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第6章 帝国の野望と変わる世界

第6-6話 聖地レヴィン

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「ヘ~イ! こっちこっち! とてもいい眺めですヨ~!」

「ちょっとフィル抜け駆けするんじゃないわよ! 先に見るのはあたしなんだから!」

「んふふ~、IJNのエンジンでこのフィルに追いつけますか~?」

「くっ……最後は電探乗せすぎてドンガメになってたくせに!
 ほらほら、太りすぎて喫水下がってるわよ!」

「NO!? フィル的に今その話題はCritical Hit!」


「いや~、なんやかんやあのふたりって仲良しだよね~」

 ずずずず……

「ぬほっ!? この舌に残るビリビリ……クセになるっ!」

「ははは……」

「エビルフラワーの花蜜スカッシュ」なるゲテモノドリンクをストローで啜りながら、じゃれ合うセーラとイオニに暖かい視線を送るイオニ。
 彼女は最近キワモノグルメにハマっているらしい。

 僕たちが向かっているのは聖地レヴィンセントラル。

 ”ボトムランドのすべての始まり”と呼ばれる場所で、創世の時代から残る美しい神殿と、大地から湧きおこる七色の魔力間欠泉が見られる場所である。

 アビスホールが拡大するまではレイニー王国でも憧れの巡礼先で、海上交通が寸断された今となっては訪れることが出来なくなっていた幻の観光地。
 僕たち一行は休息日を利用して聖地巡礼としゃれこんでいた。

 常春の国とも呼ばれるレヴィン皇国の空はどこまでも澄み渡り、気持ちのいいそよ風が花の香りを運んでくる。
 半年近く海上生活をした後なので、見るものすべてが鮮やかに映る。

 レヴィンの街から徒歩数時間ほど……水晶のように輝く小さな湖を通り過ぎ小高い丘を越えた瞬間、突然大きく視界が開けた。

「うわぁ♪ 綺麗……」

「いやはや、言葉もないわね」

「Yes、Great!!」

「…………」

 あまりに美しい光景に言葉が出てこない。

 渓谷……と言えばいいのだろうか?
 直径200メートルはあるだろうすり鉢状の大地のくぼみ。
 そこには5本の川が流れ込み、傾斜の緩やかな滝を形作っている。

 くぼみの外周に沿って底に降りるための参道が設けられており、透明度の高い水をたたえた池には、浮かぶようにして小さな神殿が建っている。
 あれがレヴィン皇国始まりの地にしてボトムランドの原点と言われるレヴィンセントラルだ。

「へぇ~、フェドくん物知りだね!
 セーラちゃんとフィルちんは競争だって先に降りちゃったし、わたしたちもいこっ!」

 ぷにっ

 イオニはにっこりと微笑むと僕の手を取る。
 柔らかなその感触と輝くようなイオニの笑顔がまぶしくて、思わず赤面してしまう。

 そういえば今日のイオニはいつものセーラー服姿でなく、清楚な水色のワンピースを着ている。
 いつもと違う彼女の雰囲気に、胸が高鳴りっぱなしの僕なのだった。


 ***  ***

「という事でちょっと俗っぽいんだけど……」

 白銀のホワイトマテリアルの結晶で作られた参道を下り、神殿の前までやってきた僕たち。
 もちろん勝手に神殿の中には入れないのだけれど、入り口には直径2メートルはある大きな水晶球が置かれている。

「望んでいることを念じながら、この水晶に触れると未来を占うことが出来るんだって」

 神殿に祀られているのは、世界のすべてを記録していると言われる”はじまりのクリスタル”。
 その力の一部を利用した”未来視の水晶球”……レヴィンセントラル観光のハイライトである。

 間接的にではあるが、触れた人同士の相性や将来を占うことが出来るので、大陸間の往来が盛んだった時代には新婚旅行で人気の観光地であり……思わぬ相性の悪さが露見したカップル別れてしまうハプニングもあったと伝わる。

 レヴィンセントラル離婚とか、有名だったんだから~。
 ガハハと笑うギルド事務員のおばちゃんの言葉が懐かしく思い出される。

「と、ということで……3人で触れてみようよ」

 僅かに緊張してイオニとセーラに声を掛ける僕。

 なぜこんなに回りくどいことをしているかと言うと……彼女たちと出会ってからもうすぐ一年だ。
 けっこう仲良くなったと自負しているけど、あくまで仲間としてであり……男女として進展したとは言い難い。
 ここいらでちゃんと相性を調べておきたいという奥手な僕の悲しい陰謀である。

「ほえ? せっかくならみんなで同時に触ればいいのに……誰が一番胸が大きくなるかの想いを込めて!」

「ちょっとイオニ! そんなのあたしの一人負けじゃない!!」

「Fuu~? ナルホドっ!」

 いつも通りのじゃれ合いに僕が内心頭を抱えていると、何かを察してくれたのか、いたずらっぽい笑みを浮かべるフィル。

「So cute! フェドはうぶなBabyね!
 ホラホラ! イオニ、セーラ、クリスタルを触って触って!」

「わわっ!? いきなりどうしたのフィルちん!」

 僕の狙いを正確に把握したのだろう、フィルはふたりの手を取ると、ぺチリと水晶球に触れさせる。

 バチン!

 こちらにウィンクを飛ばしてくれる彼女に感謝の祈りを捧げつつ、僕も水晶球に手のひらを密着させる。


 パアアアアアアアッ!!


 その瞬間、水晶球がまばゆく輝き……淡い桃色の紋様が表面に現れる。

 こ、これはっ!!
 古代レヴィン文字をかじっていた僕には分かってしまう。

『3人は相性抜群! 親愛の感情で結ばれています……でも注意! ちゃんとアプローチしないと心の奥の気持ちに気付かないことも。 頑張れ男の子!!』

 ……ティーン女子向けの雑誌に書かれていそうな軽い内容に少々面食らってしまう僕。
 でも良かった、僕たち相性抜群なんだ!

 ま、まあ……ちゃんとアプローチしないと進展しないところはいままで通りだよね。

「綺麗……ね、ね! 結局何だったのフェドくん!」

「なんか妙にこっぱずかしいわね……なんて書いてあったか教えなさいフェド!」

「え、えっと……僕はトランスポーターとして大成し、二人はもっと素敵な女性になるでしょう、だって」

「ほんと~?」

 ふふっ……あの3人はホントに微笑ましいデスね!
 じゃれ合う3人に思わずほっこりしたフィルも水晶球に触れる。
 未来を見せてくれるという素敵な水晶球……フィルの未来はどんなのかな?

 軽い気持ちで水晶球に触れたフィルに見えたのは、思わぬ内容だった。

(これは……なんです?)

 暖かくも、輝かしくもない……妙な胸騒ぎがする混沌のイメージ。
 まったく理解できない情報の渦に、思わず顔をしかめるフィルなのだった。


 ***  ***

 同時刻、レヴィン皇国某所。

「少々手こずったが、何とかなったな」

「はい、これで20基……充分でしょう」

 なぜかお付きの者もつけずに深い森の中にたたずむ皇太子アルバンとカイザーファーマのCGOキユー。
 彼らの足元には一抱えほどの大きさの金属球がたくさん転がっていた。

「これで我儘な精霊どもに振り回されることもなくなりますな」

「ああ、これだけの時間をかけてレヴィンまでやって甲斐があったと言うものだ」

「”本国”から連絡があり、増援の回航も順調……来月には到着するとのことです」

「おお! でかしたぞキユー」
「これもあの幼児姫がルートを調べてくれたおかげだな、精々感謝するとしよう」

「はっ! これで世界の海を統べるのはわが帝国とカイザーファーマになるかと」

「ふふっ、世界に平和をもたらすのはわが帝国なのだ」

 金属球の表面がギラリと光る。
 戦いの時が迫ろうとしていた。
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