悪逆姫と呼ばれ、いわれもない罪を着せられた私ですが、大切な従者と逃避行という名の旅に出ることにしました！

2章 逃避行は従者と共に

24話 母と娘

　この村で休める場所は。

　私は辺りを見渡すも、住居だったであろう建物の屋根はすべて剥がれている状態だった。

　こんな建物じゃ風は凌げても、雨は凌げない。
　今から修繕しようにも無駄な体力を使うだけだし、みんなの身体はとうに疲れ切っている様子。
　それに修理しようにも肝心な道具ないんじゃどうしようもない。
　ということは、また火を焚いて野宿になるかな。

　お母さんとシーちゃんは少し村の中を見回ったあと、村の中央に落ち葉と小枝を集め始めた。
　そしてお母さんが、昨夜みたいに指先から小さい火の玉を出すと、集めていた落ち葉や小枝に燃え移った。
　
「みんな準備できたから一旦集まろうか！」

　そう声を掛けてきたのはシーちゃん。

「でもユーシスは？」
「あの子のところには元陛下が向かったみたいだからなんの問題もない、と思うよ」
「えっ！？　いつの間に！？　さっきまで火が点くか確認してたじゃない」

　それよりやっぱり焚き火の側ってすごく温かい。
　火を眺めていると癒やされた気分になってくる。
　実際癒やされてるのかな？
　そんな感じでシーちゃんと話すことなく、火を眺め続けること数十分が経ったぐらいだろうか。

　お母さんの姿が古い住居の奥から見え始めた。
　何かを引きずっているみたいだけど、あれはいったい……。
　よくよく確認すると首根っこを掴まれたユーシスの姿が！　手足をバタバタ動かして抵抗しているようにも見えるけど、お母さんにはどうやら無意味みたいね。

「おかえり！　二人共何か収穫は？」
「残念ながら何も……どうやら、もともとこの村に住んでいた住人は焼き討ちにあったみたいね」
「見事に全部灰になってたな。衣類はもちろん食料品も全部な」
「そんな……それより今焼き討ちって！」
「ええ、この焼き討ちの首謀者は恐らく――」
「父上ね」
「わたくしが王位を退いてからというもの治安が悪化しましたからね。王の采配によって国の治安も変わる。それは紛れもない事実ですから。だからこそあなたなんですよリーゼ。王に相応しいのは」

　そう言いながらお母さんは私を抱きしめようとしてくれていた。
　だけど私はそれを拒んでお母さんを強く突き飛ばしてしまった。
　
「わ、私はお母さんみたいに立派になれない！」
「待ちなさいリーゼ！　そっちに行っては――」

　私は涙を浮かべながら走り出した。

　誰も私の気持ちを分かってくれない。
　お母さんとせっかく再会できたのに、王位の話ばっかりで昔の話もしてくれない。
　私はもっとお母さんのこと知りたいのに、幼い頃から見てきた綺麗でかっこいいお母さんのことを。
　あの時、ネムがお母さんだと分かって騙されていたんだと思って悲しかったけど、それ以上にもう一度お母さんとこうやって話して、抱きしめられて、何より再開できたことが嬉しかった。
　なのに、なのに…………。

「リーゼ待ちなさい！」

　ああ、お母さんの声が聞こえてくる。
　必死になって走っている私の腕を強く掴んだのは――お母さんだった。

「放してよ！　お母さんは私のことなんてどうだっていいんでしょ！　王位を継がせることしか考えてないくせに！」
「違うわよ！　聞きなさいリーゼ！　確かにわたくしも悪いと思ってるわ。死を偽造し、まだ幼かったあなたを悲しませてずっと面倒を見てあげられなかった」

　私が振り返るとお母さんはうつ向いたまま話し続けている。

「実はね……」

　お母さんの口から語られたのは、私が今まで住んでいたラルフ王国の闇、そしてお母さんがどんな思いで死を偽装し、リーゼの従者として行動していたか、女王ユリアとしてのプライドも捨て、娘である私を守り抜くため――それは私をなによりも愛していたからこそ、一国の王として、母親としての強い責任感と決断の話だった。