王子!今日こそ貴方様から逃げさせていただきます!

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04「こんな時でもお前は可愛いんだな」

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「ん……」
目が覚めると、僕はベッドの上にいた。
「ここは……?」
ゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。ここは、どこかの部屋の一室のようだ。
「どうして僕はこんなところに……?」
確か僕は王子から逃げ、城から抜け出して街の方に向かって歩いていたはずだ。それから、突然現れた謎の人物に声をかけられて……。
「そうだ、思い出してきたぞ!あの後突然眠くなって……」
ということは、僕はあの男に捕まったということだろうか。
「くっ、まさかあんな場所で……」
悔しさに唇を噛んでいると、コツ、コツ、と誰かの足音が響いてきた。その音はだんだんこちらに近づいてきて、やがて止まる。
部屋のドアが開き、現れたのは先ほどの男だった。
「気分はいかがかな?お姫様?」
「最悪ですね。それに、僕は男ですし姫ではありません。間違えないでください」
キッと睨みつけると、男はククッと笑い声を上げた。
「これは申し訳ない。あまりにも可愛らしいものだから勘違いしてしまったよ。ところで、君はなぜここにいるのかわかるかい?」
ニヤニヤと笑いながら問いかけてくる。
「わかりません。気づいた時にはこの状態でしたので」
「では教えてあげよう。君は私の魔術によって眠らされ、ここに連れてこられたんだよ」
やはりこの男の仕業だったようだ。
「でしょうね。そんなことだろうとは思いました」
「ほう?随分と落ち着いているじゃないか」
「ええ、まあ。今さら慌てたところで意味が無いですから」
「なるほど、流石は王子に仕える者といったところだな。だが、果たしていつまでその余裕が続くかな?」
男は再びニヤリとした笑みを浮かべた。
「どういうことですか?」
「実は今、君の主人である王子にお願い事をしている最中でね」
「王子に……頼み事?」
「ああ、だがなかなか首を縦に振ってくれなくて困っているんだ」
王子に頼みごとをするなんて、一体どんな内容なのだろう。王子が断るくらいだから、どうせろくでもないことに違いない。
「そうだったんですか。どんな頼み事かは知りませんが、いくら頼んでもきっと無理ですよ。だって、ランヴェルセ王子は意志の強いお方ですから」
「ほう……君は随分と王子のことを信頼しているようだが、その根拠は何だい?」
「それはもちろん、王子は誰よりも優しく、正義感が強い人ですから。幼い頃から一緒に育ってきた僕には分かります。とても素敵な男性なんです。貴方のような悪人の言うことなど聞くはずがありません」
自信満々に答えると、男は呆れたように溜息をつく。
「なるほど、君の考えはよくわかったよ。やはり協力してもらうのに適任だったな」
「協力……?」
「ああ、そうだ。君が素直になればすぐに終わることだよ」
「何を言って……」
「まあまあ、とりあえずこれを飲んでくれるかい?」
そう言って差し出されたのは、怪しげな色をした液体の入った小瓶だった。
「なんですかこれ……」
「いいから早く飲みたまえ」
男は無理矢理それを飲ませようとしてくる。
「ちょ、待って!自分で飲むから離してください!」
抵抗したところでどうせ飲まされることになるのだろう。仕方なく男から瓶を奪い取って、一気に飲み干した。
「ククク。素直ないい子だねぇ」
男は不敵な笑みを浮かべながら、僕の様子を見ている。
すると、身体に変化が現れた。身体中が熱を帯び始め、力が抜けていくような感覚に陥る。
「あっ……なんだこれ……なんか、身体が熱い……」
「どうやら上手くいったようだな。気持ち良くなってきただろう?」
「気持ち良くって……一体何を飲ませたんですか!?」
嫌な予感がする。この感じはまるで……。
「お察しの通り、強力な媚薬だよ。身体が疼いて仕方がないんじゃないかい?」
「媚薬……!?」
確かに、男の言う通りだった。全身が火照り、呼吸も荒くなっている。
「ふざけないでください!こんなものを使って……どういうつもりですか!」
「君を利用させてもらおうと思ってね。悪いがしばらく付き合ってもらうよ」
「利用……?何をするつもりですか?」
「私の目的はただ一つ……この国を支配することだ!」
そう言って高らかに笑う男を見て、僕は呆れてしまった。
「は……?何馬鹿なこと言っているんですか?そんなことできるはずないじゃないですか」
「いやいや、それが、案外簡単にできてしまうものなんだよ」
どう考えてもそんなこと出来るわけがない。それなのに、何故この男は自信満々なのだろうか。なんだか嫌な予感がする。
「信じられないかい?それなら証拠を見せてあげよう」
男はそう言い放つと、部屋の扉を開けた。
そこには、なんと、ランヴェルセ王子の姿があった。
「え……王子……?」
「ルセット!?どうしてお前がここに……!」
王子は驚いた顔をした後、すぐに僕の元へ駆け寄ってきた。
「大丈夫……じゃなさそうだな。怪我はしていないか?」
「は、はい……」
「貴様……いったいルセットに何をした!」
王子が怒りに満ちた表情で男を睨む。しかし、当の本人は涼しい顔をしながら口を開いた。
「何もしていませんよ。ただ、彼にちょっとした贈り物をね……」
「王子、僕は……あうぅ……」
薬が効いてきたのか、身体が疼き始めてしまい、うまく返事ができない。
「くそっ!何か盛ったのか……!」
「ええ、でも、ご安心ください。死に至るようなものではありません。せいぜい一時間程度しか効かない代物です」
「おいルセット!しっかりしろ!」
「はうぅ……」
心配そうな表情を浮かべている彼に見つめられて、ドキドキしてしまう。媚薬のせいで変になっているからだろうか。王子の顔を見ているだけで胸の奥がきゅんとして、苦しくなってくる。もっと近くで感じたい。
「あ、あの……王子」
「どうした!?」
「少しだけ……抱きついてもいいですか?」
「えっ!?ど、どうしたんだいきなり……」
「ダメですか……?」
「べ、別に構わないが……」
「ありがとうございます……」
許可が出たので遠慮なく王子にぎゅーっと抱きつく。すると、不思議と心が満たされるような気がして幸せな気分になった。
「ふあぁ……ずっとこうしていたいです……」
「ル、ルセット……こんな時でもお前は可愛いんだな……」
王子が何か呟いて頬が赤くなっているけれど、気にしないことにする。
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