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第7章 変わりゆく世界

第7-1話 皇太子の暴走

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「アルバン皇太子、今なんと?」

 アルバンからのとんでもない提案に、思わず自分の耳を疑うイレーネ。

「…………」

 レヴィン女王もこめかみを押さえ、憂慮の表情を浮かべている。

 レヴィン皇国にジェント王国とオーベル帝国の使節団が到着してから1か月余り……。
 当初大言壮語ばかり語っていたアルバンがここ2週間ほどは大人しくしていると思っていたらこれである。

 我々の輝かしい未来に向けての話がしたい、そうぶち上げたアルバンに呼び出され、イヤイヤはせ参じたイレーネが目にしたのは、『アビスホール制圧計画』と銘打たれた山積みの資料であった。

 ここ2週間ほどおとなしかったのはコイツを準備するためか……!
 皇太子の側近にカイザーファーマの幹部、総勢数十人からなる大演説会が始まってしまった。

「ふむ……聞こえませんでしたかな?」
「我がオーベル帝国の総力を挙げて、世界を蝕むアビスホールを制圧すると言ってるのです」
「勝算は10割! 大船に乗ったつもりで任せていただいて構いませんぞ?」

 厳しい表情を浮かべるイレーネたちに、お気に召してないと感じたのだろう。
 ワザとらしく両手を広げるアルバン。

「おっと失礼、我々としても手柄を独占するつもりはございません」
「ジェント王国の潜水艦と……貴国のミカーサでしたかな? 旧式だがバトルシップというギフトを稼働状態にされたのは聞き及んでおります」
「我らの後方支援をお願いする予定ですので、ご心配なく」

 私が心配しているのはそういう事ではない!
 皇族としての衣を脱ぎ捨てて怒鳴り散らしたいところであったが、得意満面のアルバンの弁舌は止まらない。

「さて……我々帝国は、世界最大のギフト所有企業であるカイザーファーマと協力し、アビスホール制圧の準備を着々と進めてきました」
「駆逐艦フレッチャーなどはプロトタイプの一つにすぎません」
「彼女から得たデータをもとに……我々は旧来の大型ギフトとは一線を画した新しいギフトを手に入れました」
「この新しいギフトには、入手が難しく精霊次第で性能が左右されてしまうという問題は存在しません」

「……なに?」

 聞き捨てならないアルバンの言葉に、右の眉を跳ね上げるイレーネ。

 どういうことだ?

 伊402のような大型ギフトも、ギフトの精霊も……存在が確認されたのは最近の事だ。

 それが”旧来”だと?
 アルバンの物言いに違和感を覚えるイレーネ。

「キユー君、詳しく説明したまえ」

「はっ! それでは麗しき姫様方、ここからは不肖キユーめがご説明させていただきます」

 芝居が掛かった所作で壇上に上がるカイザーファーマのキユー。
 ジェント王国で会ったときにも思ったが……この男、気に入らない。
 無意識に自分以外を見下しているように感じるのだ。
 一体何を言うつもりだ?

 イレーネはキユーを睨みつけるが、キユーは気にした様子もなく。

 ぱっ!

 魔法を使い、白銀の間の城壁に何かの資料を映し出す。

「皆様ご存じかと思いますが……我々が所有する駆逐艦フレッチャーには対となる精霊フィルがおり、彼女とフレッチャーは霊的につながっているため不可分の存在と言えます」

「ですが、フレッチャーの性能は彼女の魔力、メンタルなどに左右され……これでは兵器として安定しているとは言えません」

 言うに事を欠いて”兵器”か……情緒豊かで優しいイオニやセーラの事を思い出し、イレーネのいら立ちは募っていく。

「そこで我々は研究を重ね……とある魔法装置を組み込むことにより、フレッチャーの性能を安定して引き出すことに成功しました」
「装置はまだ研究途上であり、アビスホールでの一件では少々ご迷惑をおかけしましたが」

 フィル君のエンジン不調の事を言ってるのだろうか?
 結局原因は分からなかったとフィル君本人は語っていたが。

「流石はボトムランドの始祖と言われるレヴィン皇国です」
「色々と、我々の研究も完成いたしました」

「御覧ください! これが精霊に頼らない我々の新しいギフト群です!!」


 シャッ!


 芝居がかった所作に合わせ、正面の窓に掛けられていたカーテンが開けられる。

 一体何を?
 高台に位置する皇宮からは、レヴィン中央港が一望できるのだが……。

「んなっ!?」

「あれは……!」


 がたん!


 思わず椅子を蹴立てて立ち上がるイレーネと女王。


「ふふふ……」

 耳障りなキユーの笑い声も耳に入らない。
 レヴィン中央港の沖合……どこまでも青い海に浮かんでいたのは。

「駆逐艦が……」

 ロングソードを思わせるスラリとしたシルエット。
 130メートル近い船体は、一般的なボトムランドの船よりはるかに大きい。
 浮かんでいるのは見慣れたフレッチャー級のシルエット。
 問題はその数であり……。


「20隻以上、だと……?」


 驚きの余り、上手く声が出せない。
 語尾を震わせて立ち尽くすイレーネの背後で、アルバンの高笑いが響くのだった。
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