君を殺せば、世界はきっと優しくなるから

鷹尾だらり

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善人なんていやしない

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 美しい生き方の少女だと思った。
 けれどその優しさとモットーが生まれるに至ったかつての彼女が、どんな姿をしているのかは分からない。

「ねーねーこれあげるっ!」

 学校帰りに立ち寄った公園では、数人の幼稚園児たちが遊んでいた。
 火を点けるでもなくタバコを咥えると、濡れた砂場から少女たちの会話が聞こえてきた。

「なぁにこれー? 宝石ぃ?」
「ううん、違うの」

 渡された石を陽にかざした少女に、ツインテールの少女が首を振る。

「それは思いやり。ちぃちゃんはずっと持ってて」
「ありがと! じゃあみきちゃんにはこれ、優しい心!」
「二人で分けっこしよっかー」
「うん、いーよ!」

 二つの石は欠けていた。
 けれどその欠けた部分をくっつけると、まるで元は一つの石だったんじゃないかと思うくらい、これがぴったりと欠けた部分を補い合っていた。
 僕はなんだか胸焼けしたみたいに気分が悪くなって、そっと目を逸らす。
 咥えタバコをそっと仕舞う。ライターのオイルも、どうせ切れている。

 ──アイツはたぶん、純粋な善人なんだろうな

 宛のない嫉妬を無色の吐息に溶かして、そっと小雨の空を見上げた。
 氷雨は善人にも見えた。一人で多数を相手に立ち向かうなんて、若以外には見たことがない。
 それなのに、彼女はそれを当然のことだと笑って見せる。きっと氷雨は、僕のような悪人とは程遠い存在なのだろう。
 僕は軽いカバンからノートを取り出して、ページの続きにペンを走らせる。

《氷雨茉宵は次のターゲットになりえるか?》

 今の彼女はただのバカなくらい親切な女の子だ。けれど頑なに礼を受け取らない姿勢は、単に「バカ」だけでは片付けられないような気もする。

《不明ではあるが、観察しておいて損はない》

 走り書きを残してノートを仕舞う。
 純粋に優しさを求めて、普通に生きていく。もしかしたら僕は、その生き方を少なからず羨んでいるのかもしれない。

 その日から僕は、暇つぶしがてら氷雨茉宵を観察することにした。
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