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悪疫は取り除かれなければならない。

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 夕暮れは近くなっている。
 近所の小学校が六時の音楽を鳴らして、子供達が競うように帰っていく。
 公園にはもう誰もいない。今は小さなブランコが一つ、帰ってしまった友達を思い出すようにぶらぶらと揺れているだけだった。

「まともに恋が出来るなら、いつまでもなんてしてんなよな……」

 その日三本目のタバコに火を着けて、僕は暮れていく六月をベランダから眺めていた。
 暦の上ではもう夏が来ているらしい。ぶ厚い雲に覆われた田舎は、季節のアップデートに少し手間取っているようだ。
 伸びていた灰を落とすと、僕を呼ぶ声がした。

「パイセーン。夜霧晴冴パイセーン」

 アパート前の道路をなぞる。赤髪を暗く染め上げた少女が、すぐ下にいた。

「氷雨か、どうしたんだ」
「寄ったんすよー。アタシ今帰りなんで」
「家近かったんだな」
「くっそ遠いっスよ~。キロ離れてるっス、きろめーたー」

 彼女は初めて会った時と変わらない、気の抜けた笑みを浮かべている。
 意図が掴めず咥えたタバコを、氷雨が指差す。

「あー、さっすが不良! タバコも嗜むとは」
「なにか用か?」
「挨拶っスねぇ。それじゃあ女の子にモテないっスよ?」

 おしゃべりをする気分じゃなかった。
 馴染みの二人と吸っていたとは言え、基本的にはタバコは一人で吸う時間が好きだ。雨の窓辺に置いた、白いコーヒーカップのように。そこにはゆっくりと時間が流れていくような気がする。
 けれど、そんなこだわりが氷雨に通じるはずもない。

「ちゃんと話があって来たんスよ。上げてください」
「ここじゃダメか。見つかったら生徒指導になるぞ」
「ダメっス。それでもいいっス」

 氷雨は笑っていた。けれどその目は一ミリも笑っていない。
 見覚えのある瞳。例えば喧嘩に挑む前の若の目のような。覚悟とか、そう言ったものの籠った色だ。

「……二〇二だよ、鍵は開けておくから」

 氷雨が頷く。
 アパートに消えていく端整な顔が、スッと陰って温度を落とす。思い詰めたような顔だった。
 僕は最後の一吸いをゆっくりと噛み締めて、火口を揉み消した。
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