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戦争編〜第三章〜

第153話 金の血あるところに居る

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 ガタガタと質の悪い馬車が揺れる。
 全体が木で出来た荷馬車はスプリングなど上等な物が使われているはずもなく、不愉快な振動が体を揺らした。


「おえーーーーー!!!!!」
「絶対吐かないでくれよ、お嬢ちゃん!」


 我々一行は第二都市から無事脱出し、ノッテ商会の馬車に乗っていたのだった。



 ==========



 遡ること数日前。
 私はグレンさんと2人で第二都市の冒険者ギルドに向かう途中、1人の男を目に着けたのだ。

「アカ、覚える」
「了解……」

 私の姿を見てぎょっとした人物。しかし動揺を見せたのも一瞬で、すぐになんてことない顔をして人混みの中へ消えていった。追うのも難しい。
 グレンさんは人の魂が視える為、変装泣かせのプロだ。だから彼に誤魔化しようのない魂を覚えてもらった。

 そうしてカモフラージュにギルドに向かった私達。
 色々な情報を入手した後、普通に街の外へ買い物に出掛けて、その男を探した。

「ご主人様──右です。茶髪の赤ベスト」
「ナイス」

 そうしてダイナミック膝カックンを加えた男はスリの冤罪容疑で私にとっ捕まったのである。ここまでが出会いの物語。

 ここからは脅迫の物語だ。

 路地裏にズルズルと連れ込んだ男は混乱のまま。路地裏は丁度袋小路だったので、これ幸いと、そう、めちゃくちゃ笑顔で相手をした。

「んじゃ、見張るすてください」
「お、おう」

 私の指示になんの疑いもなくグレンさんは人避けの為にこの場を離れた。
 いやぁ、人に近寄らせたくなかったのもあるけど、問題はグレンさんにも漏らせない所なんだよねぇ!

「──さて、金髪と碧眼につられるはクアドラード王国のある程度の身分ぞある人だってことは把握すているのですよ」

 熱烈な壁ドンを贈る。
 私は第二都市で追っ手に見つかる可能性がとても高い状態でも『金髪と碧眼』を見せながら歩いていた。

 あのクラップでさえ、私の姿を見て驚いたのだ。
 金髪と碧眼の秘密を知る者は間違いなく驚くだろう。私は伯爵家……というか普通に冒険者だけど、本来なら王家の一員にしかない色だから。

 なんで王族がこんな所に!?
 ってなる筈なんだよ。普通なら。しかも第2王子が反乱起こしちゃった現状。

「クアドラードのスパイさん?」
「な、何が目的です。私はクアドラードなんかのスパイじゃありません……!」
「簡単な話ぞ提案するです。私が要塞都市まで向かう手伝い、トリアングロの情報の譲渡。身分の保証。クアドラード王国が援助ぞする恩恵、私にも渡すしろ」

 お前は絶対クアドラードの人間だ。と確信を持って言い、その上クアドラードと敵対する訳では無いという事も伝える。

「…………っ、誰だお前は。王家に姫はもう居ない」

 首筋に銀色が光った。
 ま、そりゃそうだろう。強者絶対国で弱者を選んでスパイにするわけが無い。魔法が使えないと分かっているなら肉弾戦ができる人を選ぶに決まっている。

「ただのFランク冒険者ですぞ、クアドラードの」
「……(疑いの目)」

 クアドラードのスパイってことはクアドラード王国に情報が向かうという事。
 王家に情報を渡したくないんだよね。

「Fランク冒険者です」
「いや嘘に決まっ」
「Fランク冒険者です」
「ゴリ押そうとす」
「Fランク冒険者です」
「…………。Fランク冒険者だな」

 あ、諦めた。よし。

「話は変わるですけど私クラップに追うぞされてるのです」
「……は???? クラップって、幹部の?」

 男は混乱した様子で目を白黒させていた。いや、私もよく分かんないんですけど、目と目が合う瞬間震えが止まらなくなったよね。身バレ的な意味で。

「私の色彩に反応出来る人が純粋な一般人なわけぞ無きでしょう。私が捕まるすれば、私、拷問とか苦手故に、まァすぐ吐きますぞ。──第二都市のお前がクアドラード関係者ぞ、って」

 死なば諸共。
 まぁお前を見捨てても私は生きる。

 丁寧に伝えた脅しの言葉に男は考える。
 脳みそでは今までの状況をまとめているのだろう。冒険者ギルドに訪問前後で姿がガラリと変わっていたはずなのに一発で見抜かれたこと、変装を見抜ける技があること、そして私が確信していること、そもそも金髪と碧眼であるということ、その意味を知っているということ。

「…………その言語能力、何だ?」

 考えた結果最初に疑問を持つ所がなんでそこなの????




 回想終了。



「さて、そろそろ街を離れっちゃあ離れたな。ちょっと休憩するか」

 第二都市を出発して山道をガタガタ進んだ馬車がようやく止まる。
 そんなこんなで現地で協力きょうはく者を得た私はコーシカの手助けがなくとも要塞都市に向かう術を得たので、やつから逃げるための時間稼ぎに費やしたのだった。

 と、言っても。このノッテ商会が武器の搬入で要塞都市に出発するという時間がコーシカタイムリミットの日の夜中だったのだ。
 日暮れから夜中までひとまずノッテ商会で匿って貰い、その間に匂いの染み付いた服を商会の一人に渡して目的地の反対に放置してもらうことにした。
 ちなみにその人には積荷に案山子を詰んだ後、設置し、そして運悪く盗賊に襲われ馬車を燃やされる予定だ。それなら灰の匂いに鼻をつかれいるはずも無い盗賊の匂いを辿れないし、第一都市方面に向かえば行商途中でおかしな案山子を見つけただけの発見者に出来る。

「はい、水」

 カナエさんがコップに水を注いで持ってきてくれた。
 切り株に腰掛けていた私は素直に受け取る。喉を通るほんのり冷たい水は吐き気のある体にとってとても気持ちが良いものだった。

「はぁ……不死鳥……」
「あ、生き返った? それなら良かった」

 とてもおかしな会話だと思ったけどまぁいいでしょ。

 ノッテ商会は武器や弾薬などの製造の下請け商会だ。全員が全員クアドラードのスパイという訳では無いが、上部の人間は全てクアドラード。
 というわけ利用させてもらったのだ、が。

 要塞都市に向かう彼らには、実は私達以外にもう1人同乗者が居たのだった。

「き、金だ! 金がいる!!!!!」

 目を輝かせたのは同乗者である。名前はまだ知らない。

「ん?」
「初めまして、私はエリア・エルドラード! 金色こんじきの姫よ、私を貴女のナイトにしてくれませんか?」

 んー! 既視感!
 おっかしいなぁ! なんだかどっかで見たことあるぞこんな奴。

 エリア・エルドラード、そう名乗った男は21とか22とかそこら辺。第2王子と同い年くらいだろう。
 灰色の髪色に、緑の瞳が特徴的だった。

 ……ん?

「……エルドラード?」

 その名前、聞いたことがある。
 そう思いながら首を傾げた。

「ぐ、ぐりあ、ぐよりやす、エルドラード」
「……もしやグロリアス・エルドラードの事ですか? あれは私の父ですね。まさか、父とお知り合いだとは!」

 エリア・エルドラードは私の手をがしりと掴む。
 あ、あはは、あの大臣には色々冤罪容疑でお世話になりました。殺す。

「……お嬢ちゃん……もしかしてやんごとないお方……? エルドラード伯爵の事もそうだし……男爵がそんな反応を見せるだなんて……」
「Fランク冒険者です」
「嘘だ…………」
「ただ王宮でエルドラード大臣に捕まるすたことあるです」
「嘘だろ!??!??!」

 どっちも一応事実です。
 ノッテさんが驚く顔を尻目に私はもう一度エリア・エルドラードに向き直った。

「あの……伯爵とか男爵というのは」
「あぁ、父がエルドラード伯爵ですが、私も第2王子に仕える身、功績を立てエルドラード男爵として叙爵したのです」

 あー、なるほど。じゃあこの人は父親を伯爵に持つ、初代男爵ってことか。爵位相続ではなく、分家として家名分けしたんだ。

 ……普通の貴族当主より厄介じゃねーかよ。

 そして私はこの既視感に決着をつけるため、賭けに出た。


「ナイトの話、お話は嬉しきですけど。申し込みの先約ぞございますて」
「おや、それは残念ですね」
「はい。クロロス・・・・にもまだ返事ぞ返すしめなき故に」
「あの子に先を越されてしまうとは、なんとも悔しいものです」


 私は木の幹を思いっきりぶん殴った。

 どっかの監視だとは思っていたけど、敵対意志最大であるエルドラード伯爵大臣の息子だったとはねえ。

 …………クロロス・エルドラード君?


 ==========


「ブェッッックシュン!」

 インジュリ草を毟りながら噂の本人は青い空を恨めしく思いながらぽつりと呟いた。

「花粉症か、黄金の君が俺の噂をしているのか、そのどちらかだな」

 だいぶあれな存在であった。


 ==========



「そう、ノッテさん。ここからどう進むですか?」

 改めてルートを頭に入れようと問いかけた。追っ手対策にもなるしね。

「このまま通商街道を進んで王都に行く。都市には寄らない」
「ふむ」

 ここ通商街道って言うんだ。
 細かく聞けば馬車が通れる道というのは限られていて、第二都市から直接王都に向かうルートは山道をうねりながら進むらしい。後、人が通れるルートって言うか、化け物が通れるルートは街道じゃなくて獣道だった。5メートルの崖を飛び越えるとか人間の技じゃない。

「まぁその点ここら辺には盗賊が出やすいんだが」
「……大丈夫ですぞね」
「幹部はともかくそこらの盗賊に負けるほどやわな鍛え方はしてないな」

 商会の人間、同時に頷いていた。キミらスパイだもんね。

「そう言えば金色の姫、貴女のパーティーですけど」

 別に私のパーティーってわけじゃないけどエリア・エルドラードの言葉にリックさん達を見る。
 すると彼らは沈んだ表情のまま休息を取っていた。

「なんだか……暗くないですか?」
「あぁ……」

 恐らく貴族当主のエルドラード男爵なら知っている事。

「魔法の根源について聞くますた」

 ショックの最中にいるのは、生粋のこの世界の人間だから。
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