が必ず殺す……!)」

 今、なんか胃痛の気配がした。具体的に言うと父親が王弟だと知った時位の胃痛。
 気のせいだと信じたい。

「あー、すいませんお客さん方。チョットこいつは修理に時間が掛かるんで」
「ではもうひとつの荷馬車で王都に向かうですか?」
「い、いいやいいや! それだと納品が足りず首をはねられてしまう! 納期自体は余裕がありますから修理して壊れてしまった分を取くるさ」

 慌てたように言葉を重ねている。

「第二都市に戻るとなると……。あ、いや、逆に有り? 出る人間ぞ疑うされますけど、留まり入る人間はあまり警告ぞされぬ……?」
「お嬢さんお嬢さん、流石にそんな危険は犯させないさ。近くにな、集落があるんだ」
「集落?」

 トリアングロ王国に都市は3つしかなく、第二都市は国境のそば、第一都市は南側、第三都市は東の海側にあるという情報だけは得た。そして北側は都市を作れる程のまとまった土地がないから工場などの商業施設や実験施設がある、と。

 職員が利用する宿町などがあるのだろうか。

「都市に住んでいるとな、税金だったりよく分からん徴収だったり、色々とあるんだよ」
「はぁ」
「この国は強けりゃなんでもいいから。あ、今は戦争参加しているやつが多いが、参加しないチンピラみたいなのはやれ場所の使用代だのやれ通行料だのと小金稼ぎしている奴らが」
「許さるしちゃうのですね……。やり返す事も可能なのでしょう?」
「可能。うちの商会はある程度のレベルならやり返してきたから徴収されっぱなしというのは無いんだがな」

 要するに、銀行強盗が合理化する国。
 強盗に奪われたのなら抵抗せずにいた弱い人間の自業自得だ、と。

 強くなれば生活出来るけど、弱いままだとしんどい話だ。

「幹部は流石にしないが、介入する事も逆にない。……それで集落の話に戻るんだけど、そんな弱い人間が取れる手段はひとつ」
「……逃げる?」
「そう」

 ノッテさん曰く、集落は完全に自給自足の生活だけど都市との介入は相互的にしないようにしている。不可侵というまでではない様だった。実際、今の幹部の何人かは集落出身らしい。

「何故出身地までご存知ぞ?」
「集められる情報は集めるだけ集める、以上」

 簡潔だ。

「通商街道付近は盗賊も出やすいから集落でテント張って泊まる方がいい」

 積荷も置きやすいから、ってことか。なるほどねぇ。この国も色々面倒臭いな。

「この国面倒臭い」
「いや、クアドラードの方が面倒臭いぞ」

 まぁ強けりゃいいから強い人にとっては単純だろう。弱い人のフリをしている現状、面倒臭い事この上ない。

「それより本当に集落向かうですか?」
「エ、ウン。不都合でも?」
「いや…………」

 私は考えうるひとつの可能性を提示した。



「──集落、その盗賊の拠点では無きですか?」
「えっ」
「えっ」

 いくら相互的に介入をしないようにしているとはいえ、兵士や幹部の目もないんだからいくらでもルールを破って支配出来るじゃん。私はする。

 ノッテ商会の人達は『今気付きました』と言わんばかりの顔をした。

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