異世界の勇者に逮捕されました!?

krm

文字の大きさ
上 下
23 / 24

23 心の奥の真実

しおりを挟む
次の休みの日、二人でアルクの世界へ行くことにした。
森の歪みに足を踏み入れ、異世界へ到着すると、前回来た時と同じ場所に出る。
「おお!勇者様のお帰りだ!」
「すぐに国王に伝達を!」
そこには、兵士のような格好をした人達が待機していた。数人が俺達の方へと駆け寄ってくる。
「勇者様!おかえりなさいませ!」
「ただいま戻りました。みなさん元気そうですね」
「はい、魔獣もすっかり大人しくなっています」
「そうですか。それなら良かったです」
アルクが微笑みかけると、兵士達は頬を染めて見惚れているようだった。そりゃ、アルクに微笑まれたらそうなるよなぁ……。
「それでは勇者様、お城へ参りましょう」
「よろしくお願いします」
兵士達に案内され、俺達はお城へと向かった。

***

「おお!勇者アルクよ!よくぞ参った!」
謁見の間に通されると、玉座には王様らしき人物が腰掛けていた。アルクの姿を目にすると、嬉しそうに声をかける。
その様子からは、アルクへの深い信頼の念が伝わってきた。
「お久しぶりです、陛下」
「うむ。そちらの者が例の人物か?」
「はい、彼が真尋といいます」
「は、初めまして。真尋と申します」
俺が緊張しながら頭を下げると、周りから拍手が起こった。どうやら歓迎されているらしい。
「よくぞこの世界を救ってくれた。礼を言うぞ」
「いえ……俺の力ではありません。アルクがいたからこそ成し遂げられたんです」
「ふふ、謙虚だね」
アルクが俺を見て微笑む。その笑顔を見ると緊張が解れ、気分が和らいだ。
「早速じゃが、褒美を与えよう。欲しいものがあれば何でも申すが良い」
王様の言葉に、アルクは何か考え込むような素振りを見せる。
なかなか答えないアルクを見て、王様が続けた。
「望むなら、次期国王の座を与えよう。余の娘と婚約しても良い」
その言葉を聞いて、周りの兵士達がざわめく。
王様の隣には、姫らしき美女が立っていた。彼女はアルクを見つめると、嬉しそうに顔を綻ばせている。
それを見て、俺は胸を締め付けられるような痛みに襲われた。
アルクはこの国を救った英雄だ。姫と結婚して、いずれ王になるのが相応しい。俺のことなんて忘れて、この美しい姫と一緒になるべきなのだ。
「……陛下、お願いがあります」
アルクが口を開く。心臓の鼓動が速くなる。聞きたくない。だけど、聞かずにはいられなかった。
「おお、なんなりと申せ。金でも地位でも何でも与えてやろう」
「真尋の魔力を消して欲しいのです」
「……えっ?」
アルクの口から発せられた言葉が信じられなかった。どうしていきなり俺の魔力の話なんか……?
「なるほど……、それは確かに大きな要望だな」
「ええっ!?」
王様の反応にも驚く。次期国王の座と俺の魔力を消すのが同等の価値なのか……?
「ええ。ですから、どうしても叶えて欲しい願いなんです」
二人の会話を聞きながら俺は考える。俺から魔力が消えれば、俺はこの世界に来ることも出来なくなるはずだ。アルクはそれを望んでいるのだろうか。本当に、もう一生会えなくなってしまうのだろうか。
「良かろう!発動させるのに膨大な魔力を必要とするが、お主の頼みであれば喜んで引き受けよう」
「ありがとうございます。真尋、これで君は自由の身だよ」
「…………嫌だ!」
気付いた時には叫んでいた。アルクが驚いたように目を見開く。
「真尋……?」
「俺……、俺、アルクと会えなくなるなんて嫌だよ……!」
涙で視界が滲んだ。悲しい気持ちが溢れ出てくる。
アルクと恋人ではなくなったとしても、魔力があればまた会えると思っていた。その唯一の繋がりまで切られてしまうなんて……。
「お願いだから、魔力まで奪わないで……」
「真尋……嬉しいよ。僕も同じ気持ちだよ」
アルクは優しい声で語りかけると、そっと俺を抱き寄せた。
「アルク……?」
「ごめん、僕の言い方が悪くて誤解させちゃったね」
「誤解……?」
俺が首を傾げると、アルクは優しく微笑み、そして王様の方へ顔を向けた。
「陛下、もう一つお願いがあります」
「うむ、何だ?」
「真尋の魔力が消えた後は、僕は真尋の世界で暮らしたいと思います」
「えっ……!?」
今度は俺が目を見開く番だった。
「そうか、やはりそれが望みか」
「はい。彼と共に生きていきたいんです」
「ちょ、ちょっと待て!アルク!何言って……」
慌てて止めようとするが、アルクは真っ直ぐに俺の顔を見て言った。
「駄目かな?真尋、僕は君とずっと一緒にいたい。それが僕の本当の願いだ」
「アルク……」
アルクが俺の手を握る。その手は温かく、優しい力強さを感じた。
「悪かったのう。娘と婚約などと、野暮なことを言ってしまったようだ」
王様が愉快そうに笑う。
「いえ、こちらこそ突然こんなことを言い出してすみません」
「良い良い。お主らの仲の良さは見ていて分かる。さあ、約束通り魔力を消し去ろう。すぐに準備に取り掛かれ」
「はっ!」
兵士達が一斉に動き出す。魔力を消すための魔法陣のようなものが描かれていった。
なんでも、人の身体から魔力を消すのは高度な技術が必要らしく、何人もの魔術師が集まって儀式を行うようだ。
「なあ、アルク。どうして俺の魔力を消そうと思ったんだ?」
俺は疑問をぶつけた。俺から淫魔の力がなくなれば、アルクは自由になるはずだ。それなのに、どうして俺の世界で暮らすことにしたんだろうか。というか、これからも俺と一緒にいるなら、そのまま魔力があってもいいのではないか。
「それは……その……君のことが好きだからだよ」
「えっ……?」
「君と出会ってから、毎日が楽しかった。今までこんなに充実した日々を過ごしたことはなかった。きっと、これが恋なんだろうなって思ったんだ」
「アルク……」
「だからこそ、淫魔の力で縛られている今の状況は間違ってると思ったんだよ。僕達はお互いに惹かれあっているんだから……本当の恋人になりたいと思っている」
「アルク……ありがとう」
嬉しくて涙が出そうになった。俺のことをそこまで想ってくれているなんて。
「それに……万が一僕に何かあった時に、君が他の誰かに淫魔の力を使ったりしたらって思ったら怖くて……。それくらいなら、最初から無い方がいい」
「んっ?」
アルクの言っている意味がよく分からず首を傾げる。すると、アルクの頬が少し赤く染まった。これはまさか……。
「えっと……アルク、お前もしかして……嫉妬してるのか?」
恐る恐る尋ねると、アルクはさらに顔を赤らめた。
「まあ、そういうことになるのかな」
まさか、そんな可愛い理由で俺の魔力を消すことを望んだのか。
照れくさそうにしているアルクが可愛すぎて、俺は我慢できずに飛びつく。
「わっ……真尋?」
「アルク……大好き」
もう自分の気持ちを抑えることはできなかった。
「俺、頑張るよ。お前に相応しい男になれるよう努力するよ。だから、アルクも俺のこと好きでいてくれよな?」
「もちろんだよ。僕ももっと強くなる。だから、二人で幸せになろう」
「ああ……」
お互いに抱き締め合い、どちらからともなく唇を重ねた。
「おお、素晴らしい!世界を救った二つの魂が結ばれた!これぞまさに愛の奇跡だ!」
王様が感極まった様子でそう言うと、周りにいた人達が盛大に拍手を送ってくれた。
恥ずかしいけれど、とても幸せな気分だ。

「では、始めるとしよう。皆の者、よろしく頼む」
王様が合図すると、俺達を囲むようにして魔術師達が呪文を唱え始めた。部屋中に光の粒が舞い踊る。
やがて、俺の中に温かいものが流れ込んでくるような感覚があった。
「おめでとうございます!無事に魔力が消えました!」
一人の魔術師がそう言うと、周りの皆が歓喜の声を上げた。
実感はあまり湧かなかったが、これで俺は普通の人間に戻ったのだろう。
「真尋、良かったね」
「うん……」
アルクが祝福の言葉をかけてくれたが、俺は少し不安な気持ちもあった。
これでもうアルクの世界との繋がりが無くなってしまう。そんな思いが頭を過ったからだ。
しかし、次の王様の言葉に驚く。
「さて、真尋よ。お主の魔力は無事消えた。これからは、アルクから魔力を分けてもらうように」
「……えっ?」
魔力を分けるとは、どういうことだろうか。不思議に思ってアルクを見ると、なんだか照れたような表情をしている。
「実は、勇者には魔力を分ける力があるんだ。今までは真尋に闇の魔力があるから分けられなかったけど、これからは僕の魔力で君を守れるんだ」
「そうだったのか……」
そんな仕組みになっていたとは。アルクはそれもあって俺の魔力を消そうと思ったのだろう。
「でも、魔力を分ける方法が……その……セックスをするということで……」
アルクの顔が真っ赤に染まる。俺もつられて顔が熱くなった。
「そ、そうだよね……、やっぱり……」
今更恥ずかしがることもないのだが、改めて言われるとやはり気まずい。
俺が戸惑っていると、アルクが俺の手を握ってきた。
「魔力は誰にでも分けられるわけではないんだ。心に決めた一人だけ……真尋だけが特別なんだよ」
「アルク……」
心に決めた一人という言葉にドキッとする。アルクが俺のことをそういう風に思ってくれていることが嬉しい。
ついニヤけそうになっていると、王様が続ける。
「それにより、この世界とも行き来することが可能になる。いつでも好きな時に来るがよい」
「はい、ありがとうございます」
淫魔の力が無くなっても、新たな魔力を分けてもらえることに安心した。
それに、アルクの魔力が俺の身体に入るのだと思うと、嬉しいという気持ちもある。
「世界を救った勇者達に、心からの祝福を!末永く仲良く暮らすのだぞ」
王様が笑顔でそう声をかけてくれた。皆も優しく微笑んでいる。
「じゃあ、帰ろうか。『僕達』の世界に」
「……そうだな」
アルクに手を差しだされ、二人で手を繋いで歩き出した。
こうして、俺達は世界を救い、俺の淫魔の力は消え、新たな未来への扉が開かれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

処理中です...