王子!今日こそ貴方様から逃げさせていただきます!

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05「お前のいない世界なんて、意味が無い」

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しばらく王子に抱きついていると、男が近づいてきた。
「さて、ランヴェルセ王子、取引をしようじゃないか」
「取引だと?」
「ああ、簡単な話だよ。君が大人しくこちらの要求を呑めば、彼を解放してあげよう」
「要求というのは……」
「もちろん、この国の支配権だよ。私にこの国の全権を委ねると約束してくれればいい」
「……断ったら?」
「その時は……わかるだろう?その従者は返さない。私が可愛がってあげよう……ククク」
「くっ……」
王子が苦しそうな顔で俯く。
こんなの悩むまでもないことだ。僕のことなど放っておいて構わないのに……。
「王子、僕のことは気にせず、どうか断ってください」
「そんなこと出来るわけがないだろう!」
彼は声を張り上げると、キッと鋭い視線を向けた。
「俺にとって、お前は大切な存在なんだ。絶対に守ってみせる」
その言葉を聞いて、胸の奥がきゅっと締め付けられる。この気持ちはいったい何なのだろう……。
「フハハ、やはり君は素晴らしいよ。それでは、交渉成立ということでいいかな?」
「ああ、その条件を呑もう」
「い、いけません、王子!そんな約束をしてしまってはこの国が危うくなります!僕なんてどうなってもいいですから……」
必死に訴えかけるが、彼は首を横に振るだけだった。
「俺は国よりも、自分よりも、何よりも、お前の方が大切だ」
「王子……」
王子の言葉は正直嬉しい。だけど、僕のせいでこの国に危険が及ぶかもしれないのだ。この提案を受け入れるわけにはいかない。
「王子、いけません。貴方は次期国王になる方なんですよ」
「お前のいない世界なんて、意味が無い。それに、お前一人を守ることも出来ないで国を守ることなんてできないだろう」
そう言って微笑んだ彼の姿はとても凛々しく、美しかった。僕は思わず見惚れてしまう。

「フハハ!美しい愛の言葉だねぇ。王子といえど、所詮はただの人間だな」
男が勝ち誇ったように笑い出した。
「一時の恋愛感情に流されて判断を見誤るとは愚かだな。これで、この国は私のものだ!」
「恋愛……感情……」
高らかに笑う男を尻目に、僕は男の言った言葉を反芻していた。
「おい、ルセット。まさかまだ俺の気持ちがわからないんじゃないだろうな……。勘弁してくれよ」
王子は溜息をつく。
「いえ、それは……」
さすがの僕でも、ここまで言われたら理解できた。
(王子が……僕のことを……好き?)
呆然としていると、王子が真っ直ぐな瞳を向ける。
「ルセット、好きだ。愛している。昔から、ずっとお前だけを愛してきた。他の誰にも渡したくない。これは紛れもない本心だ」
王子からの告白を聞き、嬉しさや恥ずかしさが込み上げてきて頬が熱くなる。
「そ、そんなこと言われたって……」
「わかっている。お前の答えを聞く前にあんなことをしてしまったのは悪かったと反省している。だが、どうしても我慢できなかったんだ」
王子は申し訳なさそうに、目を伏せた。
「今更こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないが、もう一度だけチャンスをくれないか?」
彼の真っ直ぐな瞳に見つめられ、心臓がドクンと跳ねる。
「ぼ……僕なんかで良ければ……」
「え?」
「僕なんかで良ければ、喜んでお付き合いさせていただきます!」
「ほ、ほんとか!?」
王子の顔がぱあっと明るくなる。
「嬉しいよ……ありがとう!」
「うわっ!?」
王子は勢い良く抱きついてきた。
「ちょ、いきなり何するんですか!」
僕が離れようとすると、彼はさらに強く抱きしめてくる。
「ああ、やっと……手に入れた……」
王子が僕の耳元で囁いた。その声色は甘く、どこか艶っぽさを含んでいる。
「あ……あの……王子……」
「ん?どうした?」
「い、いえ……」
なんだか急に緊張してきてしまい、上手く言葉が出てこない。

「おやおや、お熱いですねぇ~」
男が僕達のやり取りを見て、ニヤニヤとしていた。しまった、すっかり存在を忘れていた……。
こんなやりとりを見られていたと思うと、羞恥に襲われる。
「ククク……まぁこちらとしては、ありがたい限りだ」
男は不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあ早速、契約の儀式を始めるとするかね」
「儀式……血の契約か?」
「ああ、国を受け渡す大きな取引なのだから、当然だろう?」
血の契約とは、お互いの血を交換して交わす契約のことである。魔力の強い者同士しか使えない。
男は元王宮魔術師と言っていたし、王子は王族なので強力な魔力を持っている。だから、契約を行うことができるのだろう。
しかし、この契約は絶対に阻止しなければならない。なぜなら、契約を破った場合は死に至る、強力な契約なのだ。

「さぁ、指先を切ってここに垂らしてくれたまえ」
男はナイフを差し出した。
「王子、いけません!血の契約だけは……」
「仕方ないよ。これくらいしないと交渉成立にならないだろう」
「その通り。さすが王子は物分かりがよろしい」
男が大袈裟に感嘆の声を上げる。
「だが、少し時間をくれないか?」
「なんだ?まさかここに来て時間稼ぎでもしようというのか?」
「いいや、媚薬を飲まされた恋人を放っておけなくてね」
王子が僕の方を見ながら言った。その眼差しから、王子には何か考えがありそうだと気づく。
とにかく血の契約だけは阻止したいのだ。媚薬を飲んだ僕を理由に時間を稼ぐことができるのかもしれない。
さっきから身体が火照っていてつらいので、僕はそれをアピールするのが良さそうだと考えた。
「ああぁん!王子ぃ!早く王子に触って欲しくて仕方ないですぅ!」
わざとらしく甘えた声で叫ぶ。
「ルセット!?な、何を言い出すんだ!」
「だってぇ、身体が熱いんですよぉ~!早くしてくださいぃ」
恥ずかしかったけど、必死になって演技をした。演技というか、半分は本音だけど。身体が疼いていて、割と限界だった。
「わかった!今すぐ楽にしてやるからな」
王子は僕の頭を撫でると、男の方を向いた。
「こういうことだ。しばらくルセットと二人きりにして欲しい」
「まあいいだろう。だが、何か不審な動きがあればすぐに……」
「ああ、分かっている」
王子が僕を抱き上げる。
「ひゃう!?」
まるでお姫様をエスコートするかのように、優しくベッドへと寝かせてくれた。
「大丈夫か?」
「はい……なんとか……」
本当は全然大丈夫なんかじゃない。身体が熱くておかしくなってしまいそうだ。
「すぐ楽にしてあげるよ」
王子はそれに気付いているのか、優しい手つきで頭を撫でてくれた。それだけで安心感に包まれる。

「ふん、せいぜい仲良くやるといい」
男はそう言い残して部屋を出て行った。
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